34話 侵入
お久しぶりです!
「やはり目立つナ」
フーガ城へと続く裏通り。子供が水やシャボン玉で遊んでいる声が響き渡り、各家庭、店舗の前に干された洗濯物や水たまりが蒸発して幾分湿度も上がっている。そんな干された洗濯物よりも大分高い位置、正確にはトゥインカの上、に座るメグは周りの視線を一気に集めながらそう呟いた。表通りを避けて誰の目にもつかないように歩くつもりだったが、どうやら裏目に出たらしい。
そもそも、使いだと思われるこの鳥の動きがいちいち大袈裟で、それが逆にこの注目に繋がっているとメグは睨んでいる。
「メグ、さっきから悪目立ちしすぎているし本当にその鳥で合ってるノ?もしかして違う鳥だったりしないかシラ?」
ベラの発言にもしかしたら自分たちとは無関係の鳥なのでは?、と思考が過ぎる。そう思って確認のためにトゥインカを異なる方向に歩ませようとするも、目的地は一致しているのかすぐに中心部であるフーガ城の方へと方向転換しているのでメグはひとまずその線はないと考えていた。
ならばなぜこのような目立った行動をとるのか、と考え出したがトゥインカは自分は関係ないとそっぽを向いてる間に近くの洗濯物に引っかかっている。
まとまらない思考に入り組んだ路地。自分たちの状況を悪化させる鳥。
「悩んでも仕方がない。迷ってしまう前に聞いてしまオウ」
「でも私たちの正体がバレたラ?」
そんなベラの懸念に対しメグは首を横に振る。
「今は早急に目的地にたどり着くことが大事ダ」
自分たちが侵入していることは遅かれ早かれバレてしまう。ならば多少荒くても時間内に仕事を終わらせることが最優先だ。そう、判断したメグはなりふり構わずに近くにいる人に尋ねることにした。
「すみませン、アントワンヌ様に会いたいのですがどちらへ向かえばいいデスカ?」
侵入者あるまじき行為にベラが冷や汗をかく。
「えっ?」
いきなり身分不明の自分たちに声をかけられた女性が眉をひそめた。
もしやこのまま侵入者であることがバレるのではないか?、その場合自分たちはどう対処すればいいのか、とベラが考えている束の間。声をかけられた女性は品定めをするかのように二人と一頭をサッと一瞥するとそのまま怪訝そうに口を開いた。
「もしかして国王帰還パーティーのゲストの方々ですか?」
「そ、そうデス!」
食い気味に返すベラにビクッと跳ねた女性。女性は二人に道を教えるとその場を去っていった。
◇◇◇
オジー王国フーガ村の城の最大の特徴といえば城と村の境がなく、堀や外壁などの特別な警備は一切ついていないことが挙げられる。なぜなら村そのものが城の管轄にあり、村全体を結界で覆った特殊な造りになっているからだ。結界はあらゆる侵入者を感知し、敵の攻撃を防ぎ、いざという時はフーガシャワーの雨の際に溜め込んだ魔素を一気に放出して反撃出来る非常に籠城に適した構造になっている。周りが砂漠な上に外壁がないので見通しがよく、一見遠距離攻撃や侵入者などを許しそうではあるが、前者は城からの眺めもいいため、いかに腕のいい狙撃手でもすぐに見つかってしまい、後者は結界にかけられた魔力感知機能によって城に辿り着く前に捕まってしまう。そのため、大軍に押し寄せられた過去がフーガ村には多々あったが未だかつて破られたことがない無敵の要塞を誇っていた。
そんな訳で城の中で働いていた使用人や姫君たちほとんどが侵入者に気づかなかったことはほぼ必然といえる。まあ気づいたところで元がメスライオンの二人にかかれば突破は容易に出来たであろうが。
「さてと、この大きな鳥はどうスル、メグ?」
トゥインカをチラッと見ながらベラは尋ねる。二人にとってここで問題なのはその圧倒的な存在感を放つトゥインカだった。扱い方がイマイチよくわからないのもさることながら、この目立つ鳥をずっと側に置いていれば誰かに見つかった時に対処が遅れてしまうだろう。
「殺すのはダメヨネ?」
「ダメよ、リスクが高イワ」
メグが独り言に近い物騒な返事をすると、ベラは流石に今殺したら血の臭いが目立つ上に返り血を浴びた自分達が更に注目を集めてしまうと考え、その提案を却下した。すると、名案を思いついたとばかりに目を開いたメグは指を鳴らした。
「じゃあ陽動に使うのハ?」
「うーん、まぁ、存在感もあるシ。そうね、そうしましょウ」
他にいい考えがあるわけでもないし、そもそもこの鳥とは目的も違うので、このまま別れて、村の通りでやっていたのと同じように目立ってもらえばいいかな、と考えたベラはトゥインカにかけていた紐を解いた。
クケェ?と首を傾げながら二人の様子を見守るトゥインカ。
メグとベラはトゥインカを適当なところに放して別れるとそのまま城の内部に進んでいった。
「あら、お客さんね」
その様子を黒髪の美女がじっと見ていたということも知らずに。
◇◇◇
気配を消し、足音も立てずに廊下を渡るベラとメグ。どうやら城の中が騒がしくなってきているようで、使用人ら様々な女性が行き来しているのを隠れてやり過ごしながら二人はアントワンヌを探していた。その探査速度は電光石火の如く早かったが、何しろ部屋という部屋をしらみつぶしに見て回るのだから効率が悪い。だが、上の階へ、上の階へと上がっていくうちにいつしか二人は確実にアントワンヌとの距離を縮めていた。
まだバレていないのであれば大広間ではなく寝室などの個室にいるに違いない、とヤマを張って重点的に攻めていく。部屋の中にいる人の所在の確認をメグが、何者かが近寄ってこないかの確認をベラが分担して進んでいくと、ようやくメグがアントワンヌのいる部屋を発見した。
「やっと、見つけたワ」
メグがベラにサインを出して、すぐに突入できるように部屋の前で待機をする。まるで二人を誘い込むかのように開いたドアの隙間からベラが部屋の中を覗くとそこには黒髪の女性の後ろ姿があった。
ドクドク、っとさっきまで感じてもいなかった自分の心臓の音をベラは感じていた。
唾を飲み込み、息を整えて獲物に全神経を向ける。左の薬指にはめた指輪に手を触れメスのライオンへと変身する。
「行くわヨ」
メグも同様に変身すると、二人は気づかれないように部屋の中に入っていった。
ここで重要なのはもし狙っていたものが別の人であれば、その時点で二人の任務は失敗であったことだろう。
「二頭のメスライオン……ね」
なぜなら捕獲対象に二人の行動はバレバレだったのだから。
「はじめまして、待っていたわ」
その証拠に黒髪の美女、アントワンヌは二人が背後に立っていたことに驚きもせずに楽しげに振り向いた。
血痕のような斑点のついた蜘蛛の姿へと変貌を遂げながら。
今回は少し展開を急いで書きすぎたかもしれませんがどうか大目にみてください!絶対にエタりません!




