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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第一章 オカリナ遺跡編
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8話 食事

 軋むドアの音と共にバタン、とドアが閉まる。静々と滑らかな動作で黒髪の女性、アントワンヌはかずやの正面の椅子に腰を落とした。未だにかずやは下を向いたままで黙りこくっている。緊迫しているのかただ空気が重いのかよく分からない雰囲気の中、アントワンヌがその悪いムードを吹き飛ばすような言葉を発した。


「いきなり聞いたら混乱するかもしれない、だが聞いてくれ。まず始めに君はこの世界の人間じゃない」


 かずやの目が大きく見開かれる。まるで何もない地面から地雷が突然爆発したかのような感覚にかずやは思わず立ちあがった。先ほどまでの暗い表情はどこへ行ったのか、彼は暗闇の中で小さな光を見つけたかのような希望に満ちた興奮気味な顔をアントワンヌに向けていた。あまりの態度の変わりように一瞬ピクッとなったアントワンヌはコホン、と小さく咳払いし話の続きを語り出した。


「そもそもおかしいと思っていたんだ。魔力もない君が結界を破壊出来る訳ないし、第一何も身につけていなかった君に危険があるはずがないしな、ハハハ」


 前に会った時とは違い、やけに明るい声で話すアントワンヌに何かが喉に詰まったかのような妙な違和感を覚え、かずやは思わずきいた。


「アントワンヌ、さんですよね……?なんか話し方とか雰囲気が以前と違うような……?」


 すると、明るかった態度を豹変させ、今度は低い真剣味を帯びた顔で口を開く。コロコロ変わる態度や言葉遣いに対応が追いつかず狼狽えてしまうかずやだったが、アントワンヌの目線が真っ直ぐに彼の目を捉え自然に自分の背筋を伸ばしていた。


「それらを含めて君といろいろ話がしたい。だが、その前に夕食を摂るとしよう」


 一瞬呆気にとられたかずやは身構えていた体をほんの少しだけだらけさせる。その途端グ〜ギュルギュル、と誰かのお腹がなった。それが自分のものだと気付いたかずやは先ほどとは別の理由で俯いてしまう。オレンジ色に輝き始めた夕陽のせいかどうか、心なしかかずやの顔はほんのり紅く染まっていた。



 ◇◇◇



 太陽が地平線に差し掛かる頃、城内では荘厳で煌びやかな美しい色とりどりのドレスに身を包んだ華やかな女性達が大きなテーブルを囲み談笑していた。輝かしいシャンデリアの明かりと、香ばしい数々の料理の香りに包まれて皆とても楽しそうにしている。そんな中一人暗い顔でブツブツと嘆いている男がいた。そう、竹田かずやである。


「あぁ〜。なんでこんな事になってんだろ」


 落胆に近い諦めの色に染まった重々しい吐息が漏れる。かずやがこの世界に来て二週間。未だに夢を見ている感覚だったが、自身の身につけているものや時折痛む筋肉にここが現実だと再確認させられた。


「どうしたの、大丈夫?」


 声をかけられ顔をあげると五歳くらいの丸顔の少女がかずやの顔を覗き込んでいた。首を斜めに傾け少し見上げるように彼をを見るこの子供は女性なら思わず抱きしめたくなるような可愛さがあり、かずやでさえ思わず庇護してしまいたい欲に駆られる。


 しかしかずやは彼女の後方、正確にはこの広間の入り口にかかる垂れ幕に視線を向けると先ほどと同じようにまたガックリと首を垂れた。女の子の上に疑問符が浮かぶ。突然の事に対してなにをすればいいのか分からないのだろう。おそらくここにいる誰もがかずやの気持ちに気づいてはいない。それもそのはず。なぜなら彼女達が考えている事とかずやが考えている事は全く違うからだ。


「はぁ……。なんでこうなったんだろ?」


 かずやは今日まで起きた事を思い返していた。しかし、どう考えても今のこの状況と結びつかない。天井から垂れ下がる二つの垂れ幕には大きくこう書いてある。

 一つは【おかえりなさい、お父様】。

 もう一つはーーーーーーーーーーーー















 ーーーーーー【かずやの婚約者を決めるパーティー】である。



 ◇◇◇



 俺が案内されたのは小さな部屋だった。いや、和室みたいな洋室と言ったほうが正しいのかもしれない。床は畳みたいな素材だけど緑ではなくこげ茶色。壁は白で統一されていて色合い的にどちらかというと和室というより洋室に近い。しかし中央には座布団が敷いてあってテーブルも床に座って食べる為のものだ。


 とりあえずそこにあった藤色の座布団に座る。もちろん正座だ。さっきまで思い切り取り乱していたからこうゆう時ぐらい少しでも理性的なところをアピールすべきだと思う。アントワンヌさんも俺の正面に座った。


 不思議なことにアントワンヌさんは真っ黒のドレスに身を包んでいるにも関わらず、その座った時の佇まいはまるで料亭の女将さんのように力強くもおしとやかで思わず見とれてしまった。


「フフ、口が開いてますよ」


 どうやら俺はポカーンと口を開いていたらしい。慌てて口を閉じる。それにしても雰囲気とか言葉遣いがコロコロ変わるなぁ。多重人格かなんかかなと思っていたらドアが開いて、白い湯気と共に料理が運ばれてきた。新鮮な海の香り。多分魚だな、と思っていたら案の定テーブルの上に置かれたのは鮮やかな青い鱗に包まれた白身の魚だった。そしてご飯は…………あれっ?黒くね?


 そこには文字通り真っ黒の、しかしどう見てもご飯にしか見えないふっくらした食べ物が白い湯気をたてながらその存在をこれでもかとアピールしていた。

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