33話 泉での戦い
お久しぶりです!最後の投稿から大分経ちましたが、久々にあげてみることにしました。楽しんでいただけると幸いです!
「アイゼン……。ソウカ。オ前ノ差シ金カ」
アクアヒールがアイゼンの姿を視認すると、かずやに対する攻撃の手を緩めた。水に濡れて逃げ出したのちに何故か転けたかずやを一瞥し、その後ギロリとアイゼンを睥睨したアクアヒールは苛だたしげに愚痴をこぼす。
「男ハ今後一切立チ入リ禁止ダト言ッタハズダガ」
般若のように表情を変化させたアクアヒールは少量の魔圧をアイゼンだけに放ちながら威圧する。
「まだアントワンヌの件に関して根を持っているのか?」
たらりと額から汗が流れ出る。呆れの溜息が漏れでると同時に魔圧にやられないように踏ん張るアイゼン。
アントワンヌがまだ蜘蛛だった頃。魔の森にはアクアヒールを中心にたくさんの魔物が生活していた。当時から輝かんばかりの美貌を振り撒いていたアントワンヌに惚れるもの、好感を持つもの、求婚をする者は数多く、アクアヒールもその内の一羽だった。だがしかし、森のマドンナであるアントワンヌが最終的に選んだのはどこの馬の骨とも知らないアイゼンだったのだ。
幾多の困難と衝突を乗り越え、アントワンヌを妻に迎え入れる際、アイゼンとアクアヒールは口約束と言う名の契約を交わした。
二度とこの泉に人間の男を近づけないと。
「今はそれどころではない。あの者達を捕らえる必要があるのだ」
だが状況は変わった。アントワンヌが誘拐されそうになったのもそうだが、今回の件にはあの国境線の盗賊団が一枚噛んでいるのだ。そのチャンスをのがす訳にはいかない、と説明しようとするも頑固で頭でっかちなアクアヒールにはアイゼンの言葉に耳を傾ける様子はない。
「契約違反ダ。人形二似セタ人間ヲ送ルナド小賢シイニモ程ガアル。サッサトアントワンヌヲ解放シロ」
それどころかアクアヒールは数えきれないほどの水の魔力を練り上げると、アイゼンに向かって解き放った。
「邪魔をするな、アクアヒール。俺の話を聞け」
それを器用にかわしながら説得を試みるアイゼン。敵は国境線の盗賊団で、アントワンヌが狙われていること、国宝庫の鍵を望んでいること、さもなければ一応、そこの人間の男が殺されることを伝えるとアクアヒールは余計に怒りを募らせてこう告げた。
「アノ男ノ命ナドドウデモイイ。ソレヨリモ、アントワンヌヲコンナ状況ニ追イ込ンデオイテ何ヲ今更弁解シテイル?ヤハリオマエハココデブッ倒ス」
聞く耳を持たないアクアヒールは周りの被害などそっちのけで、大規模な魔力を練り上げると所構わず放散した。
「くっ、カホ。そっちは頼んだ」
流石に周りの被害を気にしていられるほどの余裕が無くなったアイゼンは、カホに他の人たちのことを一任すると、アクアヒールとの戦闘に集中しはじめた。
一度目を閉じ、深呼吸をして無駄な神経を使うのをやめるアイゼン。目を開くと同時に左手の指輪に手を触れると、アイゼンの真っ直ぐにピンと伸びていた背骨は曲がり、身体中の産毛が逆立ち、かと思いきや、そのまま産毛が全体を覆うように伸びていった。爪が伸び、牙が生え、瞳の色が黄色に染まるとアイゼンはオオカミのような出で立ちで前足を地面につけながら地を揺らすような雄叫びをあげた。
「王族に喧嘩を売ったことを後悔するんだな」
「久方ブリノリベンジトイコウカ」
それに応えるようにアクアヒールが甲高い咆哮をあげる。その声を皮切りにアクアヒールの泉での戦闘が始まった。
◇◇◇
「まずはこの状況をどうにかしなきゃ」
アイゼンにこの状況の対処を頼まれたカホは次の行動を決めあぐねていた。というのもアクアヒールのデタラメな魔力の噴出により物理的に身動きが取りにくい上に、チャイやかずやなどの人質のことやノワキなどの非戦闘員の避難法などを瞬時に考える必要性が出てきたからだ。
こちら側の戦闘員はカホ、マイ、マキの三人に加えロックとサインの二人だが、男の二人はさきほどの魔圧にやられ身動きを取りづらそうにしている。
いくらバーチャマが結界の天才でも全員分の結界は展開出来ないし魔力の維持も容易くない。
どうするかと考えていると、バーチャマが助け船を出すように全員に指示を出した。
「アカリはノワキを連れて私のところへ!私たちのことは自分でどうにかするからカホはあの小僧のことを考えんしゃい!マイとマキはロックとサインを安全な場所に避難させた後にカホのサポートにまわるんじゃ!」
この状況下で的確に指示を出せるバーチャマの手腕に舌を巻く。だが、それよりも自分の中で優先順位が決まったことで次の起こすべき行動に目星をつけたカホは今一度状況の確認に努めた。
見たところこの混乱に乗じてかずやが逃げ出すことに成功したものも、気に足をとられたのか小さな小石に躓いて盛大に転んでいる。
不思議なことにアクアヒールの魔素に当てられてもビクともしていないようで、目立った軽傷は見当たらない。いや、今の転倒により膝小僧を擦りむいてはいるがあんなものツバをつけておけば治るような些細なものだ。
すぐに木々が生い茂る森の方向へ避難させればかずやの無事は確保されるだろうが、問題なのは蛇男と、チャイを胸に抱えた烏男だろう。
どうやって切り抜けようか、と考えているとマキが自分の仕事を終えてこちらにやってきた。
「カホ姉様。私があの男を引きつけている間にかずやさんの救助をお願いします」
マイがサインに肩を貸している間にロックに自分のことはいいから早くいってください、と言われたらしい。
状況が状況なだけにその心遣いはありがたかったのだが、ロックの余裕な態度にどこか引っかかりを覚えたカホ。しかし、今はそれどころではない、と頭を振るとマキに蛇男を任せてかずやの方に向かった。本当ならチャイを助けてからかずやの方に行くべきかもしれないが、方や相手の腕の中、もう片方は転んでいるとはいえ敵からは離れている。どちらの方がより確実に助けられるのかは一目瞭然である。
かずやの側に駆け寄ったカホはそのままかずやを担ぎ上げるようにして抱えるとそのままアクアヒールや蛇男達から距離を置くように遠ざかった。
去り際にマキと蛇男のやりとりが聞こえてくる。
「……。アクアヒールを目覚めさせるために人間の男を連れてくるトハ」
「何言ってんの?あんた達がかずやさんを連れてきた時点でアウトよ」
「あっ……」
敵がどこか抜けてるこの調子ならチャイの救助を優先してもよかったかな?と思うカホだった。
次回がいつになるか分かりませんが、完結するまでは書き続けるつもりなので何卒よろしくお願いします!それでは、また。




