32話 ファーストコンタクト
比較的早く更新出来ました。
注 動物を小馬鹿にする描写が入っていますので動物好きな方ごめんなさい。
先ほどまで自分を拘束していた蛇が俺を解放したその後。命が繋がったことに喜びを感じながらも俺を助けてくれた人物を一目見ようと視線を向けると、そこには水色のベールに身を包んだ白鳥がいた。どれだけ水色かというと無色透明の水にほんの少しだけ青い絵の具を垂らしたような色といえば分かりやすいと思う。つまりほぼ水だ。
確認したところ、その水のようなものが俺の首に巻かれたとぐろを掠り、拘束を解いた訳だが、驚くことに間接的に触れていた切り傷からの出血が止まり、更には傷跡でさえ跡形も無くなっている。
「不完全ナ人ノ契リヲ結ンダ愚カナ蛇ト烏ヨ。ナニユエココデ変ナ人形ト戯レテイルノカ答エロ」
信じられないことを経験した俺が自分の首元をペタペタと触る間、白鳥はお構いなしにと偉そうにのたまう。
まるで機械のような声と、告げられた不完全な契りや変な人形といった話の内容が気になったが、それよりも印象的なのは目の前の蛇ともう一人の男の方だ。
ただでさえ白い顔面を蒼白にした彼は恐れ多いといった様子で、水色の白鳥に指を向けながら震える声で言葉を絞りだしていた。
「泉精霊アクアヒール、だト⁈」
泉精霊と呼ばれるだけあって神々しい圧を放つ白鳥改めアクアヒール。跪け、ひれ伏せ、と言わんばかりに顎(?)をクイッとあげ俺たちを高い所から見下ろしている。
「フーガシャワーの雨が過ぎた今、後一日二日は目覚めないはずなノニ」
なんでフーガシャワーの雨が過ぎると活動しないのか疑問に思ったが、考えていられる暇は現在なさそうだ。現に、烏と呼ばれた男の言葉にやや苛ついたのか、アクアヒールが一瞬目をギラつかせると荒々しく怒鳴った。
「アレダケ騒ガシケレバ日暮マデ寝テイラレル訳ガナイダロ。イイカラハヤクコタエロ」
「この男を、人質に、して、イ、ル」
その怒鳴り声に蛇、烏とその腕に羽交い締めにされているチャイが影響を受けたのか怯む。なんとか放った一言も息が絶え絶えで苦しそうだ。
どうやら先ほど放った圧が後を引いているようだが、俺には全くもって感じられない。いや、急に蛇達が怖がった姿に違和感は覚えたが、何と言うかこう、自分一人だけ面白い話を聞き逃した時のような疎外感があった。
まぁ、でも影響受けてないだけラッキーかな、ぐらいに思っているとそんな俺に気づいた烏おとこが焦ったように俺に声をかけた。
「なんでお前が泉精霊の魔圧に耐えられるんダ⁈」
新たに魔圧とかいう気になる単語が飛び出たがそれはさておき、俺の身体には何の変化も被害も見られない。
いや、むしろなんでお前達はうずくまっているんだ?と声をかけようとしたその時。
アクアヒールが突如首を傾げて俺を見つめ、何かを調べるように俺の頭のてっぺんからつま先まで視線を動かした。
その後、一瞬驚愕に染まるというかビックリするくらいにくちばしを開き、(水のベールに包まれているから見えるはずがないが)冷や汗(?)みたいなものを額から流すアクアヒール。
プルプルと震えながら、器用に翼で拳を作ると言葉を発した。
「ナンデ人形デハナク人間ノ男ガイルンダ〜!!」
アクアヒールが甲斐甲斐しく泣き叫ぶ。えっとそもそも人形だと思っていたのか?、と思っていた矢先、前方から水が飛んできたかと思いきや、何故かアクアヒールの拳が俺の顔面に炸裂した。
一瞬ビックリするも成分が水だからか痛みを全く感じない。いやむしろ夏だからかほのかに心地よい。しかもそれを何度も打ってくる始末。
どうやら男を毛嫌いしているようだが、過去に何かあったのだろうか?何度も顔に水を浴びながら冷静に状況を判断する俺と、対照的に躍起になって殴りかかるアクアヒール。
それそろやめてくれないかな、とか思いながら水を受けていると、遠くから知らない声が聞こえてきた。
「待て。アクアヒール」
現れたのは二メートルはあるであろう巨体から威圧感を放つ男。
「アイゼン……。ソウカ。オ前ノ差シ金カ」
オジー王国の国王ことアイゼン・オジーと俺のファーストコンタクトの瞬間だった。
◇◇◇
(くそっ、何でこんなことニ!)
蛇男ことガレはアクアヒールの暴走とアイゼンの登場に、生殖器の痛みを抑えながら、心の中で悪態をついていた。
そもそも事前情報が間違っていたのだ。
まずは泉精霊アクアヒール。本来ならフーガシャワーの雨の後、数日間眠りについているはずのそれがなぜか既に目覚めていたのだ。本人は周囲がうるさいからわざわざ起きてきたことをほのめかしていたが、はたして本当なのだろうか?
いくらアクアヒールとはいえ、例え捕虜があんなに騒いでいたとしても影響は受けないと思われる。フーガシャワーの雨が過ぎ去った翌日にアクアヒールが覚醒する話は過去に一度もなかったのだ。
つまり別の要因があると考えるのが賢明だろう。
ガレはない知恵を絞り込みながら、ある一つの考えに思い至った。
泉精霊アクアヒールは人間の男を極端に嫌っているときく。
動物のオスならともかく男は立ち入ることすらできない場所に他ならぬ王自らがやってきたことを考慮すれば、オジー王国国王のアイゼンがアクアヒールを無理矢理その眠りから覚ます為に自ら出向いたというのが理由であると感じられる。
(やるな、人間の王ハ)
元々、王族に対して、脅迫状に近い置き手紙を置いていったのも事実。アントワンヌ本人がのこのことやってくる訳がないにせよ、娘の誰かが代わりに来ると思っていたガレは内心で舌打ちをしていた。
(流石に侮りすぎてイタカ)
元が人間ではなくヘビだったガレであるから人間のように知恵が回らないのも仕方ないのかもしれない。
幸いだったのは、アクアヒールの魔圧が動物に対して意外にも効果が弱めだったことだろう。
よって比較的に早く復活したガレは周囲の様子を見つめながら状況を素早く確認していた。
(男4人に女が5人カ。不利ダナ)
ガレとしては本来ならアントワンヌと鍵、それと数人の従者か誰かだけが来る算段でここまで来たのだ。
人間の男達はアクアヒールの魔圧に苦しんでいるようで放っておいても構わないだろう。ここまでは国境線の盗賊団の幹部を自称するあの女の言った通りだ。国王アイゼンは計算外だったが、見たところアクアヒールと因縁がありそうなので、一番厄介な相手との戦闘は避けられそうだった。その証拠にアクアヒールは怒りの矛先を国王アイゼンのみに集中させてあの暴力的な魔圧を放っている。
予想外だったのは昨日の今日で女戦士をこれほど揃えることが出来たことだが、こればかりは敵の手腕に感心するしかない。ガレもまさか実は王族の娘が戦闘経験を積んでいるとは思わないだろう。それ以前にこの娘達が王族と血が繋がっているとは知る由もなかった。
烏男である相方、ゼノも元が動物だからか既に体勢を立て直していたが、同時に暴れるネコに手こずっているようで、早速戦闘は難しそうだ。
(あの小さな娘らは問題ナイ。ネコに対してブンブンと手を振るあいつも大丈夫ソウダ。問題は俺たちを一度つけてきたプラチナブロンドの女と、実力が分からない老婆ダナ…)
そんなことを考えていたガレは一旦思考を切ると、女達に対して威嚇行動に入った。とぐろを巻き舌をチロチロと出し入れしながらゆらりゆらりと身体を揺らす。一瞬の隙も見せられない今、早速取引など無理、人質交換などもってのほかである。動物らしい短絡的な思考を持って、良く言えば本能的にそう判断したガレは久方ぶりの戦闘に心を躍らせながら敵を睨みつけた。
その時、視界の隅に映り込んだのは先ほどアクアヒールに濡らされていた人間の捕虜、かずや。
不可解なことにアクアヒールの魔圧や魔素を十分に溜め込んだ水の波動を受けたにも関わらず、何事も無かったかのように立ち尽くしていた人間の男だ。
さて、こいつをどうするか、と思っていたら、何を考えているのか、いや寧ろ今をチャンスと感じ取ったのか、またもや脱走しようと走り出していた。
しかもいつの間にか縄抜けまでして。
(こいつも脅威二………ア)
と思うが矢先、かずやは勢い余って道端の石に躓いて転んでいた。
やっぱり今の考えは取り下げよう、とガレは思った。
ガレは人の話を聞かないやつなんです。
かずや君はお察しですね。
話の中の誤字脱字、矛盾点なんかは章が終わった際に直します。ご了承ください。
次回はいつになるか分かりません。今後もよろしくお願いします。それではまた。




