表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第二章 オジー城編
87/95

31話 侵入者の動向

お久しぶりです。本当遅くて申し訳ない。

 フーガシャワーの雨が過ぎ、あちらこちらで水たまりが目立つフーガ村。子供達がぴちゃぴちゃと跳ねては服を濡らし、その都度母親らしき人物に叱られている。村全体では、フーガシャワーの雨が止んだ後の村の風習で、まだ暑過ぎない午前中にと女性達がバケツなどに溜めた水を使ってあちらこちらで洗濯や宴用の食器などの洗い物をはじめていた。

 住宅地では各家庭の衣類が、中心部の広場では簡易テントなどの比較的大きな布や絨毯などが物干し竿や紐などに天日干しされている。そんな中、フーガ村中心部でメグとベラは周囲の人間と同じように、フーガシャワーの雨の残り水で洗濯をしながら辺りにとけこんでいた。


「どうするノ、メグ?声をかけてミル?」

「やめましょウ、ベラ。まずは様子を見るのが先決ヨ」


 取引先が指し示した時間より早く着いたベラとメグは、待ち時間の間、人の注目を集めることなく、更に警備員から受けた返り血を違和感なく落とす方法として洗濯を選んでいたのだが、実はメグとベラは仕事をする相手の顔が分からず、誰に話しかけるのか迷っていた。

 と言うのも、取引先と待ち合わせをする際場所と時間は指定されたものの、どう落ち合ってどうお互いに合図を送り合うのかを具体的に話し合っていなかったのだ。


「使いの鳥を送るから中心部で待っていなさい」


 取引先に最後に告げられた言葉から、唯一の手掛かりは使いに寄越されるという鳥のみ。

 よって大体の目星をつけて声をかけようとしたのだが、如何せん内容が内容だけに気軽には話しかけづらい。流石に道行く人々に、あなたもアントワンヌ様を攫いにいらっしゃったのですか、とは尋ねられないだろう。それどころか、どんどん賑やかになるこの人混みと段々と増えていく干された布のせいで隠れるのは簡単でも誰かを探し出すのは容易ではなくなってしまっていた。


「あのダチョウはどうカシラ?」

「さっきからあの大きな布に包まって城を見上げてル?」


 物干し竿になりきろうとしているのかフード付きのローブを羽織るように文字通り頭隠して尻隠さずを体現しているダチョウを指差してベラはメグの反応を窺う。メグが少し考えこみながら手を止めていると、少し離れた場所で洗い物をしていたおばあさんが二人に声をかけてきた。


「おはよう、お姉さん達。洗濯ははかどってるかい?」


 突然声をかけられてびっくりした二人だったが、単なる世間話だということに気づいた二人は満面の笑顔で会釈するとそのまま作業に戻った。しかし何を思ったのか、おばあさんは近寄りながら二人の洗濯物を覗き込むと、少し懐疑的な様子で二人を見つめた。


「血抜きかい?お姉さん達まさか!!!」


 一瞬、警備員に危害を加えたことに気付かれたかと焦るベラ。メグはそんな素振りを見せることなく淡々と洗濯を済ませると小声で耳打ちするように返答した。


「実はアレの日なんデス」


 メグが自分達のアクセントが他の国の者だとバレないように自然に無声音を使うところに内心、感心していたベラとは反対におばあさんは心底残念そうに眉尻を下げて同情してくる。


「あら、そう……。これから男達が帰ってくるのに時期が悪かったわねぇ」


 コクリと頷いてその場をやり過ごしていると、少し遠くからターコイズ色の髪をした少女が駆け足で近づいてきた。


「ミサおばあちゃん、これでどう?」


 手に洗いたてのビンを持って恥ずかしげに見せる少女。ミサ、と呼ばれたおばあさんは水気を切りながらガラス製のビンを日の光に透かした。


「流石ね、イツキちゃん。倉庫のビンがあっという間にピカピカだわ」


 惚れ惚れするほどにキラリと光を反射するビンにミサが片手を頬に当てながら感心する。


「もうあと少しで全部終わるよ」


 ミサの褒め言葉に気を良くしたのか、イツキと呼ばれた少女が小さく胸を張りながら仕事の進行具合も報告する。


「こんなに早く終わるなら店の前でやっても良かったのにねえ。わざわざこの広場まで持ってきてもらってさらにビンまで全部洗ってもらっちゃって本当に助かるわ」

「ううん。いいんだよミサおばあちゃん。ウチは楽しかったし。それに職人さん達に店の前は貸しちゃったからね」


 二人のやり取りを傍目に見送りながらメグとベラは二人に勘付かれる前に離れてしまおうと洗濯を済ませていると、メグとベラがやや急ぎ目に作業しているのに気づいたミサがその場を去ろうとする二人を呼び止めた。


「ところであなた達二人あまり見ない顔だけどもしかしてあのダチョウの飼育員とかかい?」


 ギクリとベラの心臓が鳴る。さっきからやることなすこと考えること全て見透かされているようで不安に苛まれる。しかしメグにとってはむしろ逆だったようで、チャンスと言わんばかりにミサの目を見つめながら返答した。


「そうデス」


 元々ダチョウに声をかけようとしていた上に、自らの化けの皮が剥がれる前にこの状況から抜け出したかったベラにとってこの展開は一石二鳥かつ願ったり叶ったりだった。よって嘘を貫き通そうと視線を逸らさずに微笑んでいると、ミサはふっと表情を緩めながら確認するように尋ねた。


「あらまあ。じゃあもしかして国王帰還パーティーの催し物の準備かしら?」


 頬に手を当てながら首を傾げるミサ。

 国王帰還パーティーとはアントワンヌのアイデアによって生まれた、文字通り国王であるアイゼンが、首都アトラスから後宮であるオジー城フーガ村に帰還する際に行なわれる身内のみのパーティーである。アイゼンとアントワンヌの間に子が生まれてから毎年、夏の来訪もとい、祝日である家族記念日に合わせて企画されている催し物は多種多様で、ある年は姫君のみの合唱コンサートが開かれたり、またある年は特別なゲストを招いてパフォーマンスを観せてもらったりと様々だ。

 そして特に国王に好評だったパフォーマンスは、フーガ村中央広場に作られる特設ステージで披露されるところまでがもはやお決まりとなっている。


「そんなところデス」


 適当に話を合わせて場を切り抜けたメグは洗い終えた服を近くの紐にかけるとそのままミサから離れるようにダチョウの方に近づいていった。


「さあ、アントワンヌ様に会いに行くわヨ」


 飼育員を装いダチョウ、トゥインカの首元を撫でるメグ。一瞬、肉食獣に睨まれた時のような本能的な拒絶反応を示したトゥインカだったが、メグの発したアントワンヌの名前に興味を持ったのか、会話を返すように鳴いた。


「クケェ?」


 トゥインカとメグの視線がかち合う。以心伝心と言わんばかりに一頭と一人が同時に頷くと、トゥインカはメグに対しまるで自分に乗れとでもいうかのように恭しく頭を下げた。

 意図を理解したメグが軽い身のこなしでトゥインカの上に乗る。

 それを見たベラもメグと合わせるようにスッと立ち上がり、軽くミサに一礼をしすると、その場を離れてーーー


「ちょっと待って!」


 ーーー行こうとした二人をミサが呼び止めた。

 流石に違和感があったかと身構えるメグとベラ。幸いなことに周囲には自分たちが隠れられるくらいの量の布があり、一目に晒されることはない。最悪、強行手段を取ってでも突き進む覚悟で振り向くと、


「洗濯物が乾くまで私が見張っていてあげるから、アントワンヌちゃんによろしくね。家族記念日で見られる事を楽しみにしているわ」


 ミサはなんでもない、とばかりに見張り番を買って出た。自らが想像していた通りにならず、案外簡単に事がすんだことに対しどこか拍子抜けした様子になる一頭と二人。完全なる証拠隠滅をしようと思っていたが、これはこれで罪の濡れ衣を着せられるチャンスではないか。そう考え、結果オーライか、と心の中で思ったベラとメグはそのままミサに礼を述べながら城に向かって歩きだした。

 彼女らが去った後、イズミはどこか心配げな表情を浮かべながらミサに問いかける。


「ミサおばあちゃん。二人の事、やっぱりウチがお母様に言ってきたほうがいいかな」

「いいえ。あの人達はとってもいい人達よ。年の功か女の勘かは分からないけどそんな気がするわ。あんなに堂々と嘘をついていたのにも何か事情があったんでしょう」


 怪我しているのを隠すくらいだもの、とミサは内心思いながら洗濯物を意味深に触る。えっ嘘?何?と少しパニックなっているイツキとは裏腹に、ミサは確信を持った表情で小さくポツリと呟いた。


「それに。何かあってもアントワンヌちゃんなら大丈夫よ」

今度は出来るだけすぐ更新するつもりです。またオジー王国の謎をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ