25話 アイゼンの葛藤
かずやが元囚人と話すひと時ほど前。暁闇の頃。
男衆の野営地ではアイゼンら数名が一つ火を囲んでこの度の作戦を練りながら、その作戦の主軸となるであろうメンバーの到着を待っていた。
「ノワキよ」
「なんでしょう。アイゼン様」
どこか落ち着き払ったオジー王国第三国王、アイゼン・鉄狼・オジーの呼びかけに頭を下げながら応える枯れ木のように細い彼の右腕ノワキ。
アイゼンは一瞬くぐもった表情を作りながらも崖の向こう側にあるフーガ村の方に顔を向けるとそのまま作戦自体に不備なところがないか彼に確認をとった。
「作戦は班が到着次第決行とするが問題点はもう無いな」
「そうですね。完璧かはともかく最善と言えるでしょう。人選の方にやはり不安な点は残っていますが、あの泉の性質上いた仕方ないことです。その上奴らの狙いが不確定である以上、こちらもリスクを取らざるをえない状況だっただけのことではないでしょうか」
ノワキの若干辛口で尚且つ分析を交えた発言にアイゼンはうむむ、と腕を組みながら唸っていると、脇で二人の会話に耳を傾けていたバーチャマがいつものように優雅に笑いながら彼らに告げた。
「何、敵が何人いるか分からぬから不安になるのも仕方がないが、例え相手が国境線の盗賊団でも私ら女性陣は一歩も引かぬぞ。用心に越したことはないが、少しは自信に満ち溢れた私たちを信用せい。それよりもほら。カホ達も到着したようじゃよ、ホホホ」
あなたが一番心配です、と言う言葉を寸でのところで呑み込んだアイゼンはバーチャマが視線で指し示した方向に顔を向けると、そこには馬に乗ったカホら四名がいた。
どうやら二人一組で二人乗りをしてきたらしく、片方はカホが、もう片方はマキが手綱を握っている。
先頭を走っていたカホは後方で器用に寝ているマイを起こさないように減速すると、そのまま停止しながらゆっくりと降り立った。
「ただいま到着しました」
カホの声につられる形でマイやマキもアイゼンの前に集まっていく。
アイゼンはその顔ぶれにうんうん、と満足気に頷いていると、マキの後方からアバヤのような黒装束に身を包んだ女性が現れてアイゼンの前に跪いた。
「鍵保管要員に任命されました。早速ですがどうか私に鍵を……」
そう言ってお恵みを乞う神教徒のように両手を差し出した女性に、アイゼンは急にその表情をやや引きつったものに変えると、どうか違ってくれと心の中で手を合わせながら彼女に尋ねた。
「その声はまさか、アカリか?」
その名前を絞り出す際に何故だか喉の渇きを覚えたものの、なんとか平常心を保ったまま声を出したアイゼン。
嫌な予感を胸に抱きながらも更に表を上げるように指示を出すと、女性は顔や頭を覆っていた布を剥いで揺れる紅髪を空気に晒しながら満面の笑みでアイゼンを仰ぎ見た。
「そうだよ〜!と、言うわけで御父様。鍵をくださいませ」
ギブミーチョコレート、と似たようなノリで手をちょいちょいと動かしながらアカリは鍵を催促する。
まるで緊張感を感じないその明るさにアイゼンは内心でフーガシャワーの涙を流しながらも、努めてニコリと微笑み返しながらアカリに告げた。
「今用意するからあそこでマイを起こしてきなさい」
「はーい!!」
アカリを見送り終えたアイゼン。
その次の瞬間。ノワキの脇腹を小突いて耳を貸すように命令すると、アイゼンは無声音なのにやたら頭がガンガン痛みそうな声でノワキを叱りつけた。
「なんでよりによってアカリなんだ!普段はともかく、こんな局面でアカリに仕事を任せるのは危なっかしくてしょうがない。一体報告書になんて書いたんだ!」
「ひぃ〜。は、はい。確か後鍵保管要員一名を引き連れて、と…」
ノワキがその細身を更に折れそうになるくらいに縮めて返答するも、アイゼンはその答えにもはや素の口調に近い形で怒鳴った。
「それがなぜアカリになったんだと聞いているんだ!どんなことにも適材適所があるだろうが!」
あくまで小声で怒鳴るところに娘を心配する親心が垣間見える。
だが、しかし。アイゼンは僅かな葛藤の後、王らしくすぐさま冷静さを取り戻しながらもこめかみを押さえると、感情さえも押し殺した威厳溢れる雰囲気でノワキを見つめた。
「すまぬ。少々取り乱したな。まあ、いずれにせよ過ぎたことだ」
叔母上、とアイゼンが続けると、バーチャマは待ってましたと言わんばかりにアイゼンの前に立ちながら彼の言葉を遮った。
「大丈夫じゃよ、アイゼン。私もついていくことにするからの、ホホホ」
アイゼンの指示を代弁するバーチャマにアイゼンはふー、と溜息を一つ吐くとその場でバーチャマに命令を下した。
「あぁ……。叔母上も同行することを要請する。従って叔母上とアカリ達はこれから作戦の確認をしながら日の出とともに出発してもらいたい」
「言わずともの、ホホホ」
「では私達も作戦通り村に直行いたします」
「頼むぞ、ノワキ」
彼の指示に従って全員が動き出したのを認識したアイゼンは、一旦一人東の空を眺めながら深呼吸をすると、何処か悪態をつくように目を細めながら何かをポツリと呟いた。
「本当はバーチャ叔母さんとアカリを村に送り返したかったんだけどな……まぁ、あの黒装束を持ってきてくれたのは大きいかな」
アカリとバーチャマを中途半端に関与させると碌なことが起きないと経験から知るアイゼンは白みがかってきた空を見てニヤリと深い笑みを浮かべると、自らも作戦の準備に取り掛かるためにまずバーチャマ達のいる場所へ向かうことにした。
「アカリには急遽重大な任務を与える」
その準備段階の第一段階目となったアカリ。アイゼンはワクワクしているアカリの肩に手を置くと彼女に告げた。
「いいか、よく聞きなさい」
「うん」
「アカリにはネコを任せた」
「はーい」
「と、いうわけで鍵は預かる」
「………えっ?」
先ほど作戦会議の際にバーチャマに鍵を貰ったアカリ。綺麗な朝焼けに包まれながらその鍵をアイゼンに取られたアカリは暫しの間何が起きたか分からずに呆然と突っ立っていた。
アイゼンも苦労人なのかな…。
ノワキは優秀なんですけどね。
さて次回はネット回線とかの影響で更新遅れるかもしれません。その時はすいません。




