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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第二章 オジー城編
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16話 濡れ衣

今回いつもの二倍くらい長いです。

 俺は一体何をしたというのだろうか?


「んんー!!!」


 濡れた髪に湿った服を着たまま、目隠しをされ、手足を縛られて更には猿ぐつわまで咥えさせられている。

 おまけに受け身も取れない状態で荷車の中に放り投げられた訳だから身体全体が痛む。全く。どういうことだ。一応、客として招かれた俺を客人のように扱うって言っていたのはどこのどいつだ。まぁ、もちろん答えは分かっていたが。

 俺は脳裏に忌々しいイメージを擦り付け、しまいにはこのような無礼極まりない行為をした張本人を思い浮かべると、ここに至るまでの経緯をしみじみと思い返していた。



 ◇◇◇



 ここは天国なのだろうか?それとも俺の頭がとうとうイかれてしまったのだろうか?

 フーガ村の中央広場に直行した後、為されるがままに地面に降ろされた俺は目の前の光景に圧倒され、同様に当惑していた。


「えっ⁈何この雨?てか、このガキの大群は何?なんで何にも着てないの?どうして?どうして?」


 そこに広がっていたのは広場に設置された遊具で保育園規模の人数の子供達が生まれたままの状態で遊ぶ姿だった。空からあり得ない量の雨が降っているのにも関わらず、子供達はきゃはは、きゃははと下手な演技で笑いをとる喜劇のような声をあげ、まるで水のテーマパークに訪れたようにはしゃぎ回っていた。


「やべぇ、マジで頭が……」


 あまりの情景に俺の脳が悲鳴をあげている。すでに俺のちっぽけな脳みそに理解出来る範疇は超えているようで、はっきり言って容量オーバーだ。


「どうなってんだ?」


 俺は、とりあえず状況だけでも理解しようと辺りを見渡すと、すっかり濡れた目元を拭いながら一つ一つ確認をはじめた。

 まずは、この雨。目を凝らしてよく見てみると、ある場所では滝のように、ある場所では霧状に、またある場所ではバケツをひっくり返したような雨が降っている。何よりもびっくりしたのは、5メートル範囲くらいで降る雨の量や種類が違うところだ。

 例えば滑り台ではまるで計算したかのように登り階段のところでは雨が降っていないのに、滑る部分では脅威的な量の水が流れていたり。ブランコでは前半分に揺れる際にだけ雨が当たって後ろ半分は当たらなかったり。砂場は半面が泥の遊び場になっていたりと、測ったように分別されている。

 何の法則でこうなっているのかは不明だが、本来脅威であるはずのハリケーンや台風の雨や風が、奇妙なことにコントロールされていることはなんとなく分かった。

 けれど、この不可思議な現象を深く解明しようとも、今の状況では圧倒的に情報量が少な過ぎる。俺は思考を放棄して一旦雨のことに関しては終止符を打つと、次になんで子供達が裸なのかについて言及することにする………はずだった。

 でも、どうやら先に片付けなきゃいけない問題があるようだ。


「が、ず、や……だ、ずげ、で…」

「おー、ちょーにんきものだな、バザール」


 今までにダチョウは見たことが無かったのであろう子供達がバザールという新しいアトラクションを見つけていささか興奮している。バザールの上に乗っては飛んだり跳ねたり羽を毟ったり、断じて美脚ではないバザールの細い脚を膝かっくんしたりしっちゃかめっちゃかやりたい放題だ。

 ダチョウの上に乗る時は大人しく座ってしがみつくことが鉄則なのに一体何をしているんだ子供達は。


「それは僕の上に乗っていたかずやさんが言うセリフではありません……まぁ、おかげで子供達を受け入れる体制は出来ましたが」


 背後から獰猛な子供達のタックルを受けてもビクともしないサンドロの声が聞こえた気がしたけれど、きっと空耳だろう。

 俺は頭のターバンをはずしすぐ近くの子供にそれを渡すと、


「あのダチョウさんは脚をグルグル巻きにして倒すのが一番いいよ。もし暴れたら、子供がいなくても親子丼にするよ、って言ってあげたら大人しくなるから」


 人生の為になる教訓を伝授しながら優しく微笑んだ。なんか今日の自分の笑顔が黒過ぎて怖いのだけれど、きっと状況についていけない思考が無意識に新たな人格を生み出したのだろう。

 まぁ、楽しんだもん勝ちっていうしな。

 俺は折角訪れた身体を洗う機会に加え、この現象をもうありのままに受け止めると、バザールが直面している問題を解決するために一歩前進した。


「ダチョウの頭はもっとこうダイナミックに叩くんだぞ!」


 そう、子供がいかにバザールで遊ぶかに対しての一歩である。


「かずや、おぼえどげ〜!!!ゴボ、ゴボ」


 必死の抵抗とばかりにバザールが口を開くも、ある意味俺より残酷な子供達が何処かから取り出したバケツに溜まった水をバザールの口に豪快に注ぎ込んだ。

 正しいバザールの遊び方を心得ている子供達に内心冷や汗をかきながらちょっとやり過ぎたかなと罪悪感を抱いていると、遠くでココナムを相手にじゃれつく子供達と口に含んだ水をココナムに向けて勢いよく発射するムブラナが目に入った。

 それを見ているとやっぱりいっか、と今さっきまで感じていた罪悪感は消え失せ、代わりにもっとやるか、という声が脳裏に響いた。

 と、いう訳で続きを、と思いバザールに魔の手を向けていると、突然バザールは泳がせていた目線をある一定の箇所に定め驚愕からか空いた口、もとい嘴、が塞がらない状態にまで顎を開いてこう言った。


「か、母ちゃ……トゥインカ!!」


 その声と同時にほとばしるのは焦りか何かか、バザールはさっきまでやられていた身体から優しく子供達を引き剥がして立ち上がると、彼の嫁、トゥインカに向けて声を発した。


「なんて……」


 今まで聞いたことのないバザールの声に驚き、俺はバザールの視線を追うと、そこには気持ち良さげに雨に打たれるトゥインカさんの姿があった。

 特に変わったところがないので良くわからないがバザールの目はさっきまでの子供達に簡単にやられるという弱々しさが強調されたものとはかけ離れ、何処かデレデレとしたハートマークになっている。

 あー、今のトゥインカさんはあれに近いのかもしれない。ほら、海外のCMで絶世の水着美女が浜辺のシャワーを浴びるあのシーンに。

 もちろんどこからどう見てもダチョウにしか見えない俺にとっては全くと言っていいほど訳が分からないが。


「えっ?ってことはもしかして、いや、もしかしなくてもバザール、はつじょーしてる⁈」


 俺の呟きが届くよりも先に。バザールはきりりとした威厳たっぷりの姿勢でサンドロとココナムに目線を向けるとすぐさま命令した。


「今から俺は家内と二人で別の場所に出掛ける。お前らはここでムブラナをみていろ、いいな⁈」

「「イエッサー!!!」」


 有無を言わせない物言いには流石に二体の上司であるだけの風格が漂い、普段見せないバザールの姿に図らずも目を丸くする。

 けれど次にムブラナと会話をした時に俺はバザールの本来の意図を改めて再確認した。


「ムブラナ、一つ聞いておく」

「何、父ちゃん?」

「弟と妹、どっちがいい?」

「えっ?……どっちでもいいけど、あっでも一緒に遊べる弟がいいな……」

「分かった。サンドロとココナムに迷惑かけるんじゃないぞ」

「?父ちゃんどっかに行くの?」

「あぁ。母ちゃんと一緒に自然の摂理を整えに、な」


 何処か遠い目をしていかにもかっこよさげなことを口にしているが、言ってることはただの下ネタだ。

 けれど親子水入らずの会話と雰囲気に口を挟む訳にもいかず、成り行きだけを見守っていると、ムブラナがキラキラとした目を父親に向けてゆっくりと頷いた。


「そっか。良くわからないけどお仕事頑張ってね」


 分からなくて正解だ。むしろわかったらとんだませたガキだと思うだろう。いや、ダチョウだから飛ばないけど。


 ………。


 辺りが一瞬にして寒くなったのは間違いなく俺のせいだろう。ふん、いいもん。サリーさんが笑い転げてる音が聞こえるからいいもん。まぁ、ともかく。

 そんな俺の葛藤とは裏腹にバザールは所々羽がむしり取られた翼でトゥインカさんをお姫様だっこすると、そのまま堂々と道の真ん中を通ってどこかに歩き出した。


「激しくしないでね、バザール」

「あぁ。まずはクケェ、カカ〜、グウェ、グウェ、ガー」


 血反吐が出そうなくらい糖度の高いやり取りに耐えられなかったのか、バーチャマおばあちゃんが途中からコミュニケーターを止めたようだ。

 バーチャマおばあちゃんマジナイスである。

 俺は去って行く二体を眺めながらそんなことを考えていると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきたので反射的に振り返った。


「なぁなぁ、小僧。私とも一緒に自然の摂理を整えんか?……」


 そこには今まさに服を脱ぎ捨てヨボヨボの裸体を曝け出そうとするバーチャマおばあちゃんの姿が。

 へそをだし意外にも引き締まった脇腹と板チョコ並に割れた腹筋が俺の視界に入ると俺は目元を雨で濡らしながら必死に目を擦った。


「目が、目が、目が〜!!」


 あの大佐が目を見張るくらいのオーバーなリアクションで強烈に吐き気を催すイメージを拭い去ろうと躍起になっていると、バーチャマおばあちゃんが驚くほど感情のこもらない声で近くの子供を呼び寄せながら高らかに宣言した。


「皆聞いておくれ。小僧がこの私をいじめるんじゃよ」


 明確な嘘だが、子供達はシクシクメソメソと泣くバーチャマと目を充血させながら騒いでいる俺を見てどちら側を取るか決めたらしい。


「おばあちゃんをいじめるなんてひどーい」

「お母さんがお年寄りは大切にするものだって言ってたのに」

「お兄ちゃんサイテー」


 違う、と抗議したいのはやまやまだったが、相手はまだ子供だったし、自分がしていないことに対して怒るのも馬鹿馬鹿しかったので、俺は、はいはいごめんねー、と言いながらひたすらに暴言や批判をかわしていった。

 あまり堪えていない俺の様子にバーチャマおばあちゃんは不満顔だ。

 してやったりと思いながらもしかし、あまりにも騒ぎがひどかったのか見るに見かねたのかカナさんやカリンさんが、様子を見にくると、何を思いついたのかバーチャマおばあちゃんは濡烏色より更に黒い笑みを浮かべると彼女達に告げた。


「実は小僧が小さな女の子を襲おうとしてな……」


 悪魔の如き囁きでカナさん達を洗脳するバーチャマおばあちゃん。


「バーチャマおばあちゃんが子供達を巻き込んだ訳で全くの濡れ衣です!むしろ襲われそうになったのは僕ですよ⁉︎!」


 弁解というか事実を述べようにもカナさん達は、


「かずや君実はそんな趣味が……」

「どうりで私達の魅了があまり効かなかったわけですね」


 自分達の世界に没頭しているようで俺の話が聞こえていないようだ。


「あんな不埒者は縛ってどこかに放っておいたほうがいいぞ、カナ」

「そうですね、大叔母様」


 しかも会話の内容が段々きな臭いことになってきている。

 俺はそろそろと後ずさりながらその場から逃げ去ろうとすると、その途端、背後からものすごいオーラが漂ってきた。


「さ、サンドロ君」

「ククックケェクハハハ」


 何を言っているのかは分からないが、表情から察するに俺を逃がすつもりはないようだ。


「俺と、君との仲じゃないか。なぁ、逃がしておくれ……」

「……」


 無言で首を振り、チラリと視線を別の方向に向けると、そこには、


「親子丼にするよ⁈」


 と、子供達を守りながらファイティングポーズをとる例の彼女の姿が。

 俺は、お前も脅されているのか、と同情の視線を向けながらまたバーチャマおばあちゃんのほうに振り向くと、そこには勝ち誇った顔で俺を見つめるバーチャマおばあちゃんの姿があった。


「さぁ、これで私と小僧を隔てるものは何にも……」

「カナさん。俺を縛って荷車の中にでも投げ入れてください」


 何か言おうとしていたが、俺は差し出された猿轡と目隠しをして大人しくカナさんの縄に縛られると、カナさんの鳥様に運び出される形で荷車内に投げ入れられた。

 バーチャマおばあちゃんが何か言っているが、我に返ったというか、近くの子供達と他の傍観者によって状況をきちんと判断したカナさんは他の姉妹とともにバーチャマおばあちゃんを取り囲むと、


「やり過ぎです」


 ピシャリとそう言い放った。

 その後どうなったのかはよくわからない。唯一、分かったのはこの後フーガシャワーの雨が終わるまで放置されるであろうこと、それからバザールがトゥインカさんと自然の摂理を整えに行ったことの二つだけだった。



 ◇◇◇



 まぁ、結果良くわからないが俺は荷車の中に収容されることになったわけである。しばらく暴れたりもしたが、暴れるだけ無駄だと分かっていた俺はとりあえずはずせた猿轡とともにごろりと仰向けになりながらさっきまでのことを考えることにした。

 雨に裸と分からないことだらけだったが、まぁ、なんだかんだ面白かったのでよしとした。

 けれど、気がかりなことが一つだけある。


「あの子供達、ほとんど女の子だったんだよな……」


 ついてるはずのものがついてないんだから当たり前だが、あれだけ人数がいたのに男の子はあんまりいなかった気がする。


「なんでこんなに少ないんだろうな……」


 今の俺の疑問に答えてくれる人はいない。まぁ、もちろんこの時の俺は知らなかったんだから仕方が無い。


「ぶぁっくしょん!!!」


 どうやら風邪を引いたらしい。水に濡れた服を着たままずっと放置されているのだから当たり前か。

 俺は一旦考えることを放棄すると、そのままボーッとしてきた思考とともに襲ってきた睡魔に身を任せて意識を手放した。


 俺は知らなかった。このクシャミがとある誰かの噂話によるものだということも、猿轡に睡眠薬が仕込まれていたおかげで眠ってしまったことも。

 そして俺を乗せた荷車がフーガ村の東口にむかって進んでいたことも。


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