14話 フーガ村の準備(2)
お待たせしました。
一ヶ月も更新せずにすみませんでした。
ヒューっと海の方角から風が吹いてくる。
朝方に顔を出していた太陽もものの数時間で雲に隠れ、空は青から白、白から徐々に灰色へと変化していった。
段々と濁っていく空の下、オジー王国フーガ村の職人街では一人の老婆が自身の茶店の前で何かの作業をしていた。
老婆が飼う白猫、チャイとともに店の中から取り出したのはなかなかに重そうな細長い木の棒。
長さでいえば老婆の背丈より頭一つ分長く、片方の先端は地面の上に立てられるように四方向に分裂している。
その木の棒をゆっくりと慎重に店の入り口の前に立てた老婆はまた同じような棒を取りにいこうと店内に一歩足を踏み出すと、突然どこか遠くからドドドドっという地響きとともに若い女性が近づいてきた。
「ミサおばあちゃ~ん!!!」
ボブカットの髪をサラサラと爽やかに揺らしながら高速で走ってくる人影。
女性は老婆、ミサと白猫、チャイが佇む茶店の前で急停止すると、暗い入道雲も吹き飛ばすくらいの真っ白な歯を見せながらミサに声をかけた。
「手伝いにきたよ、ミサおばあちゃん!!!」
「あらあら、アカリちゃん、おはよう。今日も元気だねぇ~」
ボブカットの女性、アカリの登場に雰囲気が突如明るくなる。
気のせいかチャイの瞳孔も若干細まったようだ。
まるで後光が差したのではないかと疑うほどの空気の変化にミサも思わず笑みをこぼすと、アカリは今度は後方に視線を向けて一歩だけ自分の立ち位置からずれながらミサに告げた。
「ついでにイツキも連れてきたんだ!!!」
アカリの視線に釣られミサも彼女の後方に視線を投げかけると、そこには目をぐるぐると回したターコイズ色の髪の少女、イツキの姿があった。
いつもは綺麗に纏めてたたせてある前髪も、今ではオジギソウのように前にへたりと垂れ下がっている。
「イツキちゃんも、おはよう」
「ど、どう□▲%○……」
目の回しすぎでどうやらダウン気味の様子のイツキに対し、アカリは
「あちゃー、振り回しすぎちゃったか」
と、思わずおでこに手を当てている。
そんなイツキの様子に、ミサは一瞬目を細めながら無言で店内の中の一角を指差すと、アカリはその指定された場所にイツキを運びながらミサに顔を向けた。
「ごめんね、おばあちゃん。せっかく手伝いにきたのに。でも、わざとじゃないんだ……」
自身の累を及ぼす行動を自覚していたのか、アカリはイツキを床に寝かせた後にミサに近寄るとすぐさま謝罪した。
なぜならミサを助けるつもりで駆けつけてきたのに逆にアカリ達が迷惑をかける形になってしまったからだ。
「いいんだよ、気にしなくて。若い子は元気が一番なんだから」
しかし、まさしく本末転倒、ミイラ取りがミイラになるを再現したかのような展開に少しの間頭を下げていたアカリはミサの発言によって事なきを得た。
ふぅう、と溜息を吐くアカリ。
「分かった。じゃあもう運んじゃうね⁈」
同時にすぐさま開き直って手伝いをはじめたアカリは、何をすればいいのか分かっているのか登場時と同じような速さでテキパキと物を運び出した。
「こういう切り替えの早さがアカリちゃんの取り柄なのよね」
ボソッとそう呟くミサの視線の先では真剣な顔で木の棒や、いつの間にか現れた水に強い布を組み立てていくアカリの姿が。
ミサは未だにのびたままのイツキの横に腰を下ろすと、そのまま作業を続けるアカリの姿を見守った。
木の棒を立てて布を結わえてまた棒を立てて……。
最終的に出来上がったのは店の入り口を中心点に半円形に建てられた仕切り。
上空から覗けば、入り口がこの仕切りによってすっぽりと隠れていることが容易に分かることだろう。
「もうちょっとで終わるからちょっと待ってね!!!」
そう言いながら最後の微調整に入るアカリ。
そんなアカリを微笑ましく見つめていたミサは、ふと隣でイツキが起き上がる気配を感じ取ったのか、今度はイツキに対して優しく笑いかけた。
「おはよう、イツキちゃん」
「えっ?ウチ……ってかミサおばあちゃん!あっそっか、手伝い……。えっ、もうほとんど終わってるし」
驚嘆したり困惑したり何かを思い出したりと、状況を把握しているのかはたまた混乱しているのか分からないイツキに、ミサはただうんうん、と頷くと外を見るように促しながらゆっくりと口を開いた。
「イツキちゃんは手伝いにきてくれたんだろ⁈ありがとう。でも、もうアカリちゃんが半分以上やっちゃったからあんまりやることはないかもしれないね」
ちょっと残念そうに告げるミサに釣られるようにしょんぼりとするイツキ。
しかしミサはイツキの心情を察すると、その心を汲むようにぼそりと告げた。
「そういえば石鹸を取ってくるのを忘れちゃってねぇ…。確か洗面台の棚の上に置いといたんだけど」
「じゃ、じゃあウチが取ってくるね!」
しかしそんな呟きを耳で拾ったイツキは嬉々として立ち上がると、洗面台に向かって一直線に駆け抜けていった。
一瞬だけ訪れた沈黙。
「ふふ、若いっていいねぇ」
そんな中ミサは意味深にそう呟く。
すると、外で作業をしていたアカリがようやく終わったのか、店内に足を踏み入れながらミサに告げた。
「ミサおばあちゃん」
「んっ?なんだい」
「ありがとう」
「何、大したことはしてないよ」
「ううん。イツキはあれで落ち込みやすいから」
ミサの目先が利いた行動に感謝するアカリ。
しかし、ミサはただ馬齢を重ねただけとでもいうかのように謙遜すると、そのまま誤魔化すようにチャイの首元を撫でた。
気持ちよさそうに伸びをするチャイ。
そんな白猫を見つめながらイツキが戻ってくるのを待つミサとアカリ。
やがてイツキが二種類の石鹸を片手にミサ達のところへ戻ってくると、そのままチャイの隣に座ってチャイの尻尾を撫で始めた。
洗面台の前で髪を整えたのか、イツキの前髪はいつものように天に向かってピンと伸びている。
その様子にホッとしたのかアカリはイツキに気づかれないようにミサに目配せをすると、ミサはお茶目に片目だけを瞑ってウインクした。
三人と一匹を包み込むほんわかとしたあたたかい雰囲気。
しかし、その状態は長くは続かなかった。
ピカ〜ゴロゴロ!!!
突如鳴り響く雷の轟音。
しかもそれが二回連続で共鳴していく。
耳を聾する騒音に、三人と一匹は思わず耳と目を塞ぐと、今度はお互いの無事を確認するかのように視線を交換しあった。
キョロキョロと顔を動かすチャイの頭上では驚きのあまりに目を見開く三人の姿が。
しかし、その表情は驚愕だけで普通感じられるであろう恐怖や畏怖のような感情はどこにもなかった。
いや。むしろ互いに微笑みかけている始末である。
そんな三人の状態に、チャイは疑問を感じるとにゃ?と短く鳴きながら首を傾けた。
ピカ〜ゴロゴロ!!!
三度目の雷の来訪とともに空がほとんど雲に埋め尽くされて辺りが真っ暗になる。
通りや家の外には誰も出ておらず、あるのは無数に立てられた長い木の棒と水に強い布で出来た仕切りのみ。
ヒューという風が空に空いた最後の穴を覆い隠す。
ポタ。
どこかに落ちた雨の雫。
それを合図に空からバケツをひっくり返したのではないかと錯覚するぐらい大量の雨が降り出した。
誰もが恐れる自然災害、ハリケーン。
しかし、フーガ村の人たちはまるでこの瞬間を待ち望んでいたかのように皆揃って相好を崩していた。
「な、なんじゃこりゃーーーーーー!!!!!」
もちろん。この男、かずやを除いて。
次回はいつになるか分かりません。
ちょっとまた他の作品に集中するかもしれないのでご了承ください。
……頑張ります。
2014/8/12
活動報告にてお知らせがあります。




