11話 かずやの夜
またまた新キャラが登場します。
今後の活躍に乞うご期待。
そろそろ日没の時間だ。
遮る物が無い砂漠の上では俺たちの影はどこまでも長く見える。
どうやら俺がサンドロの上で必死に自分の偽の情報を頭にインプットしながら歩いているうちにそんな時間になったらしい。
全く、お尻が痛い。
そんなことはさておき。俺たちは残りの距離を考え今日はここで野宿をすることにした。
僅か三日間の短い旅だったが、体感時間的には一週間以上に感じる。
まぁ、それほど内容の濃い三日間だったのだろう、と自分を納得させた俺は黙々と野宿の準備を進める女性陣に混ざりながら自分の出来る手伝いをやった。
そして夜。遺跡調査最後の晩餐ということで出された晩御飯はここ数日の食べ物で一番質の良いものだった。
流石に野菜や果物も無いし、水が貴重なので米も炊けなかったが、代わりに出てきたのはフーガ村の東に広がる森から採られたキノコをふんだんに使った燻製ビーフのステーキと、これまたキノコを盛り付けたお好み焼きのような食べ物だった。
サイコロ状に切られて串に刺さったステーキ肉とキノコは香辛料代わりのミサさん特製のブレンド茶葉のお陰でほろ苦い大人な香りを存分に蔓延させ、お好み焼きの方は、完全に具がキノコのお好み焼きだった。
卵とか無いのにどうやって作ったんだろうとか聞きたかったけど、隣でバザールが美味しそうにかぶりついているのを見て、出かかった言葉を飲み込む。
ジュウジュウ音を鳴らす鉄板の音に耳を傾けながら俺は最後の肉を口にいれた。
夕食も終わり、片付けをする。
あの生意気だったバザールも今日はなんかしんみりした表情で俺たちの手伝いをしている。
主に残り物処理班として。
俺は食器などを布で拭きながらバザールを見ていると、隣で俺の袖を引っ張る奴がいて、俺はその方向に振り返った。
見ると、バザールの妻、トゥインカさんが何か物言いたげな目で俺を見つめている。
実際のところよく分からないが、じっと見つめてくるトゥインカさんを無視するのも失礼だと考えた俺は、拭き終えた皿を重ねながら彼女に視線を向けた。
「どうしたんですか、トゥインカさん?そんな真剣に見つめて。何かあったんですか?」
俺の質問に一瞬何か言いかけるも、すぐに躊躇って嘴を閉じるトゥインカさん。
やがて、トゥインカさんは意を決したように目を見開くと、俺の顔を真っ直ぐに覗き込みながら言った。
「クケェ、グワっグワっ」
…………。
俺は最後の食器を起きながらトゥインカさんに背を向けると、そのままバーチャマおばあちゃんのいるところに向かってこう叫んだ。
「コミュニケーターの発動、お願いしまーす」
◇◇◇
「それで、話とは何ですか?」
俺は今、どういう訳かダチョウの皆様に囲まれながら談話している。
右からサンドロ、ココナム、バザール、ムブラナ、トゥインカさんの順番に並び立つ様ははっきり言って恐怖だ。
なにこれ、俺今からリンチでも受けるの?ダチョウから?
と、心の中の俺が問いかけるのを軽く無視しながら俺は彼らに問いかける。
バザール達はお互いにアイコンタクトと妙な翼の振りで意思疎通をすると、なにやら頷き合いながら一斉に俺の姿を見た。
いきなり向けられた五対の双眼に思わず後ずさると、バザールが代表して俺に告げた。
「いや、なんかさ……。今日は俺たちと一緒に寝ない?」
「……はい?」
はて、これは何の罰ゲームだろうか。
まさかダチョウと一緒に一夜を共にしよう、と言われるとは思わなんだ。
「えっと、それってつまりバザール達と朝まで眠るってこと?」
「まぁ、そういうことだな」
一応聞き間違いかと思いもう一度聞くと、どうやら本気らしい。
俺はふざけてる、というか正気だとは思えない提案に暫し戸惑っていると、状況を見兼ねたのかトゥインカさんが横から助け舟を出してくれた。
「つまり、今夜は私達と過ごして欲しいということです」
しかし、それでも分からずオロオロと狼狽していると、ムブラナが無邪気な声でこう言った。
「僕たち、ほら、なんか寂しいし、それに……」
そのまま何故か視線を泳がして言葉を濁すムブラナにさらに疑問符を浮かべていると、サンドロとココナムが口を揃えてこう言った。
「「かずやさんのテントを壊してしまったお詫びにどうかお願いします」」
なんか説明も無しにいきなりお願いされてしまったが、今ので状況は掴めた。つまり……。
「テントを破壊されて寝場所が無い俺に快適な寝所を確保してくれる、ってことでいいのかな?」
俺が彼らの提案をそう解釈すると、五体のダチョウは同時に首を縦に振って肯定を示した。
その様子に少し唸る俺。
「いやぁ、でも今日は荷車の中で他の人達と寝ると思うんだよなぁ」
そう。何故ならテントがないということは即ち、女性陣達と一つ屋根の下で一夜を過ごすということだからだ。
あわよくば、寝ぼけた振りをしてあんなことやこんなことを……。
そんな事を想像しながらバザール達の提案をやんわりと断ろうとした矢先、いつの間にか現れたバーチャマおばあちゃんが俺に向かってこう告げた。
「そうじゃな。今日は私の横で添い寝を……」
「是非今夜はバザール様方と共に一晩を過ごさせてください」
バーチャマおばあちゃんから放たれる危険な匂いを敏感に嗅ぎ取った俺は、直様自分の意志を曲げると、そのままバザール達と肩(首の辺り)を組みながら素早く、それこそ電光石火の如き素早さでその場を去っていった。
後に残されたバーチャマおばあちゃんは目をパチパチと瞬かせている。
やがて、バーチャマおばあちゃんは
「ケッ」
という捨て台詞と共に唾を吐き捨てると、ドシドシと怪獣のような足取りで荷車の中に戻っていった。
◇◇◇
オジー王国南、最果ての村フーガ村では、男達の帰還の為の準備が着々と進められていた。
今夜を含めて残り晩が二つ、即ち残り二日で男衆が帰ってくる。
村内では夫の服を縫う妻や父の帰りを待つ子供が、それぞれ異なる思いを胸に抱きながら心躍る気持ちで床に就いていた。
そして静まりかえる夜の暗闇。
軒を争う職人街を照らす月の明かりは、とある人物の姿を映しだしていた。
スラっとしたスポーツ体型の身体に整った顔の形はその人物の美しさを執拗なまでに表現している。
だが、それよりも特徴的なのは後頭部で一つに結わえられた輝くばかりの銀髪。俗にいうプラチナブロンドの髪をポニーテールにしたその人物はフーガ村のとある場所を目指して歩みを進めていた。
「着いた」
歩き続けて数分後、目的地に辿り着いた人物はそうポツリと呟いた。
その人物の目線の先には高く聳え立つ大きな城が。
そして、その人物の目には黒い髪を真っ直ぐに伸ばした妖美な美女の姿が映しだされていた。
次回は6月28日18時予定です。
ありがとうございました。




