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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第二章 オジー城編
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10話 言葉の謎 (1)

何故こうなったのか……。

 暖かい風が頬をくすぐる。

 どこまでも続く砂の海原は風が通り過ぎていく度に波打ち、揺れている。

 俺はサラサラと流れる砂の行方を目で追いながら、改めて周りの景色を眺めていた。

 砂、砂、砂。うん、やはり目の前の光景には何の変化も見当たらない。

 俺はゆっくりと過ぎ去ってゆく景色を見送ってから、視線を前方に戻した。

 前方では、一つの荷車を四体の馬と二体のダチョウが犬ぞりやサンタクロースのソリのトナカイのように列をなして引きずっていた。

 最初からそうすればいいのに、とも思いながら、そういえば帰路の序盤は罰としてバザールに引かせてたんだっけ、と先ほどの状況を思い出して笑う俺。


「まぁ、さすがにさっきのペースじゃ延々と歩き続けることになるもんな」


 笑顔を苦笑に変えながら俺はまた前方に広がる砂漠に目をやった。

 俺たちは今、フーガ村への途中で道なき道、というか砂の上を歩いている。

 ちなみに俺はダチョウのサンドロの上に座って絶賛旅の途中だ。

 はじめは酔っていたものの、今ではすっかり、とまではいかないが慣れて、そこまでスピードがない時は結構走れたりする。


「って、また思考がズレた」


 しかし、俺には今やらなければいけないことがある。

 俺は頭を振って思考をリセットした。

 今は余計なことに頭を使っている余裕は無いのだ。

 それもそのはず。なぜなら俺は今、


「あーあ、こんな調子じゃ設定が覚えられねぇ」


 先ほどでっち上げた自分の仮の姿に頭を悩ませていたのだから。



 ◇◇◇



 かずやが頭を悩ます数時前。荷車の中、エアコンが効いた車内の中でかずや達は早速偽物の身分証明書を作成していた。


「それじゃあ、まずは基本的なことから。まずは名前、性別、年齢を記入していきましょう」


 そしてその中でもアミは司会を務めながらも積極的にスラスラと紙に書き込んでいた。


「カズヤ・タケダ、男、21歳。他には……」

「出身国、来日目的、滞在期間、それから既婚者判定なども必要です、お姉様」


 アミの言葉にカリンが被せる。

 テンポ良く進むやり取りにかずやの入る余地は無く、設定の提案は余るほど出され、かずやの仮の身分はとんとん拍子に決まっていった。


「出来た!それじゃあ、かずや君、読んでみてください」


 あらかじめ何かが用意されていたと疑わせるほどの早さで決まって行くと、アミは一先ずかずやに渡して確認を取ることにした。

 簡単に箇条書きされた紙を見つめ、首を傾げるかずや。

 それどころか、何かに気づいた、というよりも驚いた様子で、紙に目を釘付けにしながら固まっている。


「ああ、ごめんなさい。かずや君は読めませんよね、この世界の文字は」


 その様子に何をどう思ったのか、機敏に反応したアミはかずやの手から紙を取ると、そのまま流れる動作でアナウンサーが原稿を読むように読み上げていった。


「カズヤ・タケダ、男、21歳、家族無し、職は一応他国の歴史研究家の助手で、今回は遺跡の調査で大叔母様の研究の手伝いをするために来日。そして滞在期間は成果が出るまで。それから……」


 その時、かずやは真剣な表情を作りながらアミを手で遮った。


「……未婚者で出身国は南の群小国、と」

「えっ?」


 かずやの発言に一瞬アミ達の間に衝撃が走り、車内が静まり返る。


「今、かずや君、文字が読めた?」


 その車内に響き渡るサキの声。どこか言葉足らずなのはそれだけ衝撃を受けたからだろう。

 それもそのはず。なぜならかずやはこの世界の人間では無いのだから。

 しかしかずやは驚愕に目を見開いているアミの手から仮の身分証をそっと抜き取ると、やけに落ち着いた声で全員に告げた。


「だって、これ、ちょっと癖があるけど完全に日本語じゃないですか」


 ミサさんの店にも【健康第一】って書いてあった掛け軸があったし、と続けるかずやに目だけでなく口も開けて驚く一同。

 女性陣が所々で驚嘆の声をあげる中、唯一無言で成り行きを冷静に見守っていたバーチャマは、かずやに鋭い目線を向けながら徐に口を開いた。


「小僧。今、私達の言語が読めると言ったな」


 ガラリと変わったバーチャマの目の色に僅かに唾を飲みこんだかずやは、機嫌を損ねないように慎重に言葉を選びながらバーチャマに返した。


「はい。読めますし、書けますよ。第一、僕あなた達の言語理解出来てるっていうか、母国語だし」


 途中突っかかりながらも言葉を絞りだしたかずやは、彼が話す間片時も目線を逸らさなかったバーチャマに居心地の悪さを覚え、座り直した。

 そして、そのまま何か考え込むように宙に目をやるバーチャマにかずやは戸惑う。

 やがてバーチャマは考えが纏まったのか、逸らしていた視線をかずやに戻した。


「そういえば最初からコミュニケーションが取れていたから見落としていたが、何故お前さんは私達の言葉を話せるんじゃ?」

「……へっ?」


 まさか質問してくるとは思わなかったかずや。いや、こんな雰囲気の中ではこの場の誰も想像することは出来なかっただろう。

 かずやは真剣な空気が一瞬にして呆然とした空気に変わったことに戸惑いながらも、気を取り直してバーチャマに答えた。


「いや、だからそれは僕の母国語だからで……」

「違う違う、そういう意味では無い」


 かずやの説明に即座に頭を振るバーチャマ。はて、質問の趣旨が間違っていたのだろうか、とかずやが自問自答をしようとしたその時、バーチャマの口から後最もな疑問がこぼれ出た。


「じゃから、何で異なる世界の人間が同じ言語を使っているんじゃ?」


 バーチャマの問いに、車内が騒がしくなる。


「そういえばなんでだろうね、サキ」

「私に聞いたって分からないよ、サリー」

「不思議なこともあるんだな」

「なんか難しくて頭が混乱するよ〜」


 上からサリー、サキ、カナ、カエデの順番に意見や感想が出されると、荷車内では疑問などが一気に飛び交った。


「みんな、落ち着いて」

「そうそう。騒いでも何も分かんないよ」


 アミやカリンが静止を試みるも、会話は一向に収まらないどころか、どんどんエスカレートしていく。

 そして、エスカレートしていく会話と比例して増える年寄りの眉間の皺。

 やがて、皺の数が許容量を越えると、年寄りの堪忍袋の緒が切れた。


「いい加減にしなさい!まだ会話の途中じゃ!!!」


 普段から怖い顔を鬼のように歪め、怒声を発するバーチャマに何故か冷や汗が止まらないかずや。

 やがて、場がゆっくりと収まっていくと、バーチャマが声を思いっきり和らげながら先ほどの怒声と雲泥の差がある声色で告げた。


「すまん、少々声を荒げ過ぎたようじゃ、ホホホ。淑女たる者、もっとおしとやかにせねばいけぬのにの、ホホホホホホホホホ」


 頭のネジがはずれたらしい。

 かずやはバーチャマから漂う不穏な雰囲気に身の機嫌を感じながら、彼女から少し離れた。

 かずやはこの人のようになってはいけないと本能的に体感しながらバーチャマが鎮まるのを待っていると、バーチャマはまたもや発するオーラの質を変えながら静かに告げた。


「とりあえず、今このことを言及するのは時間の無駄じゃ。追求するのは後にして今は小僧の仮の姿を考えることにしよう」


 調子を取り戻したバーチャマに胸を撫で下ろしながら彼女の提案に賛同する一同にかずやは違う意味で不安を感じていた。



 ◇◇◇



「で、なんでこんな設定なのかね……。本気でこれでいくのか……」


 俺の視線の先には先ほど書いた偽の証明書がある。

 もちろん、偽、というだけあって、後で変更したり最悪破棄したりするんだろうけれどこれは設定上、あり得ないんじゃないだろうか?

 果物の樹液と木の繊維を混ぜ合わせて作った黄色がかった紙に書いてあるのはこの世界の仮の姿の俺のこと。

 しかし、そこに表記されていたのは明らかに無理がある信じられないものだった。

 それは…………。



























「コロナ大陸より西南に位置する小さな小さな島、ニホン島に住んでいたニホン小国の王子、カズヤ・タケダとか……」





























 誰だよ。

 俺の嘆きを聞いたのはサンドロと砂だけ、だと思いたい。

 早く日本に帰りたいとこれほど切実に願ったのは今回が初めてだった。

次回は6月21日18時です。


長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

本当にありがとうございます。

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