7話 かずやの確認
事前連絡!
もしかしたら章の名前を変えるかもしれません。その時はご了承ください。
「あれ、俺の服ってあんなに色が茶色っぽかったっけ?」
通気の為に開けられた小さな窓。そこに思いっきり顔を近づけながらかずやは弱々しく溜息を漏らしていた。
外ではカリンと、元凶であるバザールが洗濯板と桶、石鹸を片手にゴシゴシと洗っている。
元々良質な素材で出来ていた服は今では無惨にも白から茶色に染まり、服を気に入っていたかずやはその哀れな姿にガックリと項垂れていた。
サヨナラ、我が服よ、バイバイ、マイラビング紐付きシャツ、と心の中で嘆きながら幻の涙を必死に堪えていたかずやは一旦自分を巻いていた布をもう一度巻き直すと、そのままゴロンと寝転がった。
床の上を縦横無尽に転がりながら芋虫のように這う彼はショックの度合いこそ少なめであれどしっくりときていた服が駄目になったのが悔しいらしく時折クソー、と小さく雄叫びをあげている。
そんなこんなで転がっていたかずやは段々と目が回ってきたのか壁を使いながらよいしょと身を起こすとそのままの状態で床にもたれかかった。
「そういえば俺、なんかこっちの世界に来てから動物と会う度に碌でもないことが起こってるような気がするんだよなぁ…」
人間サイズの蜘蛛にバカみたいにデカイ蛇、何かとイライラさせてくるダチョウに偉そうな鳥、男性に対してだけにアレルギーがある変な馬に、人間に変身していた意味不明な盗賊団。いずれの時も疑われたり、変な誤解を受けたりと散々な仕打ちを受けたかずやだったが、今ではそれもいい思い出である……とまではいかないが、まぁ悪くは……あるが、良くも悪くも印象的だったなと思うかずやであった。
それと同時にまた、気分が少し晴れているような気もしてきたかずやは思わず、
「案外バザールも俺の為に今回のことをしたのかもな」
と、呟いた。
少しだけ気が軽くなったかずやは、僅かに気持ちを切り替えると、改めて自分のことを考えることにした。
この世界のこと。
元の世界のこと。
バザールやアミなどといった人物のこと。
今までは良くも悪くも元の世界に帰還する方法だけしか頭に無かったかずやは初めて自分を別の視点から見つめることで自分のやるべきことを考え直すことが出来た。
「今はまだ分かんないけどまぁ、あとで分かればいいよな」
考えた末に出てきた最初の答えはかなり楽観的な物。しかし、今のかずやにとってはそんな答えでも十二分に満足することが出来ていた。
「俺って単純だよな」
先ほどよりも清々しい表情を浮かべながらそう呟くかずやの顔にもう迷いは無かった。
「おい、かずや、ちょっと出て来いよ。あっ、ごめん、お前今すっぽんぽんだったな」
だから外からそんな声が聞こえてきても関係ない。
かずやは次の晩御飯の時に必ず復讐することを心に誓いながら混じり気のない真っ直ぐな笑顔で笑った。
◇◇◇
トントントン。響くノックの音、沈む笑い声。
ガチャリと開くドアの隙間から顔を出したのは女性専用の小物職人であるサキさんだった。
その胸には何か白い布を抱え、小声で失礼します、と断わりを入れている。
どこか不安げな表情を浮かべるサキさんの姿を見て改めて思ったのだが、サキさんは本当に普通だ。
別に悪い意味では無いのだが、サキさんの容姿にはこれといった特徴がないのだ。
人の容姿のことを語るのはあまり得意ではないが、サキさんなら出来る気がする。
例えば鼻の形は高すぎず低すぎず、かといって丸すぎたり鼻の穴の形に特徴があるわけではないし、目は一重まぶたでも無く二重まぶたでもなく奥二重、唇は厚すぎず薄すぎず、太すぎず細すぎず、唇の色も暗くもないし明るくもないというのが俺の印象だ。
目だってパッチリとしているわけではないし切れ長という訳でもなく、瞳の色は茶色がかった黒で俺の世界で一般的なものだし、眉の毛も睫の毛も髪の毛も全て平均的な長さである。
更には体のスタイルだって、ってなんだかここまで話すと変態っぽくなってしまうので敢えて言わないが、まぁ、大きすぎず小さすぎず、太すぎず細すぎず、凄く平均的な体型とだけ言っておこう。
なんの太さや大きさなのかはご想像にお任せする。
まぁ、つまり何が言いたいのかというと、サキさんほど普通、というか平均的な人はいないだろうということである。
「あのぉ〜」
サキさんがジト目で俺のことを見ている。俺はサキさんの足の爪先をちらりと見てから顔をあげると、そこには何故か不満そうな表情を作ったサキさんの姿があった。
はて、俺は何か悪いことをしたのだろうか?
「新品の服を持ってきたので着てもらおうかと思ってたけど、先にさっきの服と一緒に洗濯してもらったほうがいいかもね、この服」
いや、今洗濯したら茶色に変色してしまう。てか、声に優しさを感じない。どうやら本気で言ってるらしい。
「ちょ、そんな事したら新品の服が」
俺はサキさんの暴走を止めるべく、即刻で彼女の肩に手を置くと、サキさんはもの凄く悲しそうな目で俺を見ながら静かに俺の手の上に自分の手を重ねた。
「私、失礼な人は嫌いなの、ごめんね」
あまりにも直球的な物言いに心が折れそうになると同時に、意外と柔らかい手の温もりに一瞬ドキッとなる。
相反する二つの気持ちをその身に感じていた俺の手をゆっくりと払ったサキさんはそのまま申し訳なさそうに一言告げると俺をその場に残しながら荷車を去っていった。
ポツリと佇む俺。
なんか精神が傷む。
なんとなく自分の世界に浸りたいなぁと思っていると、サキさんと入れ違いにバーチャマおばあちゃんが入ってきた。
俺たちの会話を聞いていたのか、バーチャマおばあちゃんは訳知り顏、というかニヤニヤした気色悪い笑顔を浮かべながら俺にこう告げてきた。
「やはり、お前さんは変態じゃったな。女性を舐め回すように見るなど男がすることではないじゃろ、ホホホ」
「あっ、そっかあぁぁ……」
バーチャマおばあちゃんの的確な指摘に思わず頭を抱える俺。
ひょっとして今までされてきた中で、1番キツイダメ出しなんじゃないだろうか?
無意識だったし下心は決して孕んではいなかったが悪いことをした自覚というか心当たりがあった俺は暫しの間罪悪感に苛まれていると、バーチャマおばあちゃんはふざけた表情を一転して急に真面目な顔を作った。
服がぁ、好感度がぁ、と喚く俺をバーチャマおばあちゃんはただただ見つめる。
あれ、いつものばあちゃんじゃねぇ、と思った俺は僅かに居住まいを正しながら彼女を見つめ返すと、バーチャマおばあちゃんは一つ溜息をつきながら俺に告げた。
「今は服のことはどうでもいいじゃろ。好感度だってお前さんの様子を見るに何かの誤解だったようじゃし……。んっ?お前さん、好感度なんか気にしてたのか?」
ホホホ、と笑いだすバーチャマおばあちゃんにいつの間にか顔から火を出す俺。そんな俺を見てすぐに笑うのをやめたバーチャマおばあちゃんは改めて纏う雰囲気を真剣なものに変えると、単刀直入に言った。
「お前さんに話がある。お前さんの今後のことじゃ」
真摯な眼差し。有無を言わせぬ高圧的な雰囲気。
望まぬして唾を飲み込ませる威圧感さえ感じる。
何かが変わる、そんな気がした。
何を確認したのかって?
服が茶色になったことですよ……冗談です。
今更かもしれませんが、感想・評価も受け付けているので、まぁ、うん、なんでもないでもないです。
今後もオジー王国をよろしくお願いします。
次回は一週間後の同じ時間に間に合うといいなと思っています。




