53話 石版【Z】
いやぁ、詰め込んだ感半端ないです、今回。
申し訳ない。
女性陣によるバザールへの攻撃が終わった後、俺達は直様出発…する前に休憩をとることにした。
なんだかんだ言って全員徹夜で事に及んだ訳だし仕方がない事だろう。
目元が腫れ、羽が何枚か毟り取られたバザールの思慮深い提案により、結局全員で仮眠をとることにした俺達は少しばかり窮屈な荷車の中で思い思いの体制で休むことになった。
荷車の中に入る際に、マキが
「ちゃんと見張りしないと鳥釜飯にするよ」
とバザールに黒い笑みを向けながら言っていたことに若干背筋が凍る思いを抱きながら、中に入った俺は荷車の内装、というか中そのものに思わず目を見開いた。
ずっとテントの中で野宿していたから気づかなかったが、今この荷車の中には無防備に寝転がっている女性の姿しかない。
「これはヤバイ気がする…」
思わずそう呟いてしまった俺はきっと悪くない、悪いのは俺のテントを壊したバザールのせいだ、と心の中で悪態をつく。
「まぁ、考えてもどうにもならないよな」
既に寝息をたてているマイ達を起こさないように慎重に歩幅を進めながら、とりあえず荷車の隅っこの方のスペースを確保した俺は壁に背を預けながら脚を抱え込むように座りこんだ。
同時に荷車の中を見渡す。なかなか綺麗に整頓されたスペースを器用に分配して仮眠をとる女性陣もそうだが、外見よりも新しく感じる内装は何というかこう、新鮮だった。
実際、マイを運んだ時に一度入ったことがあるはずだが、何故かバーチャマおばあちゃんのインパクトが凄すぎて全く覚えていない。
「ぁぁあ…。疲れた。早く寝よ…」
あくび混じりに一人呟いた俺は重くなった瞼を閉じる。今は内装とか女性とかそんなことよりも早く寝たい。
俺は疲労した身体を出来る限りリラックスさせると、右肩に首を乗せるようにして眠りについた。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
俺は微かに聞こえてくる会話に聞きいるように目を覚ました。
「結局、何の成果もありませんでしたね、大叔母様」
声は荷車の外から聞こえてくる。幸いにも荷車の入口の方に顔を向けていた俺は暫し微睡みながらもその会話に耳を傾けていた。
「そうじゃの…。ハー…。まぁ、せめてあの部屋から何か持ってこれれば良かったんじゃがの…。とにかく、今は無い物強請りをしても意味が無いしの、全員が無事だったことだけで充分じゃよ」
溜息混じりだが、安堵の気持ちが篭った口調でそう語るバーチャマおばあちゃんの声に、俺は未だに重い身体を無理矢理起こすと、そのまま壁に耳を押し当てた。
「実は一つ気になることがあったのですけど、よろしいでしょうか大叔母様?」
「何じゃ?アミ」
もうほとんど覚醒した意識の中、俺はアミさんが発した疑問に首を傾げた。何か変なことでもあったのだろうか。
俺はまだ心地よい寝息をたてるマイ達を尻目に二人の会話が続くのを待った。
「途中、キングコブラの動きがおかしくなったんですけど、気づきましたか?」
そう言ったアミさんに対しまた頭を捻る俺。いや、俺的にはあの化け物はただ暴れていただけに過ぎないのだが、何かおかしな行動をしていただろうか?
「あれだけ攻撃していたのにも関わらず、カナを叩き飛ばしたあたりから急に闇雲、というか無茶苦茶に暴れ出したじゃないですか」
うーん。つまり攻撃対象を一人撃破しただけで攻撃をやめて暴れ出したってことか?
俺は勝手に推測をたて自問自答しながら腕を組んだ。少しの間考えてみるがよく覚えていない。
あの時はカナさんを助けることに集中していたから仕方がないだろう。
俺が僅かに考えに耽る最中、バーチャマおばあちゃんはなんとも朗らかな口調で言葉を返した。
「あれはマイのおかげじゃよ。カナが飛ばされた後、マイが一人立ち向かっていったじゃろ?あの時マイが使った【魔力吸収】の力があったからこそキングコブラは攻撃をやめたんじゃ」
「「【魔力吸収】?」」
何故か声がハモった。どうやらアミさんも俺と同じことを考えていたらしい。
俺は思わず漏らしてしまった声を隠すように勢いよく口を抑えながら耳を澄ませると、幸運なことにバーチャマおばあちゃんは俺の声に気づいていないようだった。荷車の中にいるマイ達にも聞こえていなかったようだし、おそらくは外にも声は漏れていないだろう。
俺は心の中でホッと息をつきながら再び二人の会話に集中することにした。
「確か【魔力吸収】は魔物にしか効かない力ではないのですか?確かに、あのキングコブラは通常のものより人一倍巨大でしたけど」
「はて?言ってなかったかの?こういう結界付きの遺跡の中に住む生き物はたまに空気中の魔力を吸い込んで魔物化する時があるんじゃよ。まぁ、動物関係は専門外じゃから詳しいことは知らんがの」
「???」
話の内容は良く分からなかったが、マイのおかげでキングコブラの攻撃は終わったということだけは理解出来た。
「とにかく、あの時マイがキングコブラに突っ込んで魔力を吸収したからさらに精神状態が不安になって暴れ出したんだ、と私は思っておる」
魔力吸収やら何やらと知らない単語が出てきたがおおかた文字通りの意味だろう。どういうことかは分からなかったが、何となくは分かっただけでも収穫とする。
俺がそうやって自分の考えに浸っていると、突然何かが俺の背中に当たった。慌てて振り返る俺の目線の先には未だにスヤスヤと眠るタミの腕が。
俺はその場所から少しだけズレながら、座り直して胡座をかいた。
まだ二人の会話が聞こえてくる。
「結局、何の収穫もありませんでしたね…」
「まだそんなことを言っておるのか、アミ。もう気にしとらんから大丈夫じゃよ」
「収穫か……」
荷車の中でポツリと呟く。あの部屋にあったものなら何でも収穫になるのだろうか?
「じゃあやっぱりこれしかないよな〜……」
砂の波に飲み込まれる前、あの時の俺は助かるのに必死で、藁にもすがる思いであるものを掴んだ。
「一応、バーチャマおばあちゃんに見せておくか、これ」
俺の手のひらの中には、大きく【Z】と刻まれた正方形の小さな石版がある。それをキツく握りしめた俺は、誰も起こさないようにゆっくりと立ち上がると、音をたてないようにドアを開けた。
キー!!!
失敗した。
一応この回で第一章は終わりです。
長い間ありがとうございました。
伏線を張りまくった第一章でしたが、第二章からはどんどん回収していく予定なのでお楽しみに。
さて、次回からですが、今度からは少し長めに、尚且つ質のいいものを書きたいと思っています。ですので次回からは出来上がったら投稿にしたいと思います。ご了承ください。
重ねてここまで誠にありがとうございました。




