52話 犯人
多分次話かその次あたりから新章に入ります。
ここまで読了いただき誠にありがとうございました。
満天の星が散りばめられていた空が段々と青みを帯びていく。彼は誰時と呼ばれるこの時間帯は人々の心を落ち着かせる神秘的な時間帯で、オカリナ遺跡の入口付近で護衛をしている二人は正にその雰囲気を満喫していた。
心配事や悩み事も全て取り除いてしまいそうな深い蒼色に暫し見惚れる二人は背後に潜む怪しげな影に気づくことなくただ空を眺めていた。
地中では命がけの戦いが繰り広げられているというのに、呑気な二人は全く気にする様子もなくただ周囲の警戒をしている。
だが、何事も起きないで新たな朝が始まると思っていた彼女達はすぐにそんな淡い期待感を捨てることになった。
唐突に地面が揺れる。てっきり敵が攻めてきたのだと勘違いしたカエデは音がした方向を向きながら気分を切り替えた。
さっきまで神々しい気分を味わっていたのに今は警戒心で胸を鳴らすカエデ。すると、日の出とは逆の方向、荷車より左にいったその先で大量の砂が吸い込まれるように渦を巻きながら地面の中に消えていった。
そのまま、まるで特大の蟻地獄が現れたかのように巨大な円錐状のクレーターが出来上がるとカリンとカエデは様子を見るためにそのクレーターに近づいていった。
新しい蟻地獄型の魔物か⁈という思考が頭の中を掠めたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。カリンとカエデは待っていても何も現れないことを確認すると、急いで遺跡の入口の前まで駆け戻って行った。
「姉様〜。少し手を貸してください」
それからしばらくすると、入口の穴の中からタミらしき声が聞こえてくる。カリンはそのまま入口の中を覗き込むと、そこにはぐったりとした遺跡調査隊のメンバーが勢揃いしていた。皆明らかに疲労していて疲れを拭えないでいる。
「今梯子を持って来ますね」
カリンが全員にそう告げながら後方にいるカエデに伝えようと振り返ると、カエデが、いつの間に持ってきたのか、梯子を抱えて微笑んでいた。
全員が無事なのは勿論のことだが、何よりも護衛対象であったかずやが生きていた事にホッとしたのだろう。
カリンはカエデの心情を察すると、同じように微笑み返しながら梯子を受け取った。梯子を降ろし、全員が登り終えるのを待つ間にカリンは荷車は無事だったことや、クレーターの事を報告した。
バーチャマはふむふむと頷きながら聞いていると、カエデの顔を横目で見ながらカリンに耳打ちした。
「あの様子からするとどうやら吹っ切れたようじゃの、カエデは」
「昔から一度落ち込むと気持ちの落差が激しいですからね。今回は自分の気づかない間にテントが壊されていてショックを受けただけだと思いますよ。勿論、すぐにもとに戻りましたし」
バーチャマ同様、耳元で囁くカリンに思わず微笑んでしまったバーチャマ。その内容もそうだが、立ち直る時の姿まで想像してしまったらしい。
バーチャマは慈愛が篭った視線をちらりとカエデに向けると、すぐにカリンの方に向き直った。
「ありがとう、カリン。よくやったの、ホホホ」
突然笑い出したバーチャマに首を傾げる一同。しかし、彼女達の面々は困ったようにも見えていると同時にどこか達成感に満ち溢れていた。
「あー、俺のテントがない!!!」
その時だった。荷車の近くからかずやの声が響き渡る。かずやは本来テントがあるはずの場所でナイナイナイナイ、と叫びながら頭を抱えていた。
それを見てあちゃーと眉間を抑えるカリンにバーチャマは尋ねた。
「でっ、結局見つかったのかね、犯人は」
まるで痛いところを突かれたようにぎくっと肩を竦めるカリン。カリンはそのまま面目なさそうな顔で首を横に振ると、隣に佇むカエデの服の裾を引っ張りながら返事をした。
「残念ながらまだ……。それらしい姿もなければ気配も無くて」
その言葉にバーチャマもカエデも落ち込むようにうなだれた。なんとなく気まずいムードが流れる。
「まっ、とりあえず荷車の方に戻るかの」
気分を切り替える為に歩きだしたバーチャマに、自然に後を追う形になった二人がトボトボ歩く。
やがてバーチャマ達が荷車の近くにあったかずやのテントがあっははずの場所に辿り着くと、全員がその光景をボーっと眺めた。
カエデは直視出来ないのか顔を逸らし、カリンは心配そうにカエデを見つめている。バーチャマがテントがあったはずの場所を真っ直ぐと見つめながらそんな二人の間に流れる雰囲気を変えるべく口を開こうとすると、カリンとカエデの背中を誰かが突ついた。
慌てて振り返る二人の視線の先には、もじもじと脚を擦り合わせるダチョウの姿が。
「どうしたのムブラナ君こんな朝早くから」
その恥らうような可愛らしい姿に若干本来の調子を取り戻すカエデ。早口でまくしたてられた言葉にウッと身体を震わせたムブラナはか細い声でカエデ達にとって衝撃的な事実を告げた。
「実はそのテント壊したの……僕なんだ」
えっ、と周囲が驚く声が聞こえる。カエデとカリンは申し訳なさそうにそう言ったムブラナになんて言えばいいのか分からなかった。かずやに至ってはオーマイガッと頭を振っている。
その時、ムブラナの背後からバザールが現れると嘴を開いた。
「いやぁ、本当に申し訳ない。昨夜俺が目を離した隙にムブラナが貴重な食料を取ってしまってな。取り返そうと追い回していたらムブラナがかずやのテントの中に入ってしまってだな…」
「あなた……」
バザールが瞑目しながら淡々とそう語っていると、その横にゾッとするくらい恐ろしい形相でバザールを呼ぶトゥインカが現れた。
「実はついさっき判明したのですが、夫は毎晩のようにあなた達の食料を取ってこっそり食べていたようです」
「うん、僕それで勝手に食べちゃいけないって言って父ちゃんから取り上げたんだ。そしたら…」
「案の定夫が慌ててムブラナを追いかけてなりふり構わずかずやさんのテントを破壊したのです」
トゥインカとムブラナの口から告げられた事実に段々と顔が青ざめていくバザール。その場から逃げ出そうと後退するも、いつの間にかサキ達が辺りを囲んでいて一歩も動けそうになかった。バザールが平気で嘯いていたことに対してか、はたまたかずやのテントを破壊した張本人だからか、カエデとカリンは怒りに震える拳をあげると、そのまま震える声でトゥインカに尋ねた。
「好きなだけしてもいいでしょうか?」
「えぇ。もちろん」
二人の問いに即答するトゥインカ。カリンとカエデはそれぞれ
「落ち込んでた気分を返せ」
「私の心配事を増やさないでください」
と責めたてながらバザールに突っ込んでいった。
「母ちゃん、あんまりだ〜〜」
と、嘆くバザールに一言自業自得です、と呟くトゥインカ。その瞳には呆れの色が浮かぶものの、声からは慈愛の念が感じ取れた。
「今朝は鳥肉かの、ホホホ」
バーチャマの一言にバザールの顔色がどんどん変化していく。絶え間なく続く攻撃にバザールはただ呑み込まれることしか出来なかった。
それを見て女性に誤魔化しは効かないと、何かを学んだムブラナ。
朝日がキラキラと眩しく輝いている。日の光に照らされた彼女達の姿はどこまでも清々しく輝いていた。
「えっと、何で被害者の俺が放っておかれるわけ?」
かずやはそんな状況でただ一人淋しくポツンと嘆いていた。
次回は夜10時までには投稿しておきます。




