51話 キングコブラ(4)
やっぱり戦闘シーンは苦手です。
一応キングコブラを倒したでいいのかな?
なんか迫力無くてすいません。
序盤から相手が強力なのはどうかなぁと考えてしまったもんでつい。
「んっ!!っく!!」
何度も何度もナイフを突きたてるも致命的な傷をつける事が出来ないカナの顔からはだんだんと疲労の色が浮かび上がってきていた。
小さな線状の傷を幾度となくつけているにも関わらず、巨大な図体を誇るキングコブラにとってはほぼ蚊に刺されに等しいようで全く苦しんでいる様子が無い。
ただでさえ攻撃が効いていないというのに足場までが最悪のこの状況でカナは徐々に体力を失ってきていた。
いや、どちらかというと精神が参ってきているというのが正しいか。
一向に風向きが変わらないこの状況で集中力を保っているカナはよく戦っているといえるだろう。何故ならこんなに長い時間ただ攻撃しているだけなら普通の人なら気が滅入ってしまうからだ。
カナはキングコブラの牙や尻尾を避けながらも変わらずに攻撃を続けた。
カナ達にとって幸いだったのはキングコブラが重量級の魔物だったということだ。一回一回の攻撃は重いものの、筋さえ見定ることが出来れば簡単に避けることが出来る。
しかし今の状況に最適な武器がない以上、カナ達にとってはとてつもなく分が悪かった。
「マイ、危ない!!!」
そんな時にカナの耳に響いたのは妹、マキの叫び声だった。慌てて声がした方へ身体を向けると、マイの身体が宙に浮いている。
暫らくの間意識をマイに向けるカナ。
カナは妹を助けにいくかどうかと考えているうちに判断が遅れた。
余所見をしている隙にカナの身体に重い一撃を喰らわせるキングコブラ。反応が遅れたカナは脇腹を抑えながら吹き飛ばされてしまった。
何も遮るものがない空中で体制を整えようと必死にもがくもののあまり上手くいかず、最終的にカナは背中から壁に衝突した。
背中に走る衝撃に自然と口から呻き声が漏れる。キングコブラの攻撃とは違う痛みにカナは整った顔を歪めた。
そのままズルズルと壁に背中を預けながらずり落ちるカナにどこかから叫び声が聞こえた気がしたが、打ち所が悪かったのか、朦朧とした意識の中では誰の声かは分からなかった。
だんだんと現実が遠ざかっていく。カナは歯を食いしばって意識を保とうとしたが身体は意思に反して動かなくなっていった。がくんと身体の力が抜ける。カナは最後に崩れゆく天井を見つめながら最後の意識を手放した。
◇◇◇
「カナお姉ちゃん……」
タミがもはや消えいってしまいそうな声で呟く。タミだけではない。他のメンバーも目の前で起きた事が信じられなかった。
あのカナでさえも一発で気絶させてしまうキングコブラの攻撃はもちろん、あれだけ傷をつけられてまだ動いているキングコブラに全員ただ呆れている。
その時、キングコブラがまた周囲を破壊し始めた。床が盛り上がり何かの破片が飛び散る。荒れ狂った室内がどんどん悲惨なものへと変わっていく。
絶対絶命。そんな言葉が頭をよぎるとタミ達はどうしようもない絶望感に苛まれた。
まるであの世が手招きしているようで、ここで一生が終わると考えるだけでゾッとする。
刹那、バーンという衝突音が室内に響き渡ると、今まで衝撃を耐えていた天井の一部が崩れ出した。その穴から砂が滝のように流れ出す。
そのまま砂が流れるのを見ていたタミ達だったが、突然誰かが悲鳴をあげた。見ると、その壁の下にはピクリと身動き一つしないカナの身体が寝転がっている。
「カナ!!!」
飛ばされたマイの近くに座りながら叫ぶアミ。砂の滝がカナに降り注ぐまでもう一秒も残されていない。
カナが押しつぶされる、誰もがそう確信していた時、一つの影がカナの身体まで近づいたかと思うと、そのままカナを抱え上げながら走りだした。
「うお~~~~!!!!!」
歯を食いしばりながら雄叫びをあげ足を必死に動かす。土で汚れた顔は大量にかいた汗でぐちゃぐちゃになり、ターバンで隠れていたボサボサヘアーは小石や砂が挟まりながらも風になびいている。その野生児のような汚れっぷりは機から見るとカッコ悪いものだったが、その瞳は何かを決意したかのように真っ直ぐに前を見据えていた。
青年、竹田かずやはカナをお姫様抱っこしながら死に物狂いで砂の滝から逃れようとしている。足場が悪い最悪の道でもはや本能的に走れる場所を進むかずや。
だが、それも長く続かず、かずやは何かに足を躓かせると、カナを前に投げ出す形で倒れこんだ。
ザー、と大量の砂が床を呑み込んでいく。カナは間一髪のところで砂の直撃を免れると、倒れた衝撃で意識を取り戻した。
ボーっとした思考のまま周りを見渡すカナ。左を向くと、手を一生懸命伸ばして這う若者の姿が目に入った。
同時に大量の砂が波のように若者を襲った。呑み込まれる寸前に何かを掴む彼の上を大量の砂が覆いかぶさった。
◇◇◇
「そ、そんな……」
巨大な壁のように立ちはだかるキングコブラに全てを呑み込まんとする砂の滝。その砂の波に呑み込まれていくかずやの姿を見つめながらアミは何も出来ない自分に焦りを感じながらも、脱力感に溢れた声を洩らしていた。
もうすぐカナも呑み込まれてしまうだろう。放心して客観的になったアミの思考は次に訪れるであろう未来を予知して固まっていた。
もう駄目なんだろうか、自分は何も出来ないのか、と自嘲気味に嘆くも身体は恐怖心に侵され凍ったままだ。
アミは一歩一歩確実に近づいてくる死に怯え震えていた。
「あ……み……ア…ミ、アミ、しっかりせい!!!」
突然頭を殴られるような声が脳を刺激した。外界との関係を閉ざそうとしていた脳が反応し、アミが我に返るとどうやら自分が濡れていることに気づいた。髪に滴る雫を見るにお茶だろうと判断したアミはそれをかけてきたであろう老婆を見上げると口を開いた。
「何をするんですか、大叔母様!!」
僅かに口を荒げるアミにバーチャマは両手でアミの顔を挟むと真っ直ぐにアミの瞳を覗き込んだ。
「いいか、アミ。一度しか言わんから良く聞くんじゃぞ。皆もよく聞くんじゃ」
バーチャマの言葉に全員が耳を傾ける。それを確認する間もなしにバーチャマは続けた。
「今からこの部屋の結界を破壊する」
衝撃的な発言に絶句する一同。
「今カナとあの坊主の身体には守護結界をかけてある。あの二人をこちらに呼び寄せるから少し待つんじゃ」
その言葉どおり、バーチャマが腕をあげると二人の姿が埋もれた砂の中から現れた。そのまま浮遊しながらバーチャマのもとに降ろされる二人。
「ハァ、おそらくあの柱を破壊すれば結界が解けてキングコブラも砂に埋まるはずじゃ。ハァハァ、その前にお前さん達は二人を連れて部屋を出なさい。ハァ、ハァハァ、もう扉も開くじゃろう。だから急げ、時間がない」
「そしたら大叔母様が…」
「そんなことは関係ない!早く全員の無事を確保するのじゃ!ハァ……」
【魔力茶】を飲みながら苦しげに声を絞り出すバーチャマの言葉に従い入口に向かって駆け出す一同。サリーはマイ、サキはカナ、タミはかずやにそれぞれ肩を貸しながら前に進んでいる。
「しかし、そんなことをしたら大叔母様の身体が……それに遺跡が……」
「私のことはどうでもいい、それにこんなに崩壊してたら調査も出来ん」
バーチャマは手を真ん中の柱に向けると荒くなった息を整えながらアミに言った。
「ぐはっ、あの柱の魔力を分散させるからアミはこのバッグをあの柱に向かって投げるんじゃ!!早く!!」
でも、と躊躇い気味にバッグ持ちあげたアミを急かすバーチャマはもう膝をついている状態だ。
アミはそんなバーチャマを見ると思い切ってバッグを柱に投げた。バッグは綺麗な孤を描き、柱に当たるとそのままバーンという音とともに爆発した。
柱が崩れる音と共に天井から大量の砂が零れ落ちる。
その様子に驚くアミにバーチャマは
「説明は後じゃ」
と言いながらアミの手を引くと片手に持った空瓶を投げ捨てながら入口目掛けて一直線に駆け出した。
パリーんという甲高い音と共に全方位から砂が溢れ出した。
「早く入るんじゃ!」
滑りこむように扉をくぐるアミに続きバーチャマが飛び込む。
ドアを閉める際に聞こえてきたキングコブラの叫び声が辺りに響き渡った。
次回は朝方に更新する予定です。




