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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第一章 オカリナ遺跡編
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46話 真ん中の部屋へ

 サッと音も立てずに誰かが遺跡内に飛び降りる。数々の星達と共にひょっこりと現れた月の下、霞むように青白く輝く月光はオカリナ遺跡の入口を揺りかごのように優しく包み込んでいた。


「夜の調査ってなんか隠密に行動するって感じでいいよね、マイ?……ってまた寝てるし」


 バーチャマ、タミの順に入口の中に飛び込んだ後、いよいよ自分の番になったマキは背後に佇むマイに声をかけながら入口を覗き込んだ。しかし、後ろから返事が返ってこないことに気づいたマキは直様マイの様子を確認すると、案の定マイは立ちながら寝るという人間離れした荒技を披露しながら静かに寝息を立てていた。


「んもー、全く……。マイは寝過ぎだよ、早く起きて」


 肩を揺さぶりながら少しだけ声を張り上げたマキに反応したのか、マイは半分だけ瞼を開けると、怠そうに背骨を曲げて歩きながらストンと遺跡内に飛び降りていった。この状況でもまだ寝ていられるマイの無神経さに呆れながらも、マキは彼女の後を追うように遺跡の中へと飛び降りた。


「それじゃあまずはどのドアが開いているか調べるかの」


 全員が集まった早々にバーチャマが全員に声をかける。既にどんな場所か分かっているマキとタミはその言葉にコクンと頷くと一番奥のドアから順に開けることにした。


「一番奥開きません」


 タミの報告に全員の顔が沈む。開始早々出鼻をくじかれたように感じたのかいつも眠そうな顔をしているマイも変な夢を見ているかのように小さく眉を顰めた。

 タミが次のドアを押す。しかし、今回はガタっとドアが引っかかるとすぐに止まってしまった。ガクッと肩を落とす一同。しかし、すぐに気を取り直したバーチャマは真ん中のドアを押そうと手をドアにかけると、そんな彼女より先にマイとマキが入口側のドアを押した。


「はー、駄目だ、これも開かない」


 とうとう溜息までつきだしたバーチャマ達。しかし、バーチャマは何かに気づいたのか顔を急にパッと輝かせたと思うと勢いよく正面のドアを押した。

 バターン、という小気味良い音が鳴り響いた後、ドアがその反動で開いたり閉じたりしながら元の位置に戻る。


「真ん中の扉がようやく…………。ホホホホホホホホホホホホ……」


 その途端、バーチャマがいつも以上に薄気味悪い声をあげたかと思うと突然狂ったように笑い出した。その様子にマキとタミは思わず一歩下がってしまう。しかし、バーチャマはそんな二人を気にする素振りも見せずにただ嬉しそうに気持ち悪くなるくらいに笑っていた。


「いつ来ても開かなかった真ん中の扉がとうとう開いたぞ……」


 その時だった。


「スー……」


 まるで何かが這ってくるような無声音が彼女達の耳に入ってきた。それを聞いた直後、さっきまで奇妙な笑い声をあげていたバーチャマはサッと表情を変えると、全神経を自身の両耳に集中させた。


「スー………」

「こ、これは……⁈」


 また無声音が廊下を通ってくる。そのすぐ後にドン、という音が聞こえたかと思うと何か重い物が落とされたように周りの地面が揺れた。


「シャ〜!!!」


 直後、地獄から届く叫び声のような刺すような鳴き声が木霊した。知らずと身体を硬直させ冷や汗をかいてしまうようなつんざく声。

 バーチャマはこの音の正体を確信すると、いつになく低い声で全員に伝えた。


「これは、間違いなくキングコブラじゃ」


 マキは息を呑み、タミの顔は青ざめ、バーチャマの額からは一筋の冷たい汗が流れ落ちる。マイは突然うー、と唸なったかと思うと、まるで悪夢を見ているかの如く顔を顰めて頭を抑えていた。



 ◇◇◇



「それにしても、ううっ、吐きそう」


 今俺たちはオカリナ遺跡の内部の入口に一番近い側の部屋に閉じ込められている。そんな中、俺は吐き気を催すほどの臭いを撒き散らす大きな蛇の死骸に顔を顰めていた。


「どうやら臭いのは蛇自身じゃなくて蛇の持つ毒みたいですね」


 そんな酷い臭いが充満した部屋でどうやって嗅ぎ分けたのかは不明だが、カナさんはこの匂いの発生源が血や死骸では無く、蛇が持つ毒だと気づいたようだ。俺はそんな犬のような嗅覚より、臭いを嗅いでも冷静に蛇を調べられる根性に少し感嘆していた。

 蛇をなんとかしよう、と決めてからそんなに時間は経っていないのに、解体やら調査とやらを難なくこなす彼女達に尊敬の念を抱く。もう、俺なんかの手助けはいらないんじゃないかと思っていた矢先、蛇の口の辺りを見ていたカナさんが俺を手招きした。


「えー、何でしょうか、カナさん?」


 一見何の問題も無いように見えるカナさん。しかし、カナさんは蛇の牙の部分を指差しながら俺を見てこう言った。


「ちょっと一人じゃ抜けそうにないから、かずや君も手伝って」


 床に深々と突き刺さった牙は確かにカナさん一人の力ではビクともしない。俺は袖を捲り上げながら気合いをいれると蛇の牙に手をかけた。


「あっ……。えっと、カナさん?」


 すると、カナさんは俺の手に当たるかどうかという微妙なラインで牙の根元の部分を掴んだ。だが、問題はそこでは無い。何とカナさんは力が入れずらいとかなんとかで俺の後ろに回り込むと俺のすぐ後ろにしゃがみ込んだではないか。

 肩、というか身体がほとんど密着した状態でしかも力を入れる時にうーん、という声や息がダイレクトに首に当たるものだから俺は思うように力が入らず、集中力でさえも途切れてしまった。

 こんな状態が続いたらきりがない、そう判断した俺は全意識を牙に向けると思いっきり引っ張った。


「うわっ⁉」


 急に抜ければ後ろにひっくり返る。俺たちは作用・反作用の法則に従って後方に飛ぶと、バランスを崩してしまった。俺は尻餅をつくだけで済んだが、後ろで密着していたカナさんはそうはいかなかったらしい。カナさんは背中を打つとそのまま俯けに倒れこんでしまった。


「痛テ、って、あー、カナさん大丈夫ですか?」


 くるっと振り返りながらそう尋ねると、カナさんは何事も無かったかのように笑って座り直した。


 ーーーいや、まぁ、普通は平気か。


 俺は平気だと言ってニッと笑うカナさんに同じように笑い返すと、そのまま立ち上がって未だに座ったままのカナさんに手を差し出した。

 少しだけ驚いたかのように目を見開いたカナさんだったが、すぐに俺の手を取ると起き上がった。案外、いや、予想以上に軽かったからか少しバランスを崩しながらも立ち上がる。


「ありがとう、かずや君」


 清々しい笑みを浮かべながら礼を言うカナさんを眩しく思いながらどういたしましてと返すと、まだ手を握っていることに気づいた。思わずパッと手を離してしまった俺を見てこれまた意外そうに俺を見つめるカナさんに失礼だったか、とちょっぴり後悔しながらも俺は言った。


「いや、ほら今僕の手、血で汚れてて汚いし、牙の先端の方を持ってたから毒ついてたかもしんないし……だから拭いたほうがいいですよ、ね?」


 クスクス、と口元を抑えて笑い出すカナさん達。きっと必死の弁解に呆れて笑われたのだろう、と思い俯いてしまった俺。カナさんはそんな俺の肩に手を置くとまたクスリと笑いながら口を開いた。


「そんな事考えてたのかい?大丈夫、ちゃんと拭くよ」


 カナさんの言葉にガビーん、と固まる俺。


 ーーーいや、はい正しいんですけどね。でもそんなにハッキリ言わんでも……。


 俺は心の涙を流しながら肩を落とした。そんな俺をまた笑うカナさん達。

 さっきまでとは違う柔らかい雰囲気に少しだけ心が軽くなった。

 全く、蛇の臭いなんてちっぽけな事を気にしていたのはどこのどいつだ?

 自分のことを棚にあげながらそんなことを考えていると、突然、穴の中から鋭い無声音が聞こえてきた。

 全員の顔つきが変わる。そして、同時に全員が耳に神経を集めた。


「シャ〜!!!」


 耳をつんざくようなとげとげしい声、そんな声が聞こえてきたかと思うと辺りが微かに揺れた。

 砕けた床の破片がカタカタと不気味な音楽を奏でる。


「これは確かめる必要がありそうね……」


 アミさんがそう呟くと、カナさんも同調するように頷いた。サリーさんとサキさんはお互いを抱き合いながらも仕方なさげに頷いている。


 ーーー俺はどうなんだろう?


「やっぱり行くしかないのか……」


 そう呟いた俺は人一人だけなら通れそうな穴を見つめる。元は排水口サイズの大きさだったのに今では人一人飲み込める大きさだ。正直言うとそんなことが出来る蛇達がいるところに行くのは怖い。でもそれで日本に帰れるのなら行くしかない、そう思った。

朝早くから起きてやっていたら間に合いました。


次回は3月1日18時くらいに更新したいと思います。

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