42話 遭遇
太陽が日中の役目を終え、月にバトンを渡す頃、かずや達一同は昼間探索していたオカリナ遺跡に下見の為、また入っていた。目指していたのは入って始めの部屋、現在遺跡の中で唯一開いている部屋である。
遺跡の中では吹き寄せる風も巻き上がる砂も今はその身なりを潜めて、ただただ静寂に包まれている。
時折耳元を撫でる息遣いと心臓の音に、かずやは昼間とは違った緊張感を感じていた。
「…………」
誰も口を開かない状態が続く。チロチロと燃える蝋燭の火に照らされた彼らの瞳は目の前の光景にただ釘付けであった。やがて催眠から解かれたかのように目を逸らしたカナは背後に佇むかずやに確認を取るかのように声をかけた。
「これがキングコブラの……」
カナが全てを口にする前に、かずやはキングコブラの抜け殻を見つめたまま大きく頷いた。
今彼らの目の前には人の丈を遥かに超えた巨大な蛇の抜け殻が横たわっている。カナはその長さに思わず口を噤み、既に一度目にしていたかずやでさえもまだ鳥肌が立つほどキングコブラの抜け殻は迫力があった。
もし実物を見たらどうなるか、と想像しただけで身震いしてしまいそうな大きさにかずやは内心で冷や汗をかいてしまう。
また沈黙だけが場を支配する。しかし今度その沈黙を破ったのはカナではなく、その姉アミだった。
「私達が受け取ったのより大きいですね……」
そう言ってポケットから何かを取り出したアミ。しなやかなその手の平に現れたのは綺麗に巻かれた蛇の抜け殻だった。
やがてそれを慎重に伸ばしていき、部屋の角の方に転がるキングコブラの抜け殻と比べるように並べ、寝かせるとその差は一目瞭然だった。
明らかにこの部屋にあるものの方が長い。三倍、とまではいかないが二倍以上はある。
しばらくの間、時が止まったかのように眺めていたかずや達だったが、一人二人と視線を逸らしていき、最終的にはかずやも何事も無かったように顏を背けた。
「とりあえず、戻ろうか……」
無理矢理絞り出したような声がカナの口から漏れる。しかし、その表情は安堵の色に染まっており、カナが必要以上に緊迫感を感じていたことが伺えた。
明日の探索の為に気軽に下見に入ったのに予想以上に緊張感を感じていたからだろう、かずや達の後方にいたサリーやサキも今ではホッと胸を撫でおろして、強張った頬の筋肉を緩めていた。
「うん。早くこんな薄気味悪いところから抜け出して大叔母様のところに戻ろう」
安心したように手を胸に当てそう呟くサリーにサキもうんうんと小刻みに頷く。ひとまず探索を終えたかずや達は踵を返し元来た道を振り返った。その時、
「シャー‼‼‼」
と布を鋭く擦り合わせたような無声音が彼らのいる部屋に響き渡った。慌てて音のする方向にランプの灯りを向けるかずや達。そこには昼間見つけた穴から這い出てきた大きな蛇が一匹いて、薄紅色の舌を突き出し、口をパックリと開けながら、今にも飛びかかるところだった。
◇◇◇
その頃、地上ではバーチャマが日の変わり目を今か今かと待ちながら次の日に使う備品の確認をしていた。
「蝋燭は充分にあるし、非常食の方も問題はなさそうじゃの。それじゃあ、ランプは……ひー、ふー、みー……。あれ、足りない。おかしい……。ん〜、私も年かの……。にー、しー、ろー、やー……。やっぱりいくつか足りなーい」
「大叔母様、何をされているんですか?」
バーチャマが点検しているところにやってきたのはカリン。彼女が何やら唸っているのを心配して様子を見にきたようだった。
カリンの存在に気がついたバーチャマはランプの数が減っていることを伝えると、カリンは首をかしげながらおかしいですね、と呟いた。
「でも、昼間遺跡に入った時は全部あったんですよね?」
自信なさげにそう尋ねるカリンにバーチャマはしっかりと頷くと、今度は少し慌てた様子でカエデがやってきた。
「大叔母様!なんかお姉ちゃん達がいなくなってててっきりかずや君のとこかと思ったらそのかずや君もいなくてそれから……」
焦って興奮しながらいつも以上に訳がわからないほど早口で話すカエデ。そんな彼女に対し、カリンは落ち着くように声をかけながら宥めようとしたが、残念ながらカエデの耳には届かなかったようだ。カエデは、
「とにかく早く来て!」
と一言告げるとカリン達の制止の声も聞かずに急いで駆け出て行った。
「カリン、とりあえず見てきておいで」
バーチャマはカエデの様子に呆れて苦笑しながらカリンに追いかけていくよう促すと、また確認作業に戻っていってしまった。カリンも溜息を洩らしながら荷車から出て行く。
行き先はかずやのいるテント。カリンが駆け足で彼がいるテントまで向かうと、そこにはテントの前で休むことなく右往左往するカエデの姿があった。
「カエデ。……何が起こったの?」
忙しなく動くカエデに目をとられていたカリンはすぐには気がつかなかった。
「誰が……。どうしてこんなことに……」
かずやのテントが手のつけようが無いほど荒らされていたことに。見るも悲惨な状態に思わず顔を顰めたカリンは誰に言うともなくそう呟くと、とりあえずテントを調べる為にカエデに呼びかけた。
「…………」
しかし、カエデは俯いたまま口を噤んでいる。いつもとは違う様子にどうしたのかと聞こうと手を伸ばしたカリンだったが、カエデの肩が小刻みに揺れているのを見て咄嗟にやめた。
同時に伸ばしていた手を降ろすカリン。そのまま視線を落としたカリンの目線の先にはきつく握られたカエデの拳があった。暗くて良くは見えないが何かをギュッと握りしめている。
カリンはその手を取ると、そっと開いていった。
「これは…⁈」
中から現れたのはパサパサになった粉末状の何か。それが、昼間見た蛇の脱け殻だと気づくまでカリンはただ呆然と立ちすくんでいた。
一応次週の同じ時間帯に更新するつもりですが、二月は少し忙しくなるので間に合うか分かりません。
その場合はどこかで埋め合わせしておきます。
読んでいただきありがとうございました。




