37話 増援到着
オカリナ遺跡内部の一つ目のドアを開けた先の廊下にバーチャマ率いる遺跡調査班はいた。先頭を歩くタミの持つランプから漏れる小さなオレンジ色の光に照らされ、調査班は額にうっすらと汗を浮かべながら歩いていた。
そんな調査班の先頭から二番目、壁の老化にしたがって発生したカビ臭い匂いに若干顔を顰めていたかずやは彼の後ろを歩くバーチャマにある疑問を投げかけていた。
「どうして何度も調査したのにこの遺跡に来ることにしたんですか、バーチャマおばあちゃん?」
僅かに後ろを振り返りながら歩くかずやにバーチャマは一つ溜息を吐くと、ポツリポツリと話しはじめた。
「私がこの遺跡に何度も足を運んでいたことはタミから聞いたじゃろ?」
確認するかのように問うバーチャマにコクリと頷くかずや。そしてまた一瞬の間の後、バーチャマは前後を確認するかのように首を動かしながら閉じていた口を開いた。
「まぁ、それはこの先の部屋を見れば分かることじゃよ」
何かを勿体ぶるかのようにそう呟いたバーチャマにまた何かを言おうとしたかずやは前から彼の服の裾を引っ張るタミによって遮られてしまった。何事かと、バーチャマを尻目に振り返ったかずやはタミの指が差す物にギョッとして目が釘付けになった。
そこには山積みにされた蛇の抜け殻がその先のドアを覆うかのようにかずや達の前に立ちはだかっていた。
蛇の抜け殻の中には干からびてパサパサになったものや、微妙に湿った柔らかいものなどがあり、タミはその中から一つを掴みあげると、かずや達の方に振り向いてボソリと何かを呟いた。
「この抜け殻、まだ新しい」
運よく聞こえたのかただ単に耳が良かったのか、最後尾にいたカリンがタミの言葉にビクッと肩を震わせてそのまま言葉を発した。
「確かバザールさんが遺跡に蛇が大量発生したって言ってました……」
不安気にそう伝えるカリンに同調したのか今度はマキが蛇の抜け殻から顔を背けながら口を開けた。
「蛇、嫌い。ニョロニョロしてるの気持ち悪いし」
マキの言葉に唸りながら何かを考え出したバーチャマは頭から答えを絞りだすように首をひねると、蛇の抜け殻を手にぶら下げたタミに目線を送った。
その目線を何かの合図だと捉えたタミは何かとバーチャマに問いかけると、バーチャマはタミの持つランプを指差しながら目を細めて口を開いた。
「何で急に蛇が現れたのかのぉ?まぁ、それは後にして確か蛇は火が苦手だった筈じゃから……。タミ、済まんがドアを開けてそのランプの火を蛇の抜け殻に分け移して中に投げ入れてくれるかい?そして直ぐにドアを閉めて欲しいんじゃ」
タミは言われた通りの手順で蛇の抜け殻に火を灯すと、そのままドアを開けてそれを思いっきり投げ込んだ。そして直ぐにサッとドアを閉めるタミ。
そのままかずや達は二十秒ほど待つと、バーチャマがタミにドアを思いっきり開けるように声をかけた。
タミがすぐさまドアを押し開けると、その風圧で燃えていた蛇の抜け殻の火が一気に消えて無くなった。
少しだけ焦げ臭くなった空気に鼻をつまみながらかずや達はタミを先頭に一斉に部屋の中に入ると、そこにはほぼ何も無い広い空間があった。
そのまま部屋の中へ足を踏み入れる一同の背後ではバタン、という音が部屋中に鳴り響いていた。
◇◇◇
「んー、眠い……」
その頃地上ではマイがトゥインカの上に乗りながら寝ぼけ眼を擦っていた。
マイは北側を隈なく監視しながら段々と襲いかかってくる睡魔に対抗するかのように瞼の辺りを押している。しかし、眠気には敵わなかったのか次第に頭が舟を漕ぎはじめた。その度にトゥインカは呆れたように息を吐き出すと、軽くマイの頬を突つく。
そして何かを思い出したかのように目をパッと開くマイにまたもや息を漏らしながらトゥインカはマイと共に北側の監視を行っていた。
その傍らにはムブラナが既に退屈そうに足で砂の上に絵を描いている。
ムブラナは先ほどから繰り返されているマイとトゥインカの行動につまらなさを感じながら砂をいじっていた。
始めに描いたのは母トゥインカの似顔絵。子供ながらの観察眼の鋭さと、元々器用なのか、それに見合った技術を持ち合わせていたムブラナは早々と不格好ながらかなり精巧に似顔絵を描き終えると、そのままトゥインカの翼をちょんちょんと突ついて彼女に自分の描いたものを見せた。
「見て、母ちゃん!母ちゃんだよ!」
ムブラナは裏表の無い純粋な笑顔を浮かべながらトゥインカを呼ぶと、トゥインカはムブラナの絵の上手さに驚愕しながらその才能を褒め称えた。
「凄いね、ムブラナ。母ちゃんそっくり。将来立派な画家さんになれるよ」
息子の頭を翼で撫でながらそう言うトゥインカに、ムブラナは嬉しそうに、そしてくすぐったそうに身体をよじる。
しかし、そのせいで砂に描かれた似顔絵が消えてしまった。かなり落胆してしまったムブラナを慰めるように今度は強めに撫でながら宥めると、ムブラナはケロっとまるで無かったかのようにまた絵を描きはじめた。
やがて、一通り撫で終わったトゥインカが視線を北側の砂漠に戻すと、何か黒い点が動いているのを発見した。見間違いかもしれないと目を擦っても黒い点は消えていない。
その黒い点まではかなりの距離があるのでさほど心配してはいなかったが、トゥインカは用心の為にいつの間にか寝ていたマイを起こすと、そのまま警戒の体制に入った。黒い点が今度は空に飛び立ち、一気に近づいてくる。
トゥインカは迎え撃つ為に助走をつけて走り出そうとすると、背中のマイがキョトンとした様子で口を開いた。
「あれっ?カナお姉様だ」
寝起きのマイの言葉を聞いたトゥインカはすぐに警戒を緩めると、マイにあの黒い点が誰なのかを確認した。
「あれは私のお姉ちゃんだよ。多分増援を連れてきたんだと思う」
マイがゆっくりと話す際にも確実に黒い点は近づいてくる。やがて大きな鳥と、その上に乗った女性がマイ達の姿を見つけると、砂を高く巻き上げて着地しはじめた。
砂がかからないよう距離をとるマイ達。そして大きな鳥が地面に着地すると、背中から女性が飛び降りてマイ達に近づいていった。
マイの眠そうな姿に苦笑を浮かべて近づいてきたカナは少し切羽詰まったように声をだした。
「オカリナ遺跡内にキングコブラがいる」
トゥインカはその名前に反応し顔色を変えると、緊急事態を知らせるかのようにクケェっと鳴いた。




