33話 オカリナ遺跡到着
ザザっとシャベルで穴を掘るような馬の鈍い蹄の音が鳴り響く。馬が足をあげる度に風で砂が舞い上がり、馬に乗る女性達はマントで目元を覆いながら辛うじて視界を確保していた。
「カナ、オカリナ遺跡まであとどれくらいなの?」
馬が蹄で小気味良い三拍子を刻む最中、先頭を走る女性が亜麻色の髪の毛を靡かせながら空に浮かぶ黒い影に向かって声をかけた。
「もうすでに中間地点は通り過ぎました、お姉様」
お姉様、と呼ばれた女性は未だに吐き気に襲われていたがさすがに一日中走りっぱなしだったからか僅かとはいえ、この状態に慣れてきた。
本来は馬に乗って酔うことなどないのだが、何せ足場がかなり不安定で時々余計に揺れるのだ。
女性はこの状況に少しイラついていたが、今の最優先はオカリナ遺跡へ行くことだと何度も自分に言い聞かせ自分を落ち着かせていた。
すると、女性の後ろから今度は別の声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん、そろそろ馬も朝から走りっぱなしで疲れてきたから少し早いけどお昼にしない?」
酔っていた女性は彼女の提案にすぐさま賛成すると、そのまま馬のスピードをゆっくりと下げながら馬から降りた。
地面に着いたものの、さっきからの揺れのせいで足元がおぼつかない。女性はその場にへたりと座り込むとそのまま馬にかけてあったカバンから水筒を取り出して勢いよく飲み始めた。しばらくの間喉がゴクゴクと鳴る音だけが耳に入ってくる。
やがて女性が水筒の半分以上を飲み干すと、安心したかのように息を吐き出した。
そして女性は他の女性達を見渡すとつぶらな目を少しだけ細めながら馬に水を与えている女性に声をかけた。
「サリー。さっきお母様からもらった袋、ご飯が入ってたでしょ?今日のご飯は何?」
サリーは馬に水をあげながら腰に下げていたポシェットに手を入れるとそのまま何かが入った袋を取り出して中身を見せた。
「おにぎりみたいだよ、アミ姉ちゃん。すごい、お茶の香りがする」
袋から漏れる茶葉の香りを楽しみながら笑みを浮かべると、サリーのその薄い桃色に染まった頬に小さな笑窪が現れた。
そのままアミに袋を差し出すサリー。アミは静かにそれを受け取るとサリーと同じように目を閉じながら匂いを嗅いだ。サリーのいうとおり確かにほのかなお茶の香りが鼻につく。
アミはそのお茶の香り付きのおにぎりの中から一つを手に取ると、そのまま一口パクリと頬張った。
まるでお茶漬けをそのままムスビにしたような味に心当たりがあったのかアミはサリーの方に振り向くと手についたご飯粒を取りながらサリーにこう尋ねた。
「これ、ミサさん特製のお茶おにぎりだよね?なんでお母様はこれを……」
アミは母、アントワンヌからもらったおにぎりを少しだけ不思議に思いながら袋の中身をまた確認する。アミはご飯を噛みながらそう呟くと、今度は袋を残りの二人に渡してこう伝えた。
「サキもカナも早く食べた方がいいよ」
アミの言葉に素直に頷く二人は言われたとおりにおにぎりを手に取るとそのまま口に含んだ。
アミは水筒の残りをゆっくりと飲み干しながらそのまま雲一つない真っ青な空を見上げる。
照りつける日の光に目を細めるその姿は何か大事なことを思い出しているかのように見えた。
◇◇◇
三本に枝分かれした足跡と、一直線に伸びる二つの車輪の跡、その間に点々と繋がる足跡がほぼ砂だらけの砂漠に落書きをしている。その足跡を辿ると、そこには比較的大きな一同がこの先のオカリナ遺跡へ向かって行進する姿があった。
一同は規則正しく並べられた大きな岩の間の道を進みながら確実に一歩ずつオカリナ遺跡まで近づいてくる。
やがて岩に囲まれた道を通り抜けると、そこには小さな石が積み木のように積み上げられた空間があり、更にその周りには先ほど通った道にあったような岩が石を守るようにその存在を主張していた。
石は風や砂嵐で幾らか風化していたが、特殊な重りが付けられていたのか崩れずにキチンとその形を保っている。
そんな中、かずやは明らかに人工的なこの空間を指差し、荷車の中にいるバーチャマに疑問を投げかけていた。
「えっと、ここがオカリナ遺跡ですか、バーチャマおばあちゃん?」
かずやの質問に対し朗らかな笑みを浮かべながらバーチャマは即答した。
「そうじゃよ。まぁ、入り口は別のところにあるんじゃがの、ホホホ」
そう言ってカエデを促し岩の裏手に誘導するバーチャマ。そして頭に疑問符を浮かべながら付いて行く残り一同。
やがて全員が完全に岩の裏に周るとそこにはポッカリと開いた大きな穴が地下にまで続いていた。
この穴と同じようにポカンと口を開けるかずやとムブラナに対し、バーチャマは満足げに笑うとそのまま偉そうに体を反らしながらやけに響きのある声で全員に伝える。
「ここがオカリナ遺跡の本当の入り口よ」
………前にトゥインカが口を開いた。
嬉しそうに歓声をあげ、手を叩く一同とは裏腹にバーチャマは荷車の中へと引っ込んでいってしまった。




