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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第一章 オカリナ遺跡編
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29話 朝の体操

 どうやら完全にばれていたようだ。まぁ、あんなに盛大にクシャミなんかしたらそうなるわな。

 俺はそう思いながら隣であちゃー、とおでこを抑えるカエデさんを見つめた。暗くて表情は見えなかったが、その顔はすごく残念そうに見えた。

 ヒューっと体に染み渡るような風が吹く。さすが夏の砂漠だけあって比較的暖かめの風だったが、長時間耳を傾けるだけで体を全く動かしてなかったので、汗でひんやりした部分がゾクゾクと震えた。

 夜の砂漠の温度が日中と全然違うというのはどうやら本当のことらしい。

 俺は地学かなんかで習ったことをふと思い出しながらカエデさんに声をかけた。


「じゃあ、僕はテントに戻ります。見張り頑張ってください」


 そう言いながら俺は踵を返すと、そのままテントの方へと歩いていった。

 俺の背中を押すように風が吹く。巻き上げられた砂が身体中に当たって地味に痛かった。



 ◇◇◇



「見つかったか?」


 スーっと短い無声音が暗闇の中で木霊する。荒らされた床、倒れた古い家具、壊された壁の破片。

 大昔は立派な部屋であったのであろうその部屋にかつての面影は無く、今ではただただ物が乱雑に転がっていた。

 そんな中、その部屋の中央に置かれた台の上では何者かが何かを探しながら自身の部下を見降ろしていた。


「いいえ、ボス、どこにも。【鍵】どころかそれらしきものも見当たりません」


 それを聞いた途端、台の上に座っていたボス、と呼ばれたリーダー格の蛇がその長いとぐろをほどき、尻尾で部下の首を締めた。その瞳は怒りで血走っており、蛇はその毒の滴る牙を剥き出しにしながら威嚇した。


「いつになったら見つかるのだ‼もうすぐそこまでで期限が迫っているのだぞ‼真面目に探しているのか‼」


 怒鳴られた部下は恐怖で顔を真っ青に染めながらもがき苦しんでいる。体は恐怖で小刻みに震え、口は酸素を吸い込もうと必死に開こうとしていた。その様子を見て締め上げる力を一層強くするリーダー蛇。


「も、申し訳ございません、ボス。後、三日。…三日だけ猶予を下さい」


 苦しみながらも掠れた声でそう告げる部下にボスは締めていた尻尾の先を緩めた。静かに自分の台座へ戻るボス蛇に部下は安堵の色に染まった息を漏らした。台座の上でとぐろを巻き始めたリーダー蛇は威厳たっぷりの響きのある声と共に口を開いた。


「もし三日以内に見つけることが出来なかったら……その時は分かっているな」


 ボス蛇は白く鋭い牙と血のように紅く染まった舌をちらつかせながら尻尾で自身の口の中を指した。その後に尻尾の先を首の前で真横に動かしてスーっと威嚇した。


「わ、分かっています。ボス……」


 部下は体を小さく縮こませながら震える声でそう返事をした。そしてまた部下は周辺を隈なく探しながら暗闇の中に消えていった。



 ◇◇◇



 空が赤い。遥か地平線の彼方から顔を出したのは真っ赤に染まった太陽だった。

 途中で遮るものがない砂漠の上では朝焼けが最高の状態で見える。

 俺はその幻のような美しい朝日に向かって勢いよく水しぶきをあげていた。砂がまた黒く染まる。

 朝の日差しと水しぶきが合わさって俺の前では小さな虹のアーチがかかり、凄まじい解放感とともに七色の橋は姿を消した。

 俺はズボンをあげるとタミにもらったハンカチで手を拭きながら大きく伸びをした。物凄く開放感を感じる。

 俺は初めて経験した砂漠の朝に少しだけ感動していた。日本だとまるでアフリカにいるようなこの感覚はまず味わえないだろう。

 僅かながらに優越感を感じながら俺はそのまま朝日を背に自分のテントまで戻った。

 テントに戻ると、朝の訪れとともにダチョウ達やハーブ二号が目を覚ましており、荷車の近くではバーチャマおばあちゃんが体操のようなヨガのような不思議な動きをしていた。

 意外に体柔けぇなぁ、とか思いながら一部始終を見ているとバーチャマおばあちゃんが俺に気づいたのか変なポーズで顔だけ俺に向けて俺を呼んだ。


「おー?!お前さん若いのに朝がはやいのぉ。さては歳を誤魔化してるとみた!」


 バーチャマおばあちゃんがやけにテンションの高い声で俺にそう告げると今度は片脚を持って上にゆっくりと伸ばしはじめた。息を長めに吐きながら精神統一をするように目を閉じるバーチャマおばあちゃん。俺は軟体動物のように柔らかい脚に感嘆しながら先ほどバーチャマおばあちゃんが言っていたことについて反論をはじめた。


「いや、僕、歳誤魔化してないですよ⁈普通にトイレ行きたくなったから起きただけです。バーチャマおばあちゃんこそこんな朝早くから何をしてるんですか?」


 明らかに何かしらの体操をしてるぐらい見れば分かったがとりあえず目が覚めてしまったので会話をすることにした。バーチャマおばあちゃんは今度はもう片方の脚をあげながら返事をした。


「冗談じゃよ、ホホホ。ジョークが分からん男は女に捨てられるぞ。まぁ、それはともかく、私は毎日の健康と美容の為に昔からこの体操をしてての…ちょっとした長生きのコツじゃよ。ほれ、今日はオカリナ遺跡に入るじゃろ?じゃからまぁ、いわゆる準備運動みたいなものじゃ、ホホホ」


 やがて体操を終わらせたバーチャマおばあちゃんは染み出た汗をサッと拭きながら荷車の中へと戻っていった。

 一人ポツンと残された俺は誰も見ていないことを確認してからさっきのバーチャマおばあちゃんのように脚を持ち上げてみた。体の半分ほどきたところで俺はギブアップ。今度は足をくっつけて地面を触ろうと試みるがなんとか中指の先っちょがついただけでおばあちゃんのように手の平はつかなかった。

 くそ、と思いながら体の力を抜く俺。どれをやってもバーチャマおばあちゃんには敵わなかったので今度は得意な股関節をやった。

 胡座をかくように座り足の裏をつけて体を前に倒す。地面に頭がついた俺は小さくガッツポーズをしながら上体を起こした。


「ねぇ、何やってるの?」


 突然、声が聞こえたかと思うと目の前にタミが目を擦りながら現れた。

 俺は慌てて座り直すと腹筋をはじめながら答えた。


「じゅ、準備運動?」


 声が上ずって疑問系になってしまったが素直にバーチャマおばあちゃんの真似をしていたなんていったら変に思われるだろう。変なプライドの為にそう返すとタミは困った顔をしながらまた訊いてきた。


「なんの為に?」


 俺は辛くなってきたお腹周りに集中していたのか咄嗟にパッと違う台詞を言ってしまった。


「健康と美容の為?」


 シーン、と静まる場の雰囲気。タミは苦笑いを浮かべながら頑張ってねと言うと、そそくさと荷車の中に消えていった。

 果て、俺はなんか変なことを言っただろうか?

 そう思いながらタミがいた場所を見つめる。

 何故だか俺の周りだけ夏の砂漠であるにも関わらず非常に寒くなった気がした。

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