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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第一章 オカリナ遺跡編
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2話 蜘蛛

「…………んっ⁈」


 ここはどこだ?目を開いた瞬間飛び込んできた景色は白みがかった黄色の天井だった。ああ、なるほど。俺は病院にいるんだ。それならさっきまで歩いていた砂漠や、他のことにも説明がつく。どうやら、俺は夢を見ていたらしい。しかも、とてつもなく酷い夢を。確かに、海の海岸に砂漠なんてあるわけないし、そもそも裸だったのも納得がいく。普通ならわいせつ罪で捕まるもんな、うん。


 そんな事を考えながら身体を起こそうとすると、全身がヒリヒリして起きあがれない。そっか、昨日日焼けし過ぎたなと思いそっと上半身を起こした。ヒリヒリする首を抑えながら周りをよく見ると、普通の病院のイメージとは違いどこか古びている。


「あれっ?病院じゃなくね?」


 窓にはカーテンの代わりにすだれがあり、ドアの代わりにふすまがある。床は畳でしかも自分はベッドではなく布団の上に寝ていた。きっとここは病院じゃなくて友達か誰かの家なんだろう。でも俺の友達でこんな和風な家に住んでたやついたっけ?しばらくそんなことを考えてから布団に手をかけ、立ち上がろうとした。


 その時、がらがらっと音がするとふすまから何かが出てきた。そして俺は気づいた。ここがまず日本ではないことを。なぜならふすまを開けて出てきたのは人ではなく、人の丈ほどある大きな蜘蛛だったからだ。



 ◇◇◇



「それでカナ、あなたが発見した人は今どこにいるのかしら?」


 薄暗い部屋の中央に黒い服を着た女性が座っている。背筋と彼女の黒く長い髪をストレートに伸ばし、すらっとした体型を強調するように佇まうその女性は上品なワインの様な雰囲気を醸し出していた。そして今彼女の雰囲気以上に目立つその顔立ちは何か理解できないものを見たとでもいうかの様にその眉を歪め、きつめの印象を与えている。


「今は別室に寝かしていますが、まだ意識が戻った様子はありません。ですが……」


 少し言いにくそうにしているカナだったが、意を決したのかやがて躊躇いがちに言葉を繋げた。


「呼吸や脈は感じるとることが出来たのですが、結界を破って砂漠エリアから入ってきたにも関わらず、結界を破る為に必要な魔力を感じ取ることが出来ませんでした」


 それを聞いた途端、女性の顔が驚愕の色に染まった。無意識に手をぎゅっと握りしめる。そうして、今度は確認するかのようにゆっくりと問いはじめた。


「じゃあ、その人は魔物が化けたものではなく、完全に人だったのね。だとしたらおかしいわね。人があの砂漠をなんの荷物も持たずに歩くだけでも大変なことなのに…………」


 確かに荷物を何も持っていない上に裸で歩いていたというだけですでに不自然ではある。しかし不可解な点はこれだけでは無かった。一つ目はなぜあの砂漠から人が現れたのかだ。あの砂漠には人間はおろか普通の生き物さえほぼ存在しない。いるのはそう、魔物である。かつては砂漠の向こうには人が住んでいた。しかし、今では住んでいるものはいないとされている。二つ目はこの世界での人間の事だ。今現在、彼女たちが住む地域にはいるはずがないのだ。若い人間の男が。


「まずはその男を調べる必要がありそうね、案内してちょうだい、カナ」


 冷淡にそう告げた女性は突然蜘蛛の身へと姿を変え、歩きはじめた。その後をカナが追いかけていく。蜘蛛を通り越したカナは男がいる部屋まで案内し、最後には廊下の突き当たりの客間に到着した。そしてポツリと言葉を漏らすとその場を去っていった。


「こちらです…………お母様」



 ◇◇◇



 今見ているものは夢だ。こんなのあり得ない。今俺の顔を鏡で見れば真っ青を通り越して真っ白な表情をしているだろう。全身の血の気がなくなり、さらには身体全体に鳥肌がたつ。この瞳に映るものが信じられなかった。


 俺の前に立っているのは人の背丈ほどの漆黒に染まった蜘蛛。背中には紅い斑点が血痕のようについている。動物の本能みたいなものが俺に逃げろ、と訴えかけているのに、意思とは反対に膝がぶるぶる震えて動きだすことが出来なかった。虫の抵抗、とでもいうかのように目線だけで威嚇をするも、どす黒いオーラを放つ紅い瞳を前に身体中の細胞が萎縮し、最後の悪あがき程度にしかならなかった。その時だった。恐ろしい蜘蛛から発せられたとは思えないほどの美声が聞こえたのは。


「ご機嫌いかがですか?」


 …………。いい意味で期待を裏切られた感じだ。いや、普通はもっとシャーっとか、化け物のような声を想像するだろう。しかし、今聞こえたのは獣のような雄叫びでもなく、魔女のような叫び声でもない。もっと、そう。玉のような澄んだ声だった。てゆうか、ご機嫌いかがですか?ってなんだし。この状況で普通あり得ないだろ。あー、マジでちびりそうだったわ。俺は妙な安心感からかゆっくりと息を吐き出すと、質問に答えるために乾燥しきった口の中を唾で潤してこれまたゆっくりと、しかしどこか探るように口を開いた。


「ハイ、げ……元気デスヨ」


 緊張感が続いたからかは分からないが、声が上ずってしまった。恥ずかしい。穴があったら入りたい気持ちだ。背中に冷や汗とともに変な汗までかきはじめたようだ。そんな俺の様子を察してか、蜘蛛は突然その姿を変え、一人の美女へと変身しこう告げた。


「そうですか、では早速なんですがなぜあなたは砂漠で倒れていたのですか?どこから来たのですか?なぜ裸だったのでしょうか?名前は?それと…………んっ?」


 矢継ぎ早に問われる質問。突然蜘蛛が女性へと変貌を遂げた現実。どれも俺を混乱させるには充分すぎた。俺はまた気を失ってしまった。

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