28話 バーチャマは語る
いやぁ、カリンは鋭くなったねぇ…。
カリンが小さいころはよくアミの後ろにくっついていろんなこと真似してたのに…。私も歳はとるもんだ、ホホホ。
それじゃあどこから話そうか…。そうだ、あの坊主がどうやって現れたのかから始めようかねぇ、ホホホ。
ーーー確かかずや君が砂漠で倒れていたんですよね?
そう、そう。カナが砂漠のエリアを巡回中にあの坊主が倒れていたらしいの、ホホホ。
彼はなんらかの理由で異世界に繋がる洞窟から出てきて偶然にも壊されていた結界の隙間から入ってきたんじゃ。
ーーーあの日は確か盗賊団がフーガ村に侵入してたんですよね、姉様、大叔母様?
そうじゃよ、タミ。盗賊団は何て名前だったかの?……まぁ、名前なんて関係ないがの、ホホホ。
そんなことよりもあの日はアントワンヌに頼まれて洞窟の調査をしてたんじゃ。何せ名前も場所も知らない洞窟から人が現れたんじゃからの。
驚きよりも学者としての本能がくすぐられたわい、ホホホ。
初めはこの辺りの地図からオジー王国の地図、大陸の地図を持ち出してもなんの手がかりも無かったんじゃ。
まぁ、そこは考古学者でもある私の知識を使えば容易いこと。
私が城の地下にしまってあった古い文献を調べておったらあの坊主が出てきたかもしれない洞窟の情報が出てきたのじゃ。
ここまではカリン達も知っての通りじゃ。
あっ、ついでにマイをちゃんと寝かせてあげなさい、風邪引いてしまうからの、ホホホ。
ーーーはい、大叔母様。ところでその古い文献にはなんと書かれてあったのですか?アミお姉様に聞いた話では一つの魂が迷い込んだ時、異世界から人が現れるとかなんとか…。
そうじゃな。まぁ、私もうろ覚えじゃがの、ホホホ。
じゃが、あの文献には確かそれだけではなくて他にも洞窟について色んなことが書いてあったんじゃ。
まずは洞窟から出てくるのは一つの男の魂。要するに何故か男一人しか出てこれないということじゃ。
もう一つは未知からの使者。これはあの坊主を指しているのかどうかは私にも分からん。じゃが、使者というものは何かしら重要なものがあるということを意味する。それは知っておるじゃろ?
まぁ、だからそうじゃのアントワンヌがあの坊主をすぐに遺跡へ送ったのは確証を得るためかの。
幸か不幸か、あの文献はオカリナ遺跡から運ばれてきたものじゃからの。
いやぁ、あの文献の謎が解けた時は爽快だったわい。
長年調べていた古い文献がこんな形であの坊主と繋がっての……。ホホホ、長生きはするもんじゃの。
ーーーですが、大叔母様、お母様にしては迂闊だったと思ったのですが。その…身元も分からない人をいきなり遺跡に連れて行くのは。
それは大きな誤解じゃよ、カリン。アントワンヌはあの坊主の魔力を確認して牢屋に連れていって更には蜘蛛に化けてまで彼の素生を調べたのじゃ。普通の人間ならアントワンヌの魔力を感じとっただけで言うことを聞くからの。
それにあんな綺麗なアントワンヌに詰問されて答えない男はまずこの辺りにはいない。魅了を使っていたにも関わらずじゃ。
すぐに効果が出るはずじゃが、まぁ、お前達の父親と同じにぶちんなのかもしれないがの。
アミやタミ、サリー。他の女の子の行動にもなんの反応も示さないからの、ホホホ。
ーーーお、大叔母様。私はそんな目でかずや君を見たことは……。
なんじゃ、そうなのか?つまらないのぉ…。せっかくの若い人間の男なのに……、ホホホ。
まぁ、それより確かにアントワンヌが彼を遺跡に送ったのはちと早かったかもしれないがの、ホホホ。
他にも理由があったのは事実じゃが…。
ーーー他にはどんな理由があったのですか?
ここから先はまだ誰にも言ってはいけないことになっておる。すまんの、アントワンヌとの約束じゃ。
それに、そろそろ寝る時間じゃよ。
若いんじゃからもう寝なさい。私みたいにすぐに老けてしまうぞ。
続きはアントワンヌ本人から直接訊いておいてくれ。
私はもう寝る、おやすみ。カリン、タミ、マイ。そして外にいる二人。
気配はもう少しうまく隠しなさい。バレバレじゃよ、ホホホ。
◇◇◇
「なるほど、そう言うことだったのですね」
蝋燭の火に灯され、水彩画のようにぼやけて見えるアントワンヌの顔を見つめながら亜麻色の髪の女性、アミは返事を返した。
アントワンヌはそんなアミを安堵がこもった優しい目で見つめ返す。
「これ以上は言えないわ。ごめんなさいね、アミ」
申し訳なさそうに笑いながら温かみを感じる響く声で話すアントワンヌ。
アントワンヌの強い意思が込められた瞳を見たアミはそれ以上詮索するのをやめた。
一部とはいえ、アントワンヌ本人の思いと考えを聞くことが出来たのだ。だから今のアミにはそれで充分だった。
その代わりにアミは今後どう動けばいいかアントワンヌに尋ねた。
アミの先を見据えて話す態度に親として嬉しく思いながらアントワンヌは戸惑いがちにこう告げた。
「昼頃にオカリナ遺跡に送ったスパイから報告が届いたの。報告によると今オカリナ遺跡では蛇が大量発生していて、遺跡の調査が難しくなるかもしれない。だから、アミ。新しくメンバーを再構築して叔母様のところへ送る準備をしなさい。もし、情報が正しければ早くて今夜、遅くて明日の夜にカナが来るはずだから。内密に早急にお願い……」
アントワンヌが言葉を言い終える寸前、トントンっという無遠慮なノックの音と共に一つ人影が部屋に入ってきた。
何者かと目を細めながらドアの方を見るとそこには今朝オカリナ遺跡へ出発したはずのカナの姿があった。
肩で息をしている様子から急いで戻ってきたことが伺えた。
カナは胸を抑え息を整えながらアントワンヌの方へ駆け寄るとそのまま昼頃に何が起きたのかを話し出した。
「お忙しいところを申し訳ございません、お母様。あまりに急なことだったので」
短い謝罪の後、淡々とそう告げたカナの言葉を聞いたアントワンヌとアミは何か思い当たる節があったのか一瞬目を合わせ、そのままカナの方に向き直った。
カナは姿勢を正すと遅い昼食をとっていた時に起きたことを二人に語りだした。
「私達が旅の途中で昼食をとっていると、三体のダチョウが襲ってきました。どうやら私達は彼らの縄張りに侵入していたようでその結果襲ってきたようです。誤解を解く為に大叔母様がコミュニケーターを使って会話をしたところ、その際にダチョウからオカリナ遺跡で蛇が大量発生していると聞きました。私達だけでは蛇を捌ききれないと判断したので増援を頼みに戻ってきた次第です」
カナが一通り報告を終えるとアントワンヌは真剣に聞いていた顔を一層引き締めて、隣に座っていたアミに命令を下した。
「アミ、予定が代わりました。明日の朝、すぐに出発出来るものを集めてオカリナ遺跡へ向かいなさい。そうね…三人集めておくこと。分かったわね?」
アミはアントワンヌの言葉に頷くとすぐさま出発出来るメンバーを探す為に名簿を取りにいった。
アントワンヌは残されたカナに向かって更に告げる。
「カナは三人分の食事を調達してゆっくり休みなさい」
カナもアミと同じように頷くとそのまま部屋を出て行く。
部屋を静寂感が包む。アントワンヌはふー、と溜息を吐くと窓越しにさっきまで朱色に染まっていた空を見上げた。今はすっかり暗くなった空には無数の星達がいっぱいに散りばめられており、砂漠にある砂のようにサラサラと流れているようだった。
しばらくその星達を眺めていると風に乗って一匹の蜘蛛が飛んできた。
アントワンヌが慌ててそれを捕まえると蜘蛛の背中には何かしらの皮が蜘蛛の糸に包まれてくくり付けられていた。
ゆっくりと糸をほどいていくアントワンヌ。糸をほどき終え、包まれていたそれを伸ばし手の平に乗せると、アントワンヌはその長さに言葉を失った。それもそのはず。
なぜならアントワンヌの手には自分の身長を遥かに超える、天井から床まで伸びそうな巨大な蛇の抜け殻があったのだから。




