26話 野宿
「お母様……。どうして彼を遺跡に行かせたのですか?」
仄暗い部屋の中、亜麻色の髪の女性、アミが母親であるアントワンヌに自身の疑問を投げかけていた。
異世界から来た男、カズヤ・タケダ。
しかし彼が異世界から来たという確かな証拠は一切無く、彼が現れた洞窟が異世界への入口かもしれないという不確かな記録と本当かも分からない彼の証言でしか彼が異世界人と判断出来ていない。
それ故にアミは何故自分の母親がそんな得体の知れない存在の身元をきちんと確認もせず遺跡に送ったのか分からなかった。
アミが探究心と強い意志が込められた目線をアントワンヌに向けるとアントワンヌはその吸い込まれてしまいそうな真っ黒な瞳を閉じ、諦めたかのように息を吐いた。
「それは……。そうね。あなたには話しておいた方がいいかもしれないわね」
そしてアントワンヌは重苦しい雰囲気を取っ払うぐらい衝撃的な事実をアミに伝えた。
◇◇◇
初めは小さな揺れだった。特に何の影響も出ないほどの本当に小さな揺れ。
しかし、段々と揺れが収まるどころか次第に揺れは大きくなっていき、視界が上下左右にぶれはじめた。
そして揺れが最高点に達した途端……
「頼む、ギブ…。うっ、気持ち悪い……」
……俺、竹田かずやは気分が悪くなってぐったりとなった。
今俺たちはダチョウの上に乗ってオカリナ遺跡まで一直線に進んでいる。
最初の方は移り変わる景色に気をとられていたからか比較的揺れを気にせずに進むことが出来た。
だけどダチョウが急に加速を始め、揺れがどんどん酷くなるともはや景色どころでは無くなって、俺はダチョウの首にしっかりと掴まり、ただただ振り落とされないようにきつくしがみついた。
だがそれがいけなかったようだ。
きつくしがみついた分、俺は揺れをダイレクトに受けしかも掴んだ所が悪かったのかダチョウは凄い勢いで暴れ出した。
速度が上がる度に比例して青ざめていく俺の顔を見てさすがにマズイと思ったのか隣を走っていたカリンさんが全員に止まるよう声をかけた。
するとかなりのスピードで走っていた他の人達も減速を始め、やがて完全に速度が落ちると俺たちは止まった。
いそいそとダチョウから降りてうずくまる俺。
青くなった俺とは対象的に上を向くと太陽が沈むところで地平線までもが赤く染まっている。
ようやく酔いが治まった俺は冷たくなっていく砂の上に寝転がりながら暮れていく日差しを見つめた。
空も砂も色を失っていきやがて辺りは蒼然となった。
今また出発したら道を失ってしまうだろう。
「今日はここで野宿しましょう」
カリンさんがそう言うと皆が野宿をする為の準備を始めた。
幸いにも俺たちは遺跡までもう少しという絶好のポジションで止まったので、今日はここで野宿をすることにした。
◇◇◇
荷車の周りには炭の燃えかすが置いてあり、その隣には小さな黄色のテントが建ててある。
野宿をする際に誰が荷車の中で寝るか討論になったが、かずやが素直に遠慮したことで全てが丸く収まり、現在は荷車の中にタミとカリンとマイとバーチャマ、テントの中にかずや、そして夜の見張り番としてマキとカエデが荷車やテントの周りを巡回している。
ハーブ二号も一日中歩いていたので体を休め、三体のダチョウはもう夜遅いからとすぐには帰らずにこの場に残ることにした。
「ん〜、トイレ〜……」
布で目隠しをしているのかと錯覚するぐらい真っ暗な闇の中、少々寝ぼけながらかずやはテントから這い出た。
満天の星空の下、かずやは星明かりを頼りにテントから少し離れると黄色かった砂を真っ黒に染めあげながら月の無い空を見上げる。
かずやはこれほど美しい星空は見たことが無かった。写真や映像でしか見たことのない星の羅列が今実際に目の前に現れ、手を伸ばせば今にも届きそうな星達が四角や三角を作ってかずやの目を楽しませていた。
しばらくその星達を眺めていると、突然どこからか風が吹いてきた。
大自然の開放感に浸っていたかずやだったが風が運んできた砂が直に肌に当たり、一瞬ヒューっと全身に痛みと寒さを感じると、かずやは急いでズボンをあげた。
テントに戻るついでに途中で会ったカエデに手を振るとかずやはそのまま荷車を通り過ぎようとする。
すると、荷車の中から小さな話し声が漏れてきてかずやの耳に入った。
黙って通り過ぎようとしたかずやだったが、会話の中に自分の名前が入っていることに気づき、気になったのでそのまま聞き耳を立てた。
「大叔母様、何故お母様は彼をいきなり遺跡に連れていけと申されたのでしょうか?」
その頃には脳がすでに覚醒していたかずやは聞きやすくする為に壁に耳を押し当てる。そしてかずやは考えた。
何故自分がオカリナ遺跡へ行こうとしているのか。
しかし、何故こんなに早く遺跡へ向かうことになったのか。
よく考えれば身元も知らない人間を証拠も無しに異世界人であると決めつけ、普通は国家、いや世界機密になるであろう異世界への入り口の情報を漏らしたのは明らかに長と呼ばれる人間がやることではない。
かずやがそのように推理する間、突然何者かの影がかずやの後ろに現れた。
だが、かずやは自分の考えに没頭していたことで、背後から迫る影に気づくことが出来なかった。
スラリと伸びる腕が一瞬でかずやの口元を塞ぎ、叫ぼうともがくかずやを体全体を使って抑え込む。
「動くな……」
静かで凍りつくようなその声はかずやを瞬く間に固まらせる。
何者かの手と同じくらい冷たい汗がかずやの背中を伝っていき、かずやの服に吸収され消えていった。
次回は1月4日15時予定です。
来週からしばらくの間毎日更新に切り替えることにしました。急な変更で申し訳ありません。
オジー王国の謎、これからもよろしくお願いします。




