25話 ダチョウの取引
異種族間のコミュニケーションを可能にする結界、コミュニケーター。
バーチャマおばあちゃんの専門的な知識についていけなかったので大まかに説明する。
なんでも生物が持つ魔力の中にはそれぞれ個体別の波長を発生させる成分のようなものがあるらしく、その波長を同調させることが出来ればダチョウや俺たちのような異種族でも会話が成り立つらしい。
で、それを可能にしたのがこのコミュニケーターだそうだ。
俺が分かったことを口に出すとみんながおー、と手をポンと叩きながら納得した様子でしきりに頷いている。
バーチャマおばあちゃんが自分が説明していた時には無かった反応に首をうなだれ、また俺たちの視界の隅っこの方で小さく丸まりながらブツブツと呟いていると、先ほど話し出したダチョウが翼をバサバサと動かしながら言葉を発した。
「まあ、結界とかは置いといてお前ら俺たちの縄張りでなにしてたんだ?」
その言葉に更に沈み込むバーチャマおばあちゃん。
そんなバーチャマおばあちゃんのことを置いといて話し出したのはカナさんだった。
「昼食を食べていました」
砂に埋もれていくバーチャマおばあちゃん。さすがに可哀想だったので俺がコミュニケーターのことを褒めると、途端に嬉しそうに笑みを浮かべながら俺たちのところに戻ってきた。
バーチャマおばあちゃんの単純かつ変わりやすい態度に呆れながら俺はカナさんの方を向いた。
すると、カナさんの正直な発言にダチョウ達が騒ぎ出した。
「俺たちの許可無しでか⁈……おめーらただじゃおかねーぞ⁉」
捕まっているやつが言える台詞ではないと心の中のハリセンでツッコミをいれながらダチョウの言葉を聞いているとまあまあと両手を動かしながらさっきまでハーブ二号の面倒を見ていたカエデさんがカナさんとダチョウの間に割り込んだ。
「勝手に入っちゃったのはごめんね、知らなかったから今度から気をつけるよ!」
やけに早口で元気な声でカエデさんが謝ったからか調子が狂ったダチョウは怒ろうとしていたことを忘れ、ただただ苦笑した。
やがて気を取り直したダチョウは俺たちがこれからどこに行こうとしていたのかを訊いてきた。
「これからオカリナ遺跡へ向かうんです。ダチョウさんはどう行けばいいか分かりますか?」
カナさんがまた俺たちを代表してそう伝える。
ダチョウは俺たちの行き先に何か気になることがあるのか何か言いたげだったが小さな溜息を吐くと面倒くさそうに話し出した。
「オカリナ遺跡ね…。ここから太陽が沈む方向とは逆の方へ向かえばすぐ、とはいかねぇが着くはずだ。それよりこの紐外してくれねぇか?昼食を邪魔したのは謝るがちょっときつくてな」
カエデさんが紐を外そうと近づくと一瞬ダチョウの口がニヤリと歪んだ気がした。それに気づいたのは俺だけではなくカナさんやカリンさんも気づいたみたいだ。
二人は何かを確認するように頷きあうとカナさんはダチョウの正面から近づきそしてカリンさんは背面に周った。
カナさんはカエデさんの手を遮ってこちらに連れ戻すとダチョウに一つ提案した。
「もし良ければ私たちをオカリナ遺跡まで連れていってくれませんか?ダチョウさんの背中に乗せていただければ残り半日で着くと思うのですが」
ダチョウに乗るという発想が無かった俺は少し驚く半面、妙に他人行儀な言い方になったカナさんを疑問に感じ首を傾げた。
すると、ダチョウは未だ彼女の考えに気づいてないのか小馬鹿にするように言葉を返した。
「だ〜か〜ら、まずは俺たちの紐を外してくれよ。そしたら話しやすいからよ」
カナさんはその言葉に微動だにせず受け流すと代わりにダチョウを試すかのように声をかけた。
「さっきまで普通に話してましたよね⁈それとも何か他に紐を外したい理由でもあるんですか?さっき言おうとしてた事も合わせて答えてください」
チッと舌打ちをするかのように短く威嚇するとダチョウは強行突破に出るために後ろをチラッと見た。
しかしそこにはカリンさんが武器を構えて立っていて刃物を突き付けようとしている。
前も後ろも無くなったダチョウは堪忍したかのように両方の翼をあげるとそのまま話し始めた。
「ふー……。分かった。俺たちはお前らをオカリナ遺跡の近くまで送ろう。その代わりに着いたら俺たちをすぐに放せ。じゃねぇと遺跡に侵入したっていう蛇の軍団の餌食になっちまう」
ダチョウは衝撃的な事実と同時に取引を持ちかけると乗せる人数を指定した。
「俺の背中には二人、こいつらには一人ずつ乗せてくれ」
嘴で自分の背中を指しながら俺たちに乗るよう促したダチョウに初めは戸惑いながらも歩行組だった俺たちは彼らに乗ろうと近づいた。
真っ先に近づいたのはマイとマキ。先ほどの親子丼のこともあってか案の定ダチョウは震えながらも彼女達を一緒に背中に乗せた。
俺とカリンさんはそれぞれ別のダチョウの背中に乗ると安定性を保つためにダチョウの首を掴んだ。
行く準備を整えた俺たちはハーブ二号の背中に戻るカエデさんや荷車に戻るタミとバーチャマおばあちゃんを見送るとそれぞれの首に繋がっていた紐を外した。
やがて完全に行く用意を整えた俺たちはおそらくは昼食前の二倍以上ある強烈な速さで進み出した。
「私たちはお母様に増援を頼みに行くぞ!」
カナさんは大きく翼を広げた鳥の背中に飛び乗り、俺たちとは真逆のオジー王国フーガ村の方向へ飛び去って行った。
◇◇◇
「父ちゃ〜ん!」
護衛をしていた父親がなかなか帰ってこないので心配で探す子供。
しかし、遠くに来すぎたのか帰り道が分からなくなった子供は父親の名を思いっきり叫んでいる。
すると、声に気がついたのか何者かが凄い勢いで近づいてきた。
「ムブラナ〜‼‼ お父ちゃんの後を追ったら駄目って何度言ったら分かるの?」
ムブラナ、と呼ばれた子供は怒声と共にブレーキする最中に飛んだであろう大量の砂を浴びるとしゅんとしながらもどこか嬉しそうに言葉を発した。
「母ちゃん!僕父ちゃんの足跡を辿ったんだよ、ほら見て⁈」
そう言って足下を見るとさっきの砂で足跡が全て消えている。ガックリとうなだれる子供をよそに何かを見つけたらしい子供の母。
よく見るとある方向に一直線に足跡が続いている。
「なんで父ちゃんの足跡が?行くよ、ムブラナ。父ちゃんを迎えに」
彼女の目線の先には複数の奇妙な足跡とそこへ向かったであろうオカリナ遺跡への道のりがあった。
次回は12月28日9時予定です。




