22話 旅路
「よしっ‼行くぞ‼」
フーガ村から少し離れてトイレを済ませた俺は自分に喝を入れながらハーブ二号の斜め前を歩いている。
もちろん少し離れているのは後でカエデさんに怒られないためだ。
元から体力に自信は無かったが、せめてお荷物にはならないよう心に誓いながら俺は先陣を切って前に進んでいた。
しかし、現実はなかなか厳しく、慣れない気候と夏特有の文字通り焼けそうなほど熱い日差しに照らされ俺はすでに心身ともにボロボロだった。
渇いていく喉と滝のように流れるダラダラとした汗に比例して俺の歩く速度が落ちていく。
やがて俺の歩く速度が限界直前まで下がると、バーチャマおばあちゃんが頃合いを見計らって休憩を入れた。
差し出された水をガブ飲みしてぐたっとなった俺は後どれくらい歩けばいいのか訊いた。
「んっ?まだ半分もいっとらんぞ。それにしてもお前さんは体力がないの〜。男ならもう少ししっかりせい」
反論する気も無いほど疲れていた俺は無言のまま痛む足を休めた。
砂と少しばかりの雑草しかない周りを見渡していると、荷車の陰でコソコソと誰かが話しているのを見つけた。
目を凝らしてよく見るとどうやらマキとマイがこちらをチラチラと見ながら何かを話しているらしい。
マキが俺に見られていることを感づいたようでマキとマイは俺からは見えない荷車の裏に隠れた。
悪口でも言われてるのかな、と少しやるせない気分に陥りながら沈んでいると、隣にタミが座って話しかけてきた。
「気にしない方がいいよ。まだ慣れてないからしょうがないし」
高めの優しい響きを伴った声のトーンに少し癒される。
「ありがとう、タミ」
俺が咄嗟に感謝の言葉を呟くとタミの顔がほんのりと赤くなった。
お礼を言われるのに慣れていないのかただ単に暑さのせいなのかわからないがとりあえずそのままにしておく。
すると、俺の逆隣にカナさんが座りそっと口を添えた。
「かずや君が慣れない足場に慣れない気候で苦労してるのは皆知ってるよ。でも他の皆も疲れてマイナス思考になっているんだ。かずや君もあまり下向きに考えないようにね」
そう言って鳥の方へ行くカナさんの後ろ姿を見つめながら俺は考えていた。
どうすればお荷物にならずにすむか、どうしたら皆と仲良く出来るのか。
考えていることが口に出ていたのかそれを聞いていたタミは俺の背中を遠慮がちに叩きながら俺に言った。
「大丈夫だよ、ほら、一緒に頑張ろう」
そう言ってタミはまた荷車の中に潜りこむと顔を出していたバーチャマおばあちゃんに声をかけた。
バーチャマおばあちゃんは俺の方に顔を向けると謝りながら何か言った。
「さっきは言いすぎたね、ごめんの。歩いてないもんだから気づかなくてついの、ホホホ。今度は結界を張りながら進むから安心せい」
そう言って分厚い本を開きながら何かを呟くバーチャマおばあちゃん。直後に紫色の光が現れ、あっという間に俺たちを包みこむとそのまま周りの色に溶け込んでいった。
何が起きたのか一瞬分からなかったが冷たい空気が俺たちに当たり始めすぐに火照った俺たちの身体を冷やす。
これが結界による何かだと気づくのにそう時間はかからなかった。
どういうことかとバーチャマおばあちゃんに顔を向けるとドヤ顔で俺たちに向かって説明をはじめた。
「見ろ、これが温度調整結界、大気に浮かぶ熱い空気を魔力によって……」
説明は十分半にも及んだ。そんなにすごいなら最初から使えといいたくなったが、バーチャマおばあちゃんは俺の心の中でも読んだのか器用に俺の周りだけ結界を解除すると、そのまま出発の号令をかけた。
なぜか余計に暑くなった空気に俺が何度も頭を下げながら謝っているとようやく許してくれたのか俺の周りに再び冷気が漂う。
もう暑いのに懲り懲りしていた俺は自分にもう文句は言うなと言い聞かせるとそのままこの隊の中間あたりを歩いていった。
すると、マイとマキが俺の方に寄って来てこう言った。
「私達さっきまで大叔母様がなんで結界を使わないのか気になってたから二人で話してたんです。ほら、かずやさんもすごくばててたし。でも誰も何も言わないから二人で言おうかどうか迷ってたんです」
なるほど、だからさっきまでずっと二人でコソコソしてたのか。
二人に対する誤解が解けた俺はそれならすぐに言うべきだったと口にする。
疲れていたのは目に見えていたし、第一こんな便利なもの使わなきゃもったいない。
「今度からは正直にちゃんと言うようにしてください」
そうやって締めくくると二人は納得したように頷いて俺に背を向けて自分の持ち場に帰っていった。
去り際に二人はこんな会話を交わしていた。
「ちょっと偉そうだよね」
「うん、そうだね」
グサっと何かが俺の心に突き刺さり俺は反射的にえっ?、という言葉を漏らした。
「冗談ですよ、かずやさん」
「そうですよ、かずやさん」
俺の言葉が聞こえていたのか振り向いて満面の笑みでそう言うマイとマキ。
俺はつくづく女性は怖いな、と心の底でそう思いながら二人の後ろ姿を見つめた。
すると、またいつの間にか現れたカリンさんが
「心配しなくていいわよ。あの二人はいつもああだから」
カリンさんも微笑んでいたがカリンさんのその紺色の瞳は笑ってないように見えた。
きっと気のせいなのだろう。
初めての旅で億劫になっているのだろう。
俺は様々な考えで頭を無理矢理納得させるとそのまま歩き出した。
カリンさんもまた持ち場に戻っていく。
俺はしばらくの間重い女性恐怖症と言う名の病気にかかっていた。
次回は12月の7日正午予定です。




