21話 出発
紐を結ぶタイプのパンツ、動きやすそうな長ズボンにボタンの代わりに紐がついた胸元が少し開いたシャツ。
サキさんに仕立てられた服は袖も丈もピッタリで腕がどれほどいいのかまじまじと実感させられるぐらいに出来が良かった。
さすがにプロや工場で大量生産された服とは違ったがデザイン性や利便性にこだわった丁寧な一品であるが上に生地というか素材がとてつもないくらい柔らかくて俺は一瞬でこの服を気に入ってしまった。
新しい服を着て着心地を確認していると遠慮がちな声と共に誰かが部屋の中へ入ってきた。
ドアに背中を向けていた俺は首だけ振り返って後ろを見ると、ここ数日で見慣れるようになった亜麻色の髪の女性が目に入った。
俺は最後にターバンのようなものを頭に巻きつけながら体を彼女の正面に向け、声をかけた。
「おはようございます、アミさん。いよいよ今日ですね」
俺が最後の言葉を言い終えると同時にきちんと巻かれていなかったターバンが俺の頭の上から滑り落ちた。
小さく吹き出したアミさんは口元を抑え、そろそろ出発する時間だと伝える。
俺はその言葉に頷き、またターバンを頭に巻きつけながら外に出た。
◇◇◇
カンカンと照らされる日差しの中、馬の蹄の音と鳴き声が辺りに鳴り響いた。馬の後ろに繋がれた荷車に荷物を詰め込み、出発の準備を整えると俺たちは自分の装備を確認する。
鎧は暑い砂漠の中で着ると日差しによる火傷を負ったり通気性の問題で熱中症を起こしやすい。第一重い鎧を気慣れていない俺が魔物なんかに遭遇したら逃げきれずにすぐさまあの世行きだ。
俺は腰に携えた小さなナイフと中ぐらいの剣の中間ぐらいの大きさの武器を触るとそのまま他のメンバーを見渡した。
バーチャマおばあちゃんは年齢の影響からか武器を持たず荷車の中に入るらしい。もともと歩く速度が遅い上に重い物をあまり持ち上げられないバーチャマおばあちゃんは分厚い本とペンを持って後から来たタミと一緒に荷車の中に入っていった。
おーい、道案内はどないすんねや、と心の中でツッコミを入れると馬の方に面した窓みたいなものが開き、バーチャマおばあちゃんの顔がちょこんと現れた。
…………。前言撤回。
俺は道案内をする為に顔を出すバーチャマおばあちゃんを他所に他のメンバーに目線を変えた。
馬を従えて荷車を引きながら進むのはカエデさんの役目らしい。
カエデさんは珍しい緑色のたてがみを生やした白い馬に声をかけると俺の方へ振り返って鬼のような形相で何かを告げはじめた。
「ハーブ二号はオスアレルギーだから下手に触ってアレルギー反応を起こさせたら承知しないよ」
怒らせたら首をちょん切るぞと言われ無我夢中で首を縦に振る俺。
オスアレルギーやらなんやら知らないがハーブ二号、と呼ばれたこの馬はオス全般にアレルギー反応を起こす非常に厄介な馬だ。
今反応がないのは俺の魔力が極端に少なく、というかもう皆無ですぐに慣れることが出来たかららしい。実際どのような基準でアレルギー反応を示すのかよく分からなかったが、俺はカエデさんの忠告どおりハーブ二号からは離れることにした。
「そろそろ行こうか、皆」
上空からカナさんの声が聞こえる。カナさんは人が乗れるほど大きな鳥の上で周囲を大きく迂回しながらこちらを覗いた。
優雅に羽ばたく鳥はその存在感と大きさもあってはじめは敬遠していたのだが、人懐っこいところや鳥のくせに心遣いや気配りが上手いところから今では普通に接している。
正直に言うと本当はまだ怖いのだが、カナさんに性格が似たのか鳥はとてもフレンドリーで俺のことを友達のように見ているらしい。
カナさんがそういうからには間違いがないんだろう。
俺は上から降ってきた鳥の糞を避けながらそう無理矢理納得した。
そう、鳥はとてもフレンドリーなのだ。
いよいよ出発する時間になったが馬がなかなか進まない。いや、動く気配が無いのだ。どうしたのかと馬に近寄れば、まだマキとマイが来ていないらしい。ハーブ二号に近づくな、とありがたいお告げを背中全体に浴びながら俺は自分の首をひねった。
さっきマキは確かに見たんだけどなぁ、と心の中で疑問に感じているとマキが眠そうな目を擦っているマイを文字通りひきづりながらやって来た。
どうしたのかと理由を尋ねると案の定マイの寝坊が原因で遅れたらしい。
隣でいつの間にか現れたカリンさんが二人に注意しはじめた。
「マキ、マイをちゃんと起こすようにアミ姉様が言っていたじゃない。次からは気をつけなきゃ駄目よ」
優しいトーンのせいか全く注意しているようには聞こえなかったが、マキは少し気まずそうに頷いた。
俺はそんなことよりもカリンさんが先ほどまでどこにいたのか気になったが、あらかた手にハンカチを持っていることからお手洗いにでもいっていたのだと予想をたてるとそのまま上空のカナさんに声をかけた。
「マイとマキも揃いました!そろそろ出発しましょう」
カナさんは俺の言葉に頷いてバーチャマおばあちゃんも俺の声を聞いていたのかカエデさんを促して荷車を動かしはじめた。
こうして見送りに来ていたアミさんに手を降りながら俺たちはオカリナ遺跡への旅路を歩み始めるのであった。
あっ、トイレ行くの忘れた…。
次回は11月30日午前4時予定です。




