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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第一章 オカリナ遺跡編
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1話 着いた先は

 暑い。うだるような暑さだ。額から出る汗を拭いながら俺は砂漠を歩いている。意識が徐々に朦朧となるなか、身体中の水分がなくなっていく錯覚を憶える。どこに向かっているのかはわからないが歩いていれば何処かに着くという根拠のない自信に押され重い脚を動かした。


 今俺は何も着ていない。さっきまではいていた海パンもサンダルもなくなっている。脱いだ覚えは一度もないがこの暑さだ。別に露出狂ではないがどこかで脱いだのかもしれない。つまり俺は一糸纏わぬ姿ということだ。たとえ自分の身体でも想像したくはないが、おぼろげな意識の中でもそれぐらい分かる。きっと周りが揺れて見えるのも陽炎のせいだろう。


「み……みず、水…」


 喉が渇いた。水が飲みたい。身体が熱い。ばさっという音がしたかと思うと、大きな黒い影が俺の影を隠した。

 とうとう身体全体の疲労感と倦怠感に負けて俺は倒れた。瞼を閉じる瞬間に見たものは多分女性だと思う。消えてゆく現実は最後に切羽詰まった声を聞きながらようやくその幕を閉じた。


「大丈夫?何があったの?酷い熱中症ね……。とにかくたすけなきゃ‼」



 ◇◇◇



 どこまでも続く地平線。その上空を黒い点が砂を巻き上げながら飛んでいる。鳩、いやそれよりも一回りも二回りも大きな鳥が水平に移動しながらこちらに向かってきた。その鳥の上には一人の女性が乗って首をキョロキョロと動かしている。


「よし、この辺りには魔物はいないっと」


 どうやらその女性はこの辺りに住む魔物を探しているようだ。よく見るとこの女性、腰には剣を携えていることから魔物を倒す職にでも就いているのだろう。ここら辺の探索を終えた女性が戻ろうとした時、彼女の乗っている鳥が何かを見つけたらしく、小さく鳴いた。女性が下を覗くと点々とした小さな足跡が続いていた。不思議に思い、足跡を辿っていくとそこには何かが倒れていた。


「え⁈ 何あれ?」


 倒れているものをよく見るとどうやらそれは人のようだった。しかしこの暑いなか何故か服を着ていない。しかもここは砂漠のど真ん中。そんな状態で砂漠を歩き回るなど自殺行為に近い。さすがにそのような状態で放置するわけにもいかず、女性は少し警戒しながらその人に近づいていった。


「大丈夫?何があったの?酷い熱中症ね……。とにかくたすけなきゃ‼」


 まだ息をしているところからホッと胸をなでおろすも、その人の身体は直射日光のせいか赤く染まり、危険な容態であることは一目瞭然だった。そしてそれを熱中症と判断した女性は彼女の鳥の力を借りてその鳥の背中に乗せると、鳥は力強い風を起こしながら女性と人を連れ飛び去っていった。



 ◇◇◇



 風が強く吹きつけている。そしてその風にのって海独特の潮の香りと新鮮な魚特有の生臭い匂いがやってきた。今度の魚は身が引き締まってて美味しいだろうな、と考えながらその女性は慣れた手つきで手押しぐるまを押して緩やかな坂道を登っていく。この坂道を登ればあとは下り坂だ。照りつける日差しの中、魚を腐らせないようスピーディーに、同時に魚を落とさないよう丁寧に押しながらとうとうその女性は峠まで辿り着いた。


「よし、下ろう」


 そう呟くと同時に今度は慎重に道を下っていく。ただでさえ整備されていない道を歩くだけでも大変なのにましてや手押しぐるまを押しながら下っていく女性の姿はどことなく輝いていて、楽しんでいるのか鼻歌交じりにも関わらず全く危なっかしくない。それどころかこの力仕事と女性が何故かマッチしていてなかなか様になっていた。


「あっ⁉ 姉様、手伝って!」


 坂を下り終えた女性は門の前に誰かを見つけたようだ。姉様、と呼ばれた女性は姿はあまり似ていなかったがその纏う雰囲気はそっくりだった。


「お疲れ様、タミ。一人で大変だったでしょ?」


 夏の強い日差しのせいで少しばてた様子の妹、タミに代わって手押し車を押しながらそう声をかける。同時にさっと汗を拭き取るタオルと水筒を渡した。


「ありがとう、姉様」


 タオルで汗を拭い水筒のふたをあけ、中身をふたに注ぐ。ぐいっと飲み干したあと、ふとなにかに気づいたのかタミが女性の髪を見つめた。そしてタミのその視線に気づき少しはにかみながら女性は口を開いた。


「いいでしょ? サキがつくってくれたの」


 タミの目線の先にあったのは白いチョウをモチーフに作られた髪留め。それは彼女の紺色の髪によく似合っていて、少しの間タミは彼女に見とれていた。


「大丈夫よ、タミ。多分サキがもうみんなの分作ってると思うから」


 得意げな顔でそう言ってまた車を押す。手伝うよ、と声をかけタミも一緒に押しはじめた。後はまた女性どうしの会話が続き、会話が終わる少し前には目的地に着いていた。


「じゃあ、また西門の方を見張ってくるね」


 そう言いながら、タミを残しその場を立ち去ろうとすると、馬のひづめの音と共にひとりの女性がやってきた。切羽詰まった様子で落ち着かない。ただ事ではないと察した紺色の髪の女性は、その人物に何があったのかと尋ねた。


「カエデ!何があったの?」


 明らかに何かあったのだとわかるぐらいカエデの慌てようは凄かった。まだ何も聞いていない二人でさえ気が動転しそうだった。カエデは二人をみてとりあえず安心したのか、小さな深呼吸を繰り返したあと、口を動かした。


「カリン、タミ、落ち着いて聞いてください」


 普段滅多に使わない敬語を使っているカエデをみて二人は息を飲む。緊張感が漂う中カエデは衝撃的な事実を二人に告げた。


「カナが男の人を連れてきて、しかもーーーーーー


















 ーーーーーー裸だったの!!!」

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