17話 持ち物
よりにもよってまたあの黒ご飯を食べることになるとは思っていなかった。今俺達はちゃぶ台を囲みこの特製のお茶漬けを食べている。白いご飯ではなく黒いご飯であることにまだ違和感を感じてはいたが、この香ばしいお茶の香りからは逃れられず結局また口にいれることにした。
「っん⁈こ、これは…‼‼」
う、美味い……。緑色のお茶の海に沈む黒真珠という名の黒ご飯。一口口に含むとご飯のほのかな甘みにお茶の苦味が加わってまるで嵐の中荒れ狂う海を突破した後に見える一筋の光を見つけた時のような感動と達成感のようなものが体中を駆け巡る。シンプルかつ奥が深い味に舌鼓を打ちながら声にならない感動に酔いしれていると隣から嬉しそうな笑い声が耳に入ってきた。見ると、隣に座っていたサリーさんが俺を見てクスクスと笑っている。さっきも笑っていたが俺の何が面白いのだろうか。理解に苦しむ俺を見てまだ笑うサリーさんに軽くショックを受けた俺はどよーんとした暗い空気を漂わせながら下を向いた。
「サリー、笑い過ぎよ。かずやさんに失礼だと思わないの⁉」
アミさんがそう注意するとサリーさんは笑いながら
「だって、かずやさんが面白すぎるんだもん、ウフフ」
そう言ってこっちを向いた。そしてまた純粋無垢に笑う。振り向き際に揺れるサラサラの髪と無邪気な笑窪付きの可愛い笑顔にまたやられてなぜか反射的に顔が熱くなった。さっきもそうだったのだが、サリーさんは振り向く時にシャンプーのCMのように髪を揺らし、同時に一瞬だけ大人のような表情をしてからすぐに子どものような笑顔を俺に向ける。多分俺はそのギャップにやられたのかもしれない。だから俺は俺の気持ちを悟られないようにサリーさんの目から視線をはずした。そして誤魔化すように質問する。
「サリーさん、このお茶漬けのお茶はもしかして昆布茶ですか?」
その質問にはサリーさんの代わりにミサさんがはいと答えた。俺は満足気に頷くと温かいお茶を一気に飲み干し、そのままお椀を置いた。アミさんは元々少なめだったのか既に食べ終わっていて他の二人はまだ静かに食べている。俺は食べ終えたアミさんを見ながら今後の予定などについて尋ねることにした。
「アミさん、この地図のルートを決めた後は何をするんですか?それとオカリナ遺跡に行く際に何を持っていけばいいのでしょうか?」
アミさんは少し考える素振りを見せた後今度は床に地図を広げて俺の目に見えるようにし俺に説明しはじめた。
「おそらくかずやさんが行くルートは比較的安全でそう遠回りじゃないこのルートです。そうですね、ざっと行き帰りを大きく見積もって五日ぐらいでしょうか?オカリナ遺跡は砂漠に入って少しのところにあるので水を大量に持っていく心配はないと思いますが、それでも夏場はやはり多目にいるでしょうね。装備の方はこれからサリーに作ってもらうので心配いらないと思います。それから……」
ちょっと待った。今サリーさんが装備を作るとかって言ってなかったか?聞き間違いかもしれないので本人に確認を取ることにした俺はどうやら同じことを考えていたらしいサリーさんのアミさんを遮る言葉に自分の耳を疑った。
「そうなの、アミ姉ちゃん?初耳だし一応言っておくけど私はガラス職人だからかまどは扱うけど装備は作らないよ⁉まず作れないし……」
慌ててそう取り繕うサリーさん。しかしガラス職人か……。俺はサリーさんのこの見た目と実際の職業のギャップに少しばかり驚きながらこの会話がどの方向に進むのかしばし観察することにした。
「前に劔をモチーフにしたガラスアートをお父様に贈ったじゃない⁈あれを応用して今度は鉄で作れば……」
アミさんの言葉に反論するサリーさん。
「鉄じゃあれ程凝ったデザインは作れないわよ。それにまずガラス細工と鍛治は根本的に作り方が違うし…。大体それ作ったのも2、3年前で作り方も覚えてないわ」
そして今度は直球ではなく変化球で言葉のキャッチボールを返すアミさん。
「じゃあ小刀やナイフは?あれも作り方は違ったと思うけど?」
心当たりがあるのかギクっとなるサリーさん。
「確かに小刀はともかくナイフは作り方が違うけど私が知っているのはサバイバルナイフの方よ⁈とても劔や刀みたいに戦闘用には使えないわ…」
若干押され気味のサリーさんにトドメの一言を突き刺すアミさん。
「じゃあナイフは作れるのね。じゃあ戦闘用じゃなくていいから実用的なナイフを作って頂戴」
直球ど真ん中のストラ〜イク‼‼ サリーさんは観念したようにそう頷くと小さく溜息をついた。アミさんは満足そうに微笑むとサリーさんの手をとってお礼を言った。親しき仲にも礼儀ありをそのまま実践する二人の姿は俺の目にはとても眩しく映った。ミサさんも二人の姿を微笑ましげに見ながら自分のお茶漬けを食べ終えると床に置いてある地図を手に取り別の部屋へ消えていった。その様子を見てなぜか疑問に感じる俺。仕方が無いのでお取り込み中申し訳なかったがアミさんに声をかけるとアミさんは表情を整えこちらに視線を向けた。
「どうしてあの地図は持っていかないんですか?今ミサさんがしまいに行きましたけど……」
ああ、と納得したアミさんは俺に説明し出す。なぜかサリーさんもこちらに視線を移していた。
「それはこの村には地図が二つしかないからです。私達にとって大陸全体の地図はとても貴重で今はお母様が持っているものとここの非常用のものしかありません。ミサさんには地図の管理人になってもらっているので今日はこちらに来ることにしました。あっ、これは機密情報なので他人に告げ口をしたりしないでください」
そうか、地図はこの世界だと貴重なのかとまた新たなカルチャーショックをこの身に感じながら俺はアミさんの言葉にしっかりと頷いた。
次回は11月2日予定です。




