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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第一章 オカリナ遺跡編
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15話 地図

 アミさんの言葉を聞いた後、俺はコロナ大陸全体の地図を見つめながら自分の心の不甲斐なさに唇を噛みしめていた。まだこの世界に来て一日しか経っていないが、強度のホームシックにかかったように心が痛む。猫や蝉もどきのおかげでしばらく立ち直れていたが、やはり最初の日に受けたショックは一日やそっとじゃ消えなかったようでこの地図を見ているとその思いが嫌でもぶり返してきて、正直自分でもこの思いをどうすればいいのか分からなかった。


 もう二度と家族と会えないかもしれない。

 もう二度とあの頃の暮らしに戻れないかもしれない。

 もう二度と帰れないかもしれない。


 そんな思いが込み上げてきてだんだんと思考がネガティブなものに変わっていく。アミさんは俺の様子を察したのか心配そうに俺の顔を覗き込むと励ましの言葉をかけてきた。なんとか例の悪循環に陥る前にアミさんに救われたおかげで気を取り戻した俺は改めてこの地図を真っ直ぐに見ることにした。

 コロナ大陸は奇妙なことに大きな丸い形をしており、まるで人工的に作られたかのように綺麗な円を描いている。大陸の周辺にはところどころ島や列島が大陸を囲むように並び、まるで太陽がそのまま大陸になったかのように俺の目には映った。


「ここがフーガ村です。そしてここがかずやさんの最初の目的地でオカリナ遺跡です。お母様によると三日後には旅立つ予定らしいので地形を把握しておいてください」


 三日後という言葉に引っかかったが善は急げともいうし大人しくアミさんの言葉に頷く俺。しかし、オカリナ遺跡とフーガ村の間が小さすぎて地形も、どのルートで行けばいいのかも分からない。俺が困った様子を見せていると、ミサさんが何やら真剣な顔で俺たちを見てこう言った。


「だからオカリナ遺跡に行くまでのルートが必要なんだろ?まあ、ここで話すのは危ないから店の奥に行こうか」


 そう言って一旦俺たちを奥に行くよう促すとミサさんは何処から取り出したのか臨時休業という看板を片手に店を閉めだした。その姿をみて何か手伝おうかと声をかけたが早く奥に行くように言われ、結局言われた通りにすることにした。店の奥は昭和初期というかそれに近い作りであの畳もどきにちゃぶ台、というまさに日本人ならだれでも知っているあの番組の家族の食卓を連想する。というかそれみたいであり、そう言われれば十人中半数以上が同意するだろう。さっきの白猫といいここといい、ここにあの家族がいれば完璧だと思った。しばらく待っているとミサさんが戻ってきてすぐにちゃぶ台の上で地図を広げはじめた。急いでちゃぶ台の周りに座り地図を見るが、先ほどとは違う地図に首を傾げる。


「これはフーガ村からオカリナ遺跡までのもっと詳しい地図です。見ての通り私達の村はほとんどが小高い丘に囲まれていて西には海、東には小さな森と崖があってそこを越えるとかずやさんのいた砂漠があります。かずやさんが行くオカリナ遺跡はここから南東の……ここ。目印となるものが途中にないのでもし何の装備も無しに行くと途中で倒れて最悪魔物に捕まり死ぬ可能性があります。今は前より道が整備されているのでまだ安心ですが、何があるか分かりません。誰がかずやさんと一緒に行くか決まっていませんが少し大変だというのを心に止めておいてください」


 アミさんのこれからの予定の確認と地図の説明のあと、俺はいつの間にか強張らせていた肩の力を抜いた。魔物と言われても実際どんなものか分からないからピンとはこなかったが、死ぬ可能性があると言われたら冷や汗の一つもかくだろう。これから自分の世界へ帰るため、少なくともその方法を探すために自分の命を失いかねないほど危険で危ない場所に行く。言うのは簡単だが、戦争のない平和で安全な国から来た俺にとってはまず実感が湧かなかったし正直想像が出来なかった。


「大丈夫ですよ、かずやさん。私達が責任を持って送り返しますから」


 アミさんが俺の顔を覗き込みながらそう声をかけてくる。いつの間にか俺は拳を固め、恐怖からか悲しさからかそれともただの武者震いか分からないが気づいたら俺の体がまるで心の不安をそのまま体現したかのように小刻みに震えていた。


 アミさんは初めて会った時のように困った顔をしている。しばらくの沈黙の後、ミサさんがすっと立ち上がり何処かに行った。そして帰ってくると俺の前に湯気をたてながらいい香りを醸し出すお茶を置いた。俺は体で拒否を示したがミサさんからいいから飲みなさいとうるさく言われ、結局一口すすることにした。香りを味わう暇も無く、熱々なのを飲み込むと俺はこのお茶をどこかで飲んだことがある、というかこの味を知っている感覚に陥った。そう、この味は……。


「ソウケンミサ。この店の目玉商品だよ。いろんな茶葉を混ぜ合わせて作ったうちの自信作さ。どうだい、美味しいだろ?」


 ソウケンミサ。日本で有名なあのお茶に味や香りだけでなく名前までもが似ている。俺はお茶の名前の由来が気になってミサさんに聞いてみた。


「ソウは私の実の兄でケンは私の元旦那さ。そしてミサは言わなくても分かるだろ?まあ、元々この店はソウ兄とケンさんと私の三人で始めたんだけどねぇ、今は二人ともポックリと逝って私一人。このお茶も名ばかりの寂しいもんになってしまったと思うと悲しいね。まあ、自信作には変わりはないんだけどね」


 少し悲しみの篭った声でそう答えるミサさん。俺は妙な懐かしさを感じたからか失礼を承知で一つ質問した。


「ソウケンミサってもしかして爽やかで健やかで美しいお茶という意味ですか?」


 するとミサさんは首を振りながら笑顔で、


「そんな意味なんてないよ。でもその発想は気に入ったからキャッチコピーだっけ⁈とにかくこの商品の宣伝用の決まり文句にしておくよ」


 そう言った。全く似てるものが多すぎる。でもそれが心地良くて嬉しくて自然に笑みが零れた。そして気が抜けたからか無駄な力が抜けたからか俺は声を出して笑いはじめていた。俺は久しぶりに人の前で自然に笑った。

次回は10月19日予定です。


お気に入り件数が10桁に入りました。

ありがとうございます。

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