13話 工房
誤字脱字があったらすみません。オジー王国の謎13話お楽しみください。
照りつける日差しの中、アブラゼミが夏特有の音楽を奏でている。そんな中一人の子供がそのアブラゼミを捕まえるべく抜き足差し足と慎重に近づいていた。ところが砂利を踏みつける足音を感じとったのかアブラゼミはその子供を置いて飛び去ってしまう。慌てて追いかけようとしても時はすでに遅く結局子供はその蝉を見失ってしまった。
◇◇◇
「ぎゃっ‼蝉のおしっこが⁈」
コロナ大陸の西端にある小さな村、フーガ村。その小さな村の通りの一つ、職人街の入り口付近でかずやは蝉らしきものに挨拶代わりに尿をかけられていた。まだ子供の頃、虫取り網で蝉取りをしてた時はかずやもしょっちゅう被害にあっていたが、中学生になったあたりから虫取り自体に興味が無くなり自然そのものからも遠ざかるようになっていたのだ。しかし、この異国の地で日本にいた頃と同じような生き物を見つけたあまりかずやはつい興奮してしまい思わず近づいて手をのばしてしまった。それでこの惨事である。かずやは二度と軽い気持ちでこの蝉らしきものに近づかないと心に誓った。
「ここがこの村の職人街で鍛治や織物など様々な手芸品が作られています。せっかくかずやさんも来られたので何か作ってもらったらいかがですか?その、服とか。……汚れているようですし」
亜麻色の髪の女性、アミがかずやの右斜め前を歩きながら振り向いて若干言いづらそうにそう告げる。確かにかずやの今着ている服は外を歩くには少し不便で、何より先ほど蝉もどきに尿をかけられたあたりから不愉快で仕方が無かったのでかずやは素直にその提案にのることにした。アミに付いて職人街に入り三軒目のこじんまりとしたオシャレなブティックらしきものの前で彼女が止まるとまた振り向いてこう言った。
「ここは私の妹が働く小物屋さんです。一応女性用専門のお店なんですがかずやさんは特例の方なのでこちらへどうぞ」
店と店の間の僅かな隙間。辛うじて自転車を一台通せるくらいの小さな通りを抜けて店の裏手にまわったかずやとアミは非常口と書かれた扉から店内へと入っていった。店内はこじんまりとした外観からは想像出来ない程広く、机の上や大きな棚の中に材料のようなものが所狭しと置かれている。かずやは興味深そうにあたりを見回していると奥、いやこの場合は前から人影が現れ声をかけられた。
「いらっしゃいませ、どなたですか? まだ開店時間では……ってなんだお姉ちゃんか……」
お客様にする対応から身内のみに見せる態度に変わったあとその女性は淡い水色のエプロンをつけながら少しガックリした様子を見せた。
「お姉ちゃんか……じゃないでしょ、サキ。もう。今日はお客さんとしてこっちに来たの。開店時間より少し前だけど注文とってくれる?」
サキ、と呼ばれた女性は目を輝かせながらはい、ただいまと言い、そのまま頭にエプロンと同じ色のバンダナを巻いて注文をとるための紙とペンを取った。
「それでご注文は?」
ペンを片手でいじりながらそう尋ねるサキに対し、アミは気まずそうに目線を泳がせながら隣にいるかずやを指しこう言った。
「サキには服を作ってもらいたいの。…………男性用の」
男性用、という言葉に反応し目を細めながらかずやを怪訝そうに見るサキ。サキは目線をかずやに向けながらアミに先ほどから疑問に思っていたことを尋ねた。
「さっきから気になってたんだけどこの人誰、お姉ちゃん?それに男性用ってどういうこと?」
要望に問い返されたからか他の理由からかアミはこめかみを手で抑えながら呆れたようにため息をする。しかしサキにはなぜアミがため息をもらしたのか見当がつかず首を傾げながら目線を上にあげ考えこむように口を抑えた。
「サキ、また朝食抜いてこっちに来たんでしょ?今朝は大事な話し合いがあるからちゃんと来なさいってお母様が言ってたじゃない⁈」
アミの声のトーンが僅かに荒くなる。アミに言われたことに心当たりがあるのかギクリと肩をすくめるとサキは両手の人差し指をつんつんとしながら上目遣いにブツブツと答え出した。
「いや、新しいアイデアがパッと浮かんだからつぃ……」
本当に申し訳なさそうに頭をさげなから口を窄めて答えるサキを見つめるアミ。やがて仕方が無いと開き直ったのか苦労の吐息をもらすと諦めたように口を開いた。
「はあ、全く。朝食を抜いたら体に悪いんだからちゃんと食べてから次は行きなさい。とにかく、この方はカズヤ・タケダさん。異世界から来た男の人よ。お母様の命令でこの方を案内することになったからここに来たの。まずは彼に合う男性用の服が無かったからサキに仕立ててもらいたくてね。全く……本当は仕立ててもらってから出かけるつもりだったのにサキがいなかったから寝巻きのまま連れてきたんだよ⁈ お母様を除いたらサキしか男性用の服を作ったことが無いんだからしっかりしてよね。大体、朝食を抜いて……」
一人取り残された孤独感と今から説教が始まりそうな雰囲気を制止する為にかずやは二人の間に割って入り申し訳なさそうに二人の会話を中断した。
「あのー、お取り込み中申し訳ないのですがそろそろ僕の服を仕立ててもらってもよろしいでしょうか?」
アミとサキは自分のすべきことを思い出したのかハッと気づいたようにかずやを見つめ返し先ほどまでの自分達を詫びた。かずやは両手を前で振りながらどうかお気になさらずといった様子で、その態度を見て二人は安心したのかサキは採寸の為の紐を取りに、アミはどこから取り出したのかかずやを椅子に座って待つよう促した。やがて紐とペンを両手に戻ってきたサキはかずやを立たせ彼のサイズを図りだした。一通りサキが図り終えたあと、アミとかずやは礼を述べ、今度は正面の扉から外に出ていった。サキは次の目的地へ向かう二人を見送った後、閉店中と書かれた札を裏返し店内の自身の工房へと戻っていった。
次回は10月5日の予定です。




