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オジー王国の謎  作者: 寺子屋 佐助
第一章 オカリナ遺跡編
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10話 紹介(1)

 冷んやりとした朝の空気が顔を撫でる。まだ日が昇る少し前、辺りが徐々に光に包まれてくる頃、かずやは何か湿ったものが顔に触れる感覚と共に目を覚ました。何だろうと手探りでその湿った場所を触るとかずやはそれが自分の涎からくるものだと気づく。自身のものだと分かってはいたものの流石に気分が悪くなったのか思わず上体を起こし、同時に肌について乾いていた涎を拳で拭い落とした。


 伸びをしながら周りを見渡す。起きたら現実に戻っているという淡い期待を持ちながら首を動かすが昨日案内された部屋と変わったところは無い。かずやは少しガックリしたものの昨日よりショックは少ないのか混乱するには至らなかった。ただ座っている気分ではなかったので布団を畳み、立ち上がってすだれの近くまで行き、そのまますだれを上げ障子扉を開ける。ようやく出てきた朝の日差しに心地よさを感じながらかずやは外、正確には中庭のようなところにでて見た。


 人が歩けるように石で出来た道が規則的に並べられ、中央には人工の池がありそれを囲むように道が続いている。庭のあちらこちらに紫陽花の花が咲きめぐり池のすぐ隣にはサルスベリと呼ばれる木がまるでここが伝統的な日本庭園だと錯覚させるかのようにその存在を強調していた。


 かずやがあまりの美しさにしばし見惚れていると、彼が出てきた障子扉とはまた別の扉が開いた。すると中から黒い影が現れ、先ほどのかずやと同じように伸びを始める。その様子に気づいたかずやは視線と体をその影の方に向けた。影もかずやがいたことに気づいたようで伸びをし終わった後そのまま声をかけた。


「おはよう、かずや君」

「おはようございます、アントワンヌさん」


 ニッコリと微笑みながら挨拶をするアントワンヌに丁寧な態度で返すかずや。一通り挨拶を済ませた後、またもやアントワンヌがかずやに話しかけた。


「随分早いな、君はいつもこの時間帯に起きるのかい?」


 昇ってきた日の光に当たりながら質問したアントワンヌはどこか艶やかでそれでいて神秘的だ。ありきたりな質問であったにも関わらずかずやがすぐに答えられなかったのはその姿をまじまじと見ていたからだろう。少しの間の後、アントワンヌの姿を見つめていた事にハッと気づいたかずやはつむじのあたりをボリボリと掻きながら答えだした。


「いいえ、いつもはもっと遅いんですけど、なんか目が覚めちゃって」


 そういって気まずそうに下を向くかずやにアントワンヌはまた微笑んだ。日はもう上がり始め少しずつ暖かくなってくる。しばらくの沈黙の後、アントワンヌは思い出したかのように今日の予定についてかずやに伝えはじめた。


「ずっと外にいるのもあれだし、そろそろ朝食の時間だから中に入ろう。今日は来たばっかりでいろいろ分からないだろうからここら辺の事を案内しよう。まあ、まずは朝食だから部屋に移動しようか。ついてきてくれ」


 そういうと、アントワンヌは自分が出てきた障子扉へ歩きはじめた。かずやはそのあとを追い、部屋まで案内されることになる。そして驚愕なものを目にするのだった。



 ◇◇◇



 ここは大きなダイニングルーム。一言で大きなといってもいろいろあるけど人が200人くらい入ると聞いたらどれくらい大きいか想像できるだろう。俺は数あるテーブルの中から一番ドアから離れているものに腰掛け朝食が出てくるのを待っていた。正面にはアントワンヌさんが腰掛け、朝食前の紅茶を飲んでいる。俺はあまりの広さに少し恐縮しながら恐る恐るアントワンヌさんにこの部屋の事について尋ねてみた。


「あの~……。二人だけしかいないのにどうしてこんなに広い部屋を使っているのでしょうか?」


 疑問に思ったことを聞くと一瞬怪訝そうな顔をするアントワンヌさんだったが質問の意味が分かったのか少しはにかみながら答えだした。


「それはかずや君に私の家族を紹介する為だよ」


 アントワンヌさんが言い終わると同時に、鐘のようなものが鳴りドアが開いた。その途端大群ともいえる女性の数がドバーッと入ってきて次々と着席しはじめた。そのあまりの人数に一瞬本当に死んで天の使者が迎えにでも来たのかと思ったほどだ。驚いた様子の俺を見てアントワンヌさんが眉を八の字に曲げると腹から出る大きな声でみんなに呼びかけた。


「静かにしなさい‼お客様のいる前ではしたないでしょ‼」


 途端にシーンとなる空間に少しだけ居心地が悪くなったのは内緒だ。あたりが完全に静かになったところを見計らってアントワンヌさんが立ち上がり威勢あるよく通る声で話しはじめた。


「今日は遠いところからお客様が一人いらっしゃっている。長い旅路で大層お疲れのようだからあまり騒いだりして迷惑をかけないように。以上」


 アントワンヌさんが座ると同時に食べ物が運ばれてきた。歳上に見える女性達は皆事情を知っているようで静かに出された食事をつつきだすが目線だけは俺の方を向いていて正直食べ物が喉を通る気がしなかった。五歳ぐらいの小さな子たちはあからさまに俺の話をしていて歳上の女性達が静かにするよう促している。会話の内容は聞こえなかったが誰もが興味深そうにこちらを覗き見ていることから悪口を言っているわけではない……と願いたい。誰もが黙々と食べている中その沈黙を破って話し出したのは案の定アントワンヌさんだった。


「かずや君、まずは君が自己紹介をはじめてくれ」


 突然の無茶振りに思わず首をブンブンと振り拒否しそうになるがあまりの量の期待の眼差しにその動作を寸前で止めた。ここで覚悟を決めなければ男じゃない、そう思い決死な思いで立ち上がり咳払いをして自己紹介をはじめた。


「僕はカズヤ・タケダ、21歳です。この村というかこの世界のことについてまだ知らないことがたくさんあるので、え〜、あまりこちらの常識とかわかりません。ですから、僕が変なことをしてもどうか広い心で受け止めてください。どうぞよろしくお願いしましゅ……」


 ………………。か、噛んでしまった………。緊張して変な表現になってないかな。あー、穴があったら入りてぇ。あ〜死にて〜。


 自分の顔が耳まで真っ赤になっていることを自覚出来るぐらい恥ずかしい思いをして俺の自己紹介は終わった。もう顔もあげられないくらいに落ち込んでいる俺を皆はどう見ているのだろうか。ゆっくりと顔をあげ、周りを見渡した。すると、あちらこちらからクスクスと笑い声が。そしてその笑い声はどんどん大きくなり最終的には目に涙を浮かべながら爆笑しはじめるものまで現れた。


「アハハハハハ、ウケる、ヒック」


 その中の一人、ターコイズだろうか緑と青の中間で比較的青よりの色の髪を前髪だけあげてピンで止めている子が俺の事を指差しながら腹を抱えて笑っていた。口を大きく開きながら涙を目元に溜めて笑うその子からはとても明るい印象を受けたが、もともと大雑把なのかただ大胆なのか笑い声を抑えるどころか隠すつもりもないようだ。挙句の果てには自分のしゃっくりでさえツボにはいったようで、笑いの循環から抜け出せないでいる。


 しばらく笑い声を聞いていたが見兼ねたのかアントワンヌさんがほとぼりが覚めはじめた頃合いを見計らって静止するよう声をかけた。段々と冷めてきた雰囲気に心から安堵した俺は次に発されたアントワンヌさんの言葉に言葉を失った。


「かずや君の丁寧な自己紹介が、ップ、終わったところで今度は私達が改めて自己紹介をしよう……。では、アミ。あなた達から始めなさい」


 声が震えていたり途中で吹き出したり明らかに面白がっていることが嫌でも分かったがそんな事よりもあなた達、と言っていたことに疑問を抱く。まさか全員自己紹介するなんてことは、と甘い期待をしていたが俺のそんな願いはすぐに掻き消されることになった。


「もう知っていると思いますが私はアミ。アミ・オジーです。ここに立っている八つ子の一人で24歳です、こちらこそよろしくお願いします」


 そう。アミさんと残りの八つ子ちゃんが一斉に立ち上がって自己紹介を始めた時から…………。

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