第参話~事故紹介(自己紹介)
その後何があったのかということについてこれから語ろうと思う。
もちろん特にこれといったこと、変な事はなかったのだが、この物語の語り部である僕のほうからすると、この家に連れ込んだ(不本意ながらもこの表現が一番近いのである)あとの出来事は、そのさらに後の出来事と比べると大いに色あせてしまうのだが、そうだとしてもこの僕の家で起こった事を語らなければなるまい。なぜなら、彼女と会わなければ・・・いや、彼女を家に連れ込まなければ少なくとも僕のこの生活は、変わらなかっただろう。
誰かが、かわりに犠牲になってしまうことになってしまうが、それだけである。少なくとも僕ではなく、もっと性格のいい、または悪い人に助けられていれば、少なくともその人が死んでしまうだけだっただろう。僕みたいな人間の出来損ないみたいな、中途半端な人間である僕が助けてしまったからこそ、この物語は始まってしまったのだろう。僕がいなければ語られなかった物語だ。
・・・と言ってしまえば多少は僕の無様さ、あるいは失態は払拭されるのではないかと思い、今このように語ったわけだが特に変わらなかった。
後悔も、気分が晴れたりもしなかった。何も感じる事ができなかった。
まことに僭越ながら今現在語っているこの僕は、全てが終わった後の僕である。故に考え方にも差はある。過去と現在、現在と未来では一日だろうと差は出る。まるで禍根を残すように。
本当のことを言うとこれ以上のことを語りたくはない。さっさと結果だけ言ってしまい、寝てしまいたい。だが、そんなことは許されないだろう。
拒否をするには、あまりにも罪を重ねすぎた。もしかしたら今も重ねているかもしれない。重ねて重ねて重く重くのしかかっているだろう。そしてこれから一生消える事はないのだろう。
ならば、場も盛り上がってきたところだし、語りなおし始めようか。
まだ取り返しがついた頃の僕の話を。もう取り返しのつかないこの僕が語り始めよう。
「本当に、何もかもが、解明されてるのね」
「ああ、驚いただろ?」
あのあと、僕は普通に薙比丘を家に招待した。(何故か、冷たい目で見られてしまったが)
そして、母親と僕の妹の追及を逃れつつ薙比丘を僕の部屋につれてきて、現在に至るわけである。
薙比丘は僕が部屋においてあるいろんな本を物色している。僕の秘蔵本は、見つけていないという事をここで明記させていただくとしよう。
「で、」
「うん」
「私はこれから、どうすればいいの?」
「そうだなあ」
これは、なかなか難しい話である。もちろん、そのことについて考えてはいた。
「うーん、まあ、薙比丘は僕の家でゆっくりしてたらいいと思う。外に出てもいいけどさ、さすがに一介の中学生である僕には学校に行かせるために戸籍を作ったりは出来ないからな」
そう、一介の中学三年生である僕なんかにはそんなことができない。僕は、無力である。全てにおいて、無力である。
「家に居てあなたのお母様と、お父様に何も言われないの?」
「うーん、まああけっぴろな人たちだからね。妹も姉が出来たら喜びそうだし」
「ふーん」
「まあ、でもだ薙比丘。お前のことがわからないと、説明の仕様がないからさ。おまえのこときかせてもらってもいいか?どうやってこの時代に来た・・・とか」
「言って、どうするの、あなたのお母様に、未来から、来た。なんて、言うつもりじゃないでしょう?」
「まあ、そうだ。でもお前のことを知らないと、お前を信じれなくなるかもしれないだろ?」
「嘘をつくかも」
「別にいい。薙比丘、僕はお前の口から出た言葉を聞きたいんだ」
「・・・・・・・・」
薙比丘はどうするかを迷っているようだった。それはそうだろう、向こうのほうもこちらをまだ完全に信用していないだろう。
・・・でも、でもここで嘘を言われたとしてもそれでいい。少なくとも、騙そうとしているか、信じたかにしぼられる。
そして薙比丘は約十分後、覚悟を決めたように、
「分かった、教える」
「ああ」
「実は、私にもどうやって、ここに来たのか、分からない。覚えてるのは自分の名前といつ生まれたかと、ここに来る直前の記憶だけ」
「その直前にはなにをしてたんだ?」
「友達と待ち合わせ」
あまりにも手がかりがなかった。だが、少なくとも彼女に嘘をついてる気配がない。だが、あまりにも都合がよすぎる。まるで、
まるで、記憶を操作されたように。
だが、少なくとも分かった事はある。薙比丘を送り込んだ相手は、(そいつのことは、敵と呼ばせてもらう)明確な悪意をもって、薙比丘を送り込んだということだ。そうでなければ、記憶を操作することはないだろう。
・・・・こうなると、いつから来たかも怪しいな。
もしかするとタイムマシンが開発された、その年かもしれない。
「そう・・・・わかった。薙比丘お前はうちで暮らしていいよ」
「本当?なにも、わからなかったんじゃないの?」
「だから、僕はお前の口から聞きたかったんだって、そういっただろう?」
「・・・なら、お言葉に、甘えさせてもらう」
「ああ、ならまず母さんと少し話をしてくる。少し待っててくれ」
「うん、分かった」
そして僕は、母さんと話をしに下に降りていく事にした。うちは二階なのだ。
こうして、取り返しがつかなくなってしまったという、その状況に気付くことなく僕は階段を、一段、また一段と降りていく。