小さな巫女
俺の家から車を走らせ、どこへ向かうのだろう。
「--で、みゃーちゃん……」
「何だぁ?」
「一体どこへ向かっているんですか」
みゃーちゃんは当たり前の様に、笑いながら応える。
「あったしが分かるわけないでしょー」
「…………」
台無しだ。
あんなにカッコ良く迎えに来てくれたのに……。
行き当たりばったりかよ。
サングラスをかけた担任は、豪快に笑いながら続ける。
「あんたたちは大体検討ついてんでしょう? だったらカッコ良く決めさせなよ。もっと担任を大事にしろーっ」
「生徒を守るのがあんたの仕事でしょう」
「私はグレートティーチャーかっつーの!」
っぽいんだけれど。
物凄く。
「まぁ、とにかく--」
言ったのは現見だった。後部座席に姿勢正しく座り、真面目な表情だった。
「行ける所、全て行きましょう」
現見の台詞に、一同は頷き、みゃーちゃんはアクセルを強く踏む。
にしても……。
どこから探したものか……。
おおよその検討はついているけどさ。
うーん。と考えていた楠宮は、大袈裟に叫び、車を揺らした。
「まずは、成尾神社だな!」
成尾神社。
俺の街にある、古い神社。
神主は居るのかどうかすら分からない。
夏場には学生が肝試しとしても使う様な、そんな閑散とした場所を何故……。
俺は呆れながらに、諦めながら楠宮に訊いてみた。
「なぁ、楠宮……どうして成尾神社なんだよ。俺達は肝試しに行くわけじゃあないんだぞ」
「ああ! 分かってる!」
「いや、絶対に分かってないだろ」
こいつ、一体何を根拠に……。
「と、ゆー事で……みゃーちゃん、よろしくぅ!」
「あいさっ!」
ノリノリだった。
ノリに乗っていた。
担任なのに……。
教師なのに……。
全く、こんな事だから日本の教育が----
「うおおぉおぉ!?」
淡いブルーのラパンはさらに速度を上げて、道路を駆け抜けた。
……法定速度は守りましょうよ。
悪魔の時間
いや、ピンとこない。
地獄の--
これも違う。
……とにもかくにも、俺達は成尾神社に到着した。
「うぅ……気分悪い」
「なんだなんだぁ? 先生の運転がそんなにカンドーしたかぁ?」
違う。
んなワケあるかよ。
吐きそうなんだよ、アホ教師!
俺は潤んだ瞳で、みゃーちゃんを睨みつけるも、そこはそれ。潤んだ瞳が手伝い、全く覇気が無かった。
いや、吐きそうだけれども……。
「どした? 海。酔ったのか?」
「も、銛矢君……大丈夫ぅ?」
何故、この二人はこんなにもケロっとしているんだ。何だか、自分が情けなくなってきた。
成尾神社までの道のりは、酷く険しいものだった。山の中腹までは、ガードレールだり、標識だり、色々と人の手が加えられていた。
問題はここからだ。
中腹にある、動いているのかすら分からない、真っ赤な自販機を過ぎた辺りから、地獄は始まったのだ。
舗装されてない道。
取り除かれていない大小の石。
落ちっぱなしの葉。
枯れっぱなしの草。
朽ち果てた木々。
そして、揺れっぱなしの車……。
俺は当たり前の様に乗り物酔いし、
当たり前の様に青い顔をしていた。
そして、今、俺達は長く険しい石段をえっちらおっちら進んでいるわけだ。
「気合が足らんな。銛矢ァ!」
「気合だけじゃ大学生にはなれませんし……」
「かぁ〜。分かってないなぁ、銛矢。気合は大事だぞー。先生もかつてそうだったように、気合だけで大学に受かる奴も居る」
「嘘でしょう?」
「嘘じゃあないさ」
「じゃあ、どのようにして大学に?」
「三ヶ月、学長の家を攻めた」
「嘘でしょ!?」
「嘘嘘。本当は四ヶ月なんだがな」
「そんなことは問題じゃないだろ!!!」
「お! 見えてきたな。神社」
切り替え早過ぎるだろ。
そう心の中で毒づき、俺は嘆息を漏らした。
「神社キター!!」
楠宮は言いながら、境内へと進んだ。
「ほぉう。なかなかフンイキあるじゃないか!」
みゃーちゃんはそう言いながら、ボロボロの鳥居をバシバシと叩いた。
「でも、ちゃーんと人は居るみたい。ほら、灰がこんなに」
現見は錆び切ったドラム缶を覗き込みながら言った。
恐らく、落ち葉などを集めて燃やしているのだろう。と言う事は……。
「人が居るってことか」
しかし、皆ジルを探すという目的を綺麗さっぱり忘れているのではないか……と不安になってきた。
現見に声を掛けようとした瞬間、俺は後ろから誰かに声を掛けられた。
「探し物は見つかりましたデス?」
振り返るとそこには巫女装束をまとった、小さな女の子が居た。
おかっぱ頭で、いかにもイイコそうな少女が、そこに居た。
--しかし……。
「ワタクシ、巫女デスからあなた達の事、歓迎しますデス」
この子はオカシイ。
直感で、いや、見て……わかった。
少女は両手を後ろで結ばれており、目隠しをされていた。
「あれぇ? ワタクシ、何か変な事言いましたデスか?」
その子は見えているかの如く、俺を見上げ、言う。
「しょーがなぁいデスね。ワタクシが貴方を正しい道へと案内しますデス。しかし、貴方は少々厄介デス。まだ、迷いがありますデスね」
おかっぱの少女は、俺の言葉を待たずに続けた。
「貴方の望みは何デスか? ワタクシが全てを請け負いましょう」