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罪な人魚の都落ち  作者: 闍梨
第五章
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小さな巫女

 俺の家から車を走らせ、どこへ向かうのだろう。


「--で、みゃーちゃん……」


「何だぁ?」


「一体どこへ向かっているんですか」


 みゃーちゃんは当たり前の様に、笑いながら応える。


「あったしが分かるわけないでしょー」


「…………」


 台無しだ。

 あんなにカッコ良く迎えに来てくれたのに……。

 行き当たりばったりかよ。

 サングラスをかけた担任は、豪快に笑いながら続ける。


「あんたたちは大体検討ついてんでしょう? だったらカッコ良く決めさせなよ。もっと担任を大事にしろーっ」


「生徒を守るのがあんたの仕事でしょう」


「私はグレートティーチャーかっつーの!」


 っぽいんだけれど。

 物凄く。


「まぁ、とにかく--」


 言ったのは現見だった。後部座席に姿勢正しく座り、真面目な表情だった。


「行ける所、全て行きましょう」


 現見の台詞に、一同は頷き、みゃーちゃんはアクセルを強く踏む。

 にしても……。

 どこから探したものか……。

 おおよその検討はついているけどさ。

 うーん。と考えていた楠宮は、大袈裟に叫び、車を揺らした。


「まずは、成尾なりお神社だな!」


 成尾神社。

 俺の街にある、古い神社。

 神主は居るのかどうかすら分からない。

 夏場には学生が肝試しとしても使う様な、そんな閑散とした場所を何故……。

 俺は呆れながらに、諦めながら楠宮に訊いてみた。


「なぁ、楠宮……どうして成尾神社なんだよ。俺達は肝試しに行くわけじゃあないんだぞ」


「ああ! 分かってる!」


「いや、絶対に分かってないだろ」


 こいつ、一体何を根拠に……。


「と、ゆー事で……みゃーちゃん、よろしくぅ!」


「あいさっ!」


 ノリノリだった。

 ノリに乗っていた。

 担任なのに……。

 教師なのに……。

 全く、こんな事だから日本の教育が----


「うおおぉおぉ!?」


 淡いブルーのラパンはさらに速度を上げて、道路を駆け抜けた。

 ……法定速度は守りましょうよ。




 悪魔の時間

 いや、ピンとこない。

 地獄の--

 これも違う。

 ……とにもかくにも、俺達は成尾神社に到着した。


「うぅ……気分悪い」


「なんだなんだぁ? 先生の運転がそんなにカンドーしたかぁ?」


 違う。

 んなワケあるかよ。

 吐きそうなんだよ、アホ教師!

 俺は潤んだ瞳で、みゃーちゃんを睨みつけるも、そこはそれ。潤んだ瞳が手伝い、全く覇気が無かった。

 いや、吐きそうだけれども……。


「どした? 海。酔ったのか?」


「も、銛矢君……大丈夫ぅ?」


 何故、この二人はこんなにもケロっとしているんだ。何だか、自分が情けなくなってきた。


 成尾神社までの道のりは、酷く険しいものだった。山の中腹までは、ガードレールだり、標識だり、色々と人の手が加えられていた。

 問題はここからだ。

 中腹にある、動いているのかすら分からない、真っ赤な自販機を過ぎた辺りから、地獄は始まったのだ。

 舗装されてない道。

 取り除かれていない大小の石。

 落ちっぱなしの葉。

 枯れっぱなしの草。

 朽ち果てた木々。

 そして、揺れっぱなしの車……。

 俺は当たり前の様に乗り物酔いし、

 当たり前の様に青い顔をしていた。

 そして、今、俺達は長く険しい石段をえっちらおっちら進んでいるわけだ。


「気合が足らんな。銛矢ァ!」


「気合だけじゃ大学生にはなれませんし……」


「かぁ〜。分かってないなぁ、銛矢。気合は大事だぞー。先生もかつてそうだったように、気合だけで大学に受かる奴も居る」


「嘘でしょう?」


「嘘じゃあないさ」


「じゃあ、どのようにして大学に?」


「三ヶ月、学長の家を攻めた」


「嘘でしょ!?」


「嘘嘘。本当は四ヶ月なんだがな」


「そんなことは問題じゃないだろ!!!」


「お! 見えてきたな。神社」


 切り替え早過ぎるだろ。

 そう心の中で毒づき、俺は嘆息を漏らした。


「神社キター!!」


 楠宮は言いながら、境内へと進んだ。


「ほぉう。なかなかフンイキあるじゃないか!」


 みゃーちゃんはそう言いながら、ボロボロの鳥居をバシバシと叩いた。


「でも、ちゃーんと人は居るみたい。ほら、灰がこんなに」


 現見は錆び切ったドラム缶を覗き込みながら言った。

 恐らく、落ち葉などを集めて燃やしているのだろう。と言う事は……。


「人が居るってことか」


 しかし、皆ジルを探すという目的を綺麗さっぱり忘れているのではないか……と不安になってきた。

 現見に声を掛けようとした瞬間、俺は後ろから誰かに声を掛けられた。


「探し物は見つかりましたデス?」


 振り返るとそこには巫女装束をまとった、小さな女の子が居た。

 おかっぱ頭で、いかにもイイコそうな少女が、そこに居た。

 --しかし……。


「ワタクシ、巫女デスからあなた達の事、歓迎しますデス」


 この子はオカシイ。

 直感で、いや、見て……わかった。

 少女は両手を後ろで結ばれており、目隠しをされていた。


「あれぇ? ワタクシ、何か変な事言いましたデスか?」


 その子は見えているかの如く、俺を見上げ、言う。


「しょーがなぁいデスね。ワタクシが貴方を正しい道へと案内しますデス。しかし、貴方は少々厄介デス。まだ、迷いがありますデスね」


 おかっぱの少女は、俺の言葉を待たずに続けた。


「貴方の望みは何デスか? ワタクシが全てを請け負いましょう」

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