表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪な人魚の都落ち  作者: 闍梨
第五章
46/54

人魚だろ

 助ける。助ける。


「とは言っても……あいつを助けるってのは、海に返すって結論で間違いないよな」


 肩で息をしながら、晴れ渡った空を見上げる。長い事走っていたと思ったが、まだ現見の家の庭だった。


「はぁ、はぁ、銛矢君……どうしたの、急に」


「悪い、現見。ちょっと……走りたくなってさ」


「どんなアスリート精神なのよ! 銛矢君、やっぱりおかしいよ」


「むぅ……」


 確かに、おかしいよ。

 俺は迷っている。

 ジルを海に返さないと、ジルが危険だ。だが、そんな事を現見に言えるだろうか。答えはノーだ。ジルが実は人魚だなんて、言えるはずがない。

 俺は現見を見て、静かに言った。


「現見に大切な事を言っておかないといけないんだ」


「えっ!?」


「現見。実は----」




 楠宮御影は俺の親友である。これは間違いない。何故か。周りがそう言うからだ。だが俺は周りの意見に耳を傾けない男では無い。従って、この忌々しくも卑しく卑猥な猥談好きな友人を、俺の親友としておこう。


「海。お前が『となりや』に誘ってくれるなんて、珍しいな」


「そうだっけか? なんなら隣町のファミレスでも良かったんだが」


「んなっ! そりゃお前、あずみさんに失礼だろ」


 カウンターを大袈裟にダンダンと叩く楠宮。ああ、こいつはいつも通り忌々しい。

 カウンターの向こうから、あずみさんが飲み物を置きながら俺に言う。


「何よ、言うようになったじゃない。クソガキが。ほれ、飲みな」


「ありがとうございます」


 あずみさんが俺達に提供したのは、アイスコーヒーだった。


「何故に、レーコーですか……」


 楠宮が恐る恐るあずみさんに質問をする。あずみさんは「ふふん」と鼻で笑ってから、不気味な表情で楠宮に言う。


「お前らをカフェイン多量摂取で殺してやろうと思ってな……」


「…………!?」


 場の空気が、コーヒーよりも冷たくなった。が、すぐにあずみさんはけらけらと笑いながらコーヒーについての説明を始めた。


「ビビり過ぎだ。二人共。これな、アイスで飲むのにいい豆なんだよ。グァテマラ産の豆でな……とりあえず、飲んでみ」


 あずみさんはコーヒーの説明をする事無く、俺達にコーヒーを勧めた。あずみさんの満面の笑みと、差し出された両手が「うまい!」以外の言葉を言わせない。そんな威圧感を感じながら、俺と楠宮は恐る恐る、ストローに口を付けた。


「--う、うまい!」


 思わず、というより素直に、このコーヒーのうまさに驚いてしまった。楠宮も「うめーぇ!」としきりに口にしていた。


「だぁろ〜? うめぇよなぁ! やっぱりグァテマラはアイスで正解だよなぁ! この深いキレとコク、嫌味にならないけど癖になる酸味! さっすが、私の弟子達だ」


 あずみさんは心底嬉しそうにしていた。多分、自分で挽いた豆だからこそ、ここまで喜んでいるんだろう。


「俺は弟子じゃ終わりませんがね!」


「…………」


 楠宮のジョークもコーヒーの旨さに隠れてしまったので、俺は敢えて何も言わなかった。

 俺はもう一口コーヒーを口に含み、しっかりと喉を潤してから楠宮を見ずに話し始めた。


「なぁ、楠宮……。今日は大切な話があるんだ」


「ん? 改まってどうしたよ。気持ち悪い。なんだ? 告白か?」


 楠宮は身体を俺に向けていたが、俺は前を向いたまま話を続けた。


「告白……ねぇ。まぁ、そうなるのかもな」


「マジかよ……。笑えねぇな」


 楠宮はコーヒーを飲み干し、グラスに残った氷を口に入れ、ごりごりと大きな音をたてた。


「んで、なんだよ。笑えねえ告白って」


「…………」


 楠宮はしっかりと待ってくれていた。何も言わない俺をじっと見つめ、唯々ゆっくりと俺の言葉を待ってくれていた。

 俺はそんな親友の姿に、口を開かずにはいられない。素直に、そう感じていた。


「……あのな、実は--」


「ジルちゃんの正体の話か?」


 俺は思わず固まってしまった。多分、顔に「どうしてわかるんだ」と書いている程驚いていたと思う。


「はぁ、やっぱりな……。にわかには信じ難いけど、ああ〜、そうかぁ……」


「いやいやいやいやいや! 一人で納得しないでくれよ! 俺の張り詰めた緊張の糸が!」


「緩んじまったか? ははっ! まぁ、唯の転校生ってゆーのも嘘臭かったし……。てゆーよりお前が二学期の始まりに話してただろ?」


 そうだ。

 俺は夏休みに人魚を見た。そう楠宮に話をしていたのだ。


「いや、待て! 待て待て待て待て! お前、俺の話聞いて笑い飛ばしてたじゃないか」


「ん〜。あん時はノリで」


「ああ! 忌々しいっ!」


 俺は頭をぐしゃぐしゃと掻き、両肘をカウンターに付けた。


「まぁ落ち着けって……」


「落ち着けるか! 分かってたんなら早めに相談に乗ってくれよ。ったく、ジルが人魚だなんて--」


「はっ?」


「ん?」


「人魚? ジルちゃんが?」


 こいつは何を言っているんだ。ふざけているのだろうか。


「ああ、さっきからその話を--」


「えぇぇええええぇえぇえ〜ーー〜〜ー!?!?」


「え!? ええっ?!」


 待て待て、落ち着け。こいつはジルが人魚だって気づいていた。さっきそう言ったんではなかっただろうか。あれ? あれれ?


「ジルちゃん……どーみても人間じゃねーか」


「いや、そうなんだけど……そうじゃないんだよ。なんて言えば分かってもらえるんだろうなぁ〜……」


 俺が頭を悩ませていると、あずみさんがカウンターの向こうで首を傾げながら口を開いた。


「は? ジルちゃんは人魚だろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ