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罪な人魚の都落ち  作者: 闍梨
第四章
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元気ヨーグルト

 十一月中旬。緑の木々が消え、街には赤や黄色や茶色に染まった葉が、秋風に踊らされている。

 受験生である俺は、ジルと二人で図書室にいた。


「結局、何が、何処までわかってるわけ~? 白旗~。アタシは白旗ぁぁ~」


 ジルは図書室の光沢のある机に肘を置き、頬杖をついて、角のなくなった消しゴムを立てたり、倒したりしながら手遊びをしていた。


「分かってる事、ねぇ。とりあえず学校で事件があった。ってことは間違いないよな」


 俺は英語の長文問題を解きながら、ジルに言った。消しゴムで遊ぶのは注意したかったが、今の所使う予定が無いのでそこには触れないでいた。


「ん~。疑問なのはどうして手紙を見つけるまで、何回も手順を踏ませたのかってのが引っかかってるのよねぇ。なんでなんだろ?」


「さあな。すぐ見つけられたくなかったんじゃねーの?」


 長文を読み終わり、問一に着手する。『アンディは何故カバの汗の事を言われて、泣いたのでしょう』なんて問題だ。


「ん~。もーいい! なんか喉乾いたからジュース買ってくる」


 そう言って、ジルは立ち上がる。椅子をガリガリと引く音が非常に品がないように感じた。


「図書室に持ち込むなよー」


「分かってるわ……よっ!」


 ジルは図書室のドアの付近から、俺に向かって消しゴムを投げた。ドアから俺の席までまあまあ距離があったので、ジルは思いっきり消しゴムを投げたのだ。


「あでっ……!」


 神様がいるのなら聞いてくれ。どうして当たる? しかもおでこって!

 態勢を立て直してジルを睨みつけるとジルは口元を緩め、消しゴムを投げた方の手で、自分の口を隠し、後ろをむいてしゃがみこんだ。肩が小刻みに震えているのは、笑っているからだろう。


「笑い過ぎだ、ジル! 早く飲み物買いにいけって!」


「んふへ……。あああ、分か、って、ますっ。でも……ぷくくっ。『あでっ……!』って! 普通じゃな、なっ、ないでしょっ」


 俺の体温が急激に上昇するのが分かる。自分でも思うが、『あでっ……!』は恥ずかし過ぎる。俺は恥ずかしさを抑えられなくなり、ジルに消しゴムを投げながら大声で言った。


「いいから! さっさと行けよー!」


 俺の投げた消しゴムは、明後日の方向へと飛んでいった。俺たちが図書委員からキツくお叱りを受けたのは言うまでもない。


 ジルが飲み物を買いに行ってから俺は長文問題を二つ終わらせたが、まだ帰って来ない。ジルを心配している訳ではない。俺も喉が乾いたのだ。


「ふぅ……」


 俺は一息ついてペンを置き、静かに図書室を出た。図書委員に睨まれていたような気がしたが……気のせいだろう。


 自動販売機の設置されている食堂までは、図書室からそう遠くない。ジルの奴め、どこかで油売っているに違いない。

 自動販売機に到着し、俺は紙パックの『元気ヨーグルト』を購入した。紙パックの飲み物は忍者みたいで、昔から好きなのだ。背中にストローと言う名の刀を背負い、戦場を駆け抜ける。なんとロマンでは無いか。しかも、百円である。

 ストローを袋から取り出し、銀色のストロー口(ぐち)にストローを差し込んで、俺は甘くとろけるヨーグルトを堪能する。


「んまい」


 ヨーグルトを飲みながら、気分転換も兼ねて、ぐるっと一階を一周して図書室に戻ろうと思った。

 校長室の前に見覚えのある金髪がいる。中腰で耳を傾けたり覗いたりしている様で、こちらにちっとも気がついていない。俺は五メートル程距離をとってジルを観察していた。ようやく俺の存在に気づき、ジルが手招きをする。


「なんだ? 面白いモンでも見つけたのか?」


「しっ! 静かに! 気になる事言ってるの!」


 誰がだよ。何についての事か、まるで分からない。こいつは数学の次に国語を頑張らなきゃだな。


「また、そんな面白い事があるワケーー。……!?」


 校長室には、みゃーちゃんと校長先生が居た。俺は、変に期待しながら、二人の会話に耳を傾けた。


「ーーーー折角の長期研修じゃないの。あなたの様な優秀な教師は、田舎の教師で終わる器じゃ無いわ」


「お断りします」


「あなた、やっぱり……。責任を感じているの? あの出来事は、事故よ。あの子の遺書に書いてあったんだもの。『学校に責任は無い』と。あなたは! 十二年前の事をーーーー」


「大道寺きょ……いえ、校長。私は、私の意志でここにいます。地位とか、名誉とか、そんなものよく分かりません。ただ、私は……。この学校に、いなくちゃいけないんです」


「テコでも動かないのね。変わらないわねあなたは。ずっと真っ直ぐで、正直で、強い。そんなあなたに、彼女はーーーー」


「違います。私は当時……いえ、今も。強くなんか、ありません」


「どうして? あんなに皆に慕われていたでしょう?」


「校長先生。真実を告げます」


 つばを飲む音が室内に聞こえてしまいそうだった。ジルもきっとそうだろう。みゃーちゃんは大き過ぎない声で、しっかりと言った。


「私は、道玄坂あさみに、自殺を勧めました」

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