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罪な人魚の都落ち  作者: 闍梨
第一章
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彼女の正体と目的

どんな時でも平常心。それがポリシー。

いやはや、噂というものは恐ろしい。悪事千里を走るとはよく言ったもので、俺の奇行は瞬く間に学年中に留まらず教師まで行き届いた。確かに蛮行、奇行ではあったが伝わり方に問題があった。


「転校して来た外国人美女に対してパンツを見せてと要求した男」というある意味勇者と言えなくもない伝わり方をしてしまった。お陰で俺は学校中の女子から白い目で見られる存在となったのである。

しかし、男子の方からは「なかなかキレのある鋭いエロ君子が降臨した」と数々の賞賛をうけた。全くもって不名誉でしかないのだけれど。かくして俺、銛矢海(もりやかい)は学校中で注目される事となった。


ともあれ外国人転校生、ジル・トールボットが転校してきて早くも一週間が過ぎた。夏休み開けの気だるい空気から一転、学校ではまた通常の授業が始まりピリピリとした受験生特有の張り詰めた雰囲気を醸し出す生徒が増えてきた。そんな時事件は起こった。


廊下の反対側から歩いてくる金髪女生徒が俺の存在に気づき、表情を歪ませているのが遠目にもわかる程だ。しかし、彼女はすれ違いざまに俺を一瞥し、呟いた。


「アンタちょっと来て」


唐突に俺は転校生に呼ばれ、というかこの女呟いたかと思うと俺のネクタイをぐいっと掴みそのまま歩みを進めた。俺は180度転換する形になりバランスを崩しながら今にも倒れそうな足取りで彼女に連れていかれた。


「ちょ、ちょっと! 何か用がっ……!」


ネクタイがそろそろ限界まで俺の首を締めていた。明日の新聞の一面トップは俺の記事になるかも、などと呑気なことを考えていると転校生はあまり生徒が使わない西階段の踊り場で歩みを止めた。もう三時限目が始まっていたが彼女は俺の事情を無視して話し始めた。


「どうして……どうしてわかったのよ。私の秘密」


「はぁ? 何の話だ。俺はお前の、転校生の来た日に問題発言してしまって学校中の人気者になってしまっただけの一生徒だぜ。別に秘密なんか握ってはいない」


彼女は鬼の生まれ変わりの様な表情を浮かべ俺に詰め寄った。かすかに香る女の子独特のシャンプーの香りを優雅に楽しんでいる暇は俺には無かった。


「フンっ! どうだか。分かってるだろうし、教えてあげる。アンタが考えるとおり、アタシは人間ではないわ。……人魚よ」


ーー人魚だったわーーと付け加えた。いやいや落ち着いて考えろ銛矢海。人魚が人間になって俺の前に現れる? なんてファンタジーラブコメ展開だよ。勉強のしすぎで頭がおかしくなってしまったのだろうか。いや、この場合はおかしいのは転校生の方かもしれない。

「もしもーし。大丈夫かぁ転校生ー。いい病院紹介してやるから待ってろ」


俺はそう言ってスマホを取り出して電話をかける仕草をした。すると転校生は慌てた様子で俺を制した。


「ちょっ……待っちなさいよ! アンタ。アタシの言った事が信じられないって言うのね! まぁ、信じらんないかもしんないでしょーけどそうなのよ! しかも転校生って言うな。アタシの名前はジル・トールボットよ」


「で、なんだって? 人魚だったらどうだっていうんだ?」


俺は信じられないと思う気持ちと高ぶる気持ちを無理矢理押し殺し平常心を保とうとして敢えて素っ気なく応えた。するとジルはひとつ大きな溜息を吐いて話し始めた。


「アタシはね……向こうに居た時、そう海に居た時ね。ある出来事で罪を問われたの。その罪滅ぼしに人間に落とされた……。人魚界を半追放されたの。その人魚界を追放される時ひとつの救済措置として、上界、つまり陸の上ね。そこで人間に対する知識を付け、人魚界の学者たりうる人材になっていれば私は人魚として海に帰る事ができるの。

でもね、私が元人魚だったって事を知る人間は一人までって決まってるのね。上の人魚達は世界のバランス保持ためって言ってるけど、どこまでが本当なのかは分からないの。

そ、こ、で、アンタよ! 人間! アンタ以外の人間にアタシはもう協力は求められないの分かるかしら? 不本意ではあるけどアンタはアタシの存在を知る人間としてアタシを海に帰せる様に知識をつける係に選ばれたのよ。話はお終い。これから半年ヨロシクね。銛矢海くん」


一通りの事情は理解出来……るわけがなかった。俺は混乱してしまい何がどうなってこうなったのか、自分の名前すら忘れてしまいそうなショックを与えられた。


「待て待て待て待て! もしそれが本当だとして、俺がその知識をつける係? に選ばれたのは一応理解したことにしよう。だが俺は一体何をしたらいい? お前を海に帰す程ウィットに富んでいる訳でもないいち受験生を捕まえて人間の何を研究するんだ。正直そんな暇ないし、自信も、力もない。俺はそんな責任を負えない」


そうだ。俺は正しい事を言った。ここまで言えば諦めてくれるだろうと思い、少し期待してジルの顔を見たが彼女は腹をくくっていたようで俺の話なんて聞いていなかった。


大変な事になってしまった……。学校では俺はある意味有名人になってしまったし、その原因とも言える人魚、ジル・トールボットに海に帰る手伝いを依頼されるし。これをどの様に表現すべきか……。盆と正月が一緒に来たようとでも言うべきなのか? いや、不適切だ。

なんにせよ「これから半年ヨロシクね」らしいのだが、学校で変な事に巻き込まれるくらいなら勉強に支障はない事はないが、ギリギリオーケーだろうと思い仕方無く承諾した事を俺はこの日の夕方には後悔することになる。

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