束の間の休息
試験終了ー! と言いたいが一日目が終了ということだ。ジルは真っ白に燃え尽きていた。もう動く事すらできない様子だ。
ホームルーム中も変わらず燃え尽き続けていた。こりゃあ本気でダメだったみたいだな。帰りに何か奢ってやるか。
「かーいっ! 試験一日目無事終了したし、あずみさんとこでも行こうぜ」
「楠宮、あいつも誘っていいか?」
「んお? うぁぁ。ジルちゃん⁉ 真っ白じゃねぇか。三時間目ダメだったんだな。しゃーない。テストはまだ始まったばかりだしな。じゃあ、京子ちゃんも呼ぼうぜ」
「そうだな。四人で行くか」
俺たちは学校を出て喫茶となりやへ向かった。校長先生と話をするための日取りを決めなくてはならなかったし丁度良い。いい骨休めになりそうだ。
「おー。いらっしゃったな四人組よ。奥のボックス席座んな」
「あざすあざーっす。いやぁ、いつも綺麗だなぁ、あずみさんは」
楠宮はいつものようにわざとらしいまでのお世辞を言っていた。僕たちは四人で使うには少しばかり狭いテーブルに向かい合い座った。僕の左横には楠宮、正面に現見、左斜め前にジルが座っている。
俺と楠宮はコーヒーを頼み、現見はカフェモカ、ジルはメロンクリームソーダを頼んだ。飲み物が来るまで楠宮を中心によしなし事を話していた。本当にくだらない話なので敢えて取り上げないのだけれど。
注文の品がそれぞれの前に並び、楠宮が言った。
「じゃーあ、とりあえずジルちゃん数学お疲れ様会という事で。乾杯ー!」
俺たちはカップ、グラスを軽く掲げただけのポーズをとった。
「いやぁ。しかしジルちゃんの感じ見てると本当にお疲れ様な感じだよねー。正直どの問題が出来たの?」
「問一……」
お? 答えるのか。ノーコメントの黙秘権を行使するかと思っていたのだが。
「問一から全く分からなかったわ……」
俺はコーヒーを吹きそうになった。こいつ試験期間に数学ばっかりやっていたのに。数学を必死に教えていた現見はさぞがっかりしただろう。
「あちゃー。大変だなー。まぁ赤点になっても補習テストがあるからそこを乗り越えれば大丈夫でしょ」
「え? まだチャンスがあるの? なんだー。燃え尽きて損したじゃない。これが世にいう『勿体無い』ってやつね」
よく意味が解らない論理だなと思ったが俺は半畳を入れる事なくコーヒーの香りを楽しんでいた。そしてジルの言葉に対し、現見が手にしていたカップをそっと置きながら言った。
「うん。そうなんだよー。だからジルちゃん、まだまだ諦めたら駄目だよ。しかもまだ他の科目が残っているからーー」
「他の科目はぬかりないわ。教養の範囲内で対処出来る問題しかないし」
大した自信だ。この元人魚め。
ええい、忌々しい。
「ははは! 留学生は言う事が違うなぁ。俺もジルちゃんみたいに言ってみたいもんだな」
「言うだけはタダよ。楠宮君」
「こりゃまた厳しいなー」
「そうかしら? あなたみたいなチャラチャラしてる人なら口八丁、舌先三寸である事ない事いいそうだけれど」
「馬鹿にしてもらっちゃあ困るなジルちゃん。俺は事実、真実しか話さないんだぜ」
「へえ、そういう類の吹聴は嫌いではないわね。さぁもっと嘘八百を並べてくださいな。全て切り払ってやるわ」
誰なんだよ、お前は。俺は鞄の中から筆箱と世界史のプリントを取り出し楠宮の前に置いた。
「戯言はここまでにして、ほらプリント。写したい所あるんだろ? ちゃっちゃとしろよ」
「おお! 流石は親友! ついでにルーズリーフおくれ」
「…………」
俺は無言でルーズリーフを渡す。こいつはプリントを写す気なかったのか?
呆れついでに長く溜息を一つついて俺は現見の方に視線を移した。
「なぁ、現見。校長先生の件なんだけど、本人にアポ取らなくても話できるのか? 結構不安なんだが」
「おばあちゃんは結構難しい人だけど、人を無下に扱うような人ではないよ。しかも生徒自ら話をしにきてくれるんだからきっと喜ぶよ。なんなら私が同席しようか?」
「いや、大丈夫。一人で行くよ。ありがとう現見」
そうか、じゃあ試験が全て終わったら行ってみよう。と考えていると楠宮が「何? 何?」と興味を示しているのが横目に分かった。俺は敢えてそんな楠宮を無視して残りのコーヒーを飲んだ。