時を越えた告白
精神的に向上心のないものは馬鹿だ。
「開けるわよ……」
家に帰って部屋着に着替えた俺たちはリビングで便箋の封を切るところだった。
ジルは家では上下灰色のスウェットに着替えるのだが、これは元々俺のものだ。俺はというと、下はナイキのジャージに上は古びて着なくなった赤い(といっても色落ちしていて、素直な色をしていないのだが)Tシャツを着ている。
ごくり
と、俺は生唾を飲む。その音は家中に響き渡る程大きな音になったろうと感じた。
開けると言っても三つ折りになっている便箋に薄くテープが貼られていただけなので、テープを剥がし、三つ折りにされた便箋をひらく。便箋にはこう、書いてあった。
『この手紙が偶然でなく、しっかりとした手順を踏んで誰かの目に触れているのであるとしたら、ここに断言しておこう。これが、最後のメッセージである。
だが、これが見つかる時に私はもうこの学校の生徒ではないと思う。
率直に言おう。私はこの学校で、罪を犯した。こんな事で私の気が晴れる訳でも、罪が赦されるわけでもない。
しかし、この場を借りて告白しよう。
私は、人を殺してしまった。私が、殺してしまった様なものだ。
彼女は、体育館で首を吊っていた。
私は、いつまでも消える事のない十字架を背負い惨めに生にしがみつきながら生きていくのだろう。
以上が弱くて弱くて弱くて、弱い私の告白だ』
「な……んだよ。これ」
「人が死んだ……の? あの学校で」
重く、とても重くのしかかる空気。俺たちは、潰されそうだった。
胸の奥から、黒く溢れ出る気持ちはすでに俺を飲み込み、深く深い闇に沈めていた。
「こんなものを見つけてしまうなんて、とても……」
「運がいいわね。調べましょうよ」
あくまで暗く、重くではあるがジルはそう言った。俺は嘆息してジルに反駁した。
「あのな、ジル。お前は分かっていないよ。事の重大さがな。人が死んでいるんだぜ。一高校生、一受験生が首を突っ込むべき事じゃない」
「分かっていないのはアンタよ。人が死んでいるのよ。さらにこの手紙によると、この人は赦しを乞うているのよ。その人の為に、また殺された人に対しアタシ達ができる、せめてもの手向けを、アタシ達がしようっていってるのよ。何でわからないの?」
「いやいや、どうしてそこまで拘るんだ。確かにお前は人間を深く知る為? だっけか、色んな謎に首を突っ込みたいんだろうけどなぁ。俺は違うんだ。受験生として、普通の、平凡な高校生でいたいんだよ」
「こだわりがあるのは良い事よ。社会に出てもイエスマンでは係長止りよ」
「俺は社長を目指してる訳ではない」
「そうね。そこまで言うなら仕方がないわね。アタシは調べるって決めたから、無理矢理にでもアンタに手伝わせるわ。よろしく」
「……!」
言葉が出なかった。
こいつの自己中心性にもほとほと困ったものだ。なんて忌々しいんだ。
俺は、手紙を手に取り眺める。
人一人が命を絶った。そんな出来事がこの高校で起こっていたなんて知りたくはなかった。この金髪人魚の好奇心をきっかけにこの様な事実を知るなんて。
俺は正直怖かった。恐い。怯えていた。怯んでいた。
真実を知るなんて、俺には到底出来ないんだ。どんなに飾っても、オブラートに包んでも、真実はいつだって、無意味で、残酷なものだから。