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罪な人魚の都落ち  作者: 闍梨
第二章
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出し物を決めよう!

焦らない焦らない。一休み、一休み。

現見京子(うつつみきょうこ)は我が三年一組のクラス委員長。前髪が眉毛を隠さない様にしっかり切ってある。おかげで彼女のキュートなおでこは一組でも注目の的となっている。

身長は高くなく低くなく、言ってしまえば俺とちょうどいい関係を築けそうなBestな身長であり、そして痩せている。

痩せているとは言ったが、貧相なのではない。出る所が出ていてしっかり女の子なのだ。非常に魅力的なスタイルである。

さらに成績は学年トップ。他の追随を許さない程頭が良い。なのに気取ってなく人当たりがとてもいい、面倒見がいいやつなのだ。

まさに委員長の鏡である。三年生の男子の中では「天使様」と彼女を崇めている集団もいると聞く。


そんな「天使様」と話をしている俺は今生きていて良かったと実感している。


「ーーねぇ、聞いてる? 銛矢くん?」


「ん? ああ! 悪い悪い。で、何だっけ?」


「もう、全く聞いてないじゃない。駄目だよ、人の話はちゃんと聞いておかないと。藤峰祭の出し物何にするかって話だよ」


そうだ。そうなのだ。十月中旬の中間試験が終わった次の週、俺たちの学校は藤峰祭と呼ばれる文化祭をやるのだ。

しかし、三年生にもなって文化祭に必死な奴は殆どいない。文化祭が一番盛り上がるのは二年生と相場は決まっているだろうに。

俺の横にいるこの男のせいで足止めを食っているのだが、もうお分かりだろう。楠宮である。


「そーだぜ海。しっかり考えろよ。最後の文化祭だぜ。しっかり楽しまなきゃ損しちまうってもんさ!」


「五月蝿い、楠宮。お前のせいでジルと俺はこんな事に付き合わされてるんだ。大学を決めてしまったお前は時間があっていいだろうが、俺は勉強をしたいんだよ」


「だから副委員長の俺だけでなく、成績優秀の現見ちゃんがいるんだろ? 話しながらでも分からない所が聞けるんだぜ。赤ペン先生がいつも近くにいるみたいな」


はぁ、よく喋るな。こいつは。

忌々しいよ、ったく。


「そんな、私は……」


現見は俺たちの会話を聞き、オロオロしながら戸惑っていた。流石は天使様。


「でも、トールボットさんと話す機会もできて嬉しいよ。藤峰祭頑張ろうね」


「ジルでいいわよ。私も京子ちゃんって呼ぶわ」


「えへへー。じゃあジルちゃんて呼ばせてもらうね」


現見の会話は和むなー。と思いながら窓の外を見る。グランドでは野球部の掛け声が響いていた。


「所で、文化祭ってどんな事をするの? アタシ正直何をしていいのか分からないんだけど」


「簡単さっ! ジルちゃん。俺たちは俺たちのやりたい事を『だしもの』としてやるのさ。我ら三年一組に相応しい『だしもの』を今ここで決めるというわけさ」


「ほー! 中々面白いわね。興味深いわ。例えば、だけど例年どんな事をしたりするの」


「定番はやっぱり『お化け屋敷』とかかなぁ。毎年何処かのクラスがやるんだよー。結構怖いんだよー。私去年は入り口から少し歩いた後、引き返しちゃったもん」


ああ、何という女の子らしさだろう。とっても可愛いじゃないか! 流石は天使様。


「まぁ定番でゆーと『模擬店』とかで食べ物売ったりとかになるよな! 去年なんか海の奴ーー」


「待て! その話はっ……!」


全員の視線が痛い……。ジルはまだいいにしても現見の前では、苦し過ぎる。いや、もう二学期始めにトンデモナイ醜態を晒してはいるけどさ……。


「なんかあったの?」


ジルは目を輝かせて楠宮に訊いた。


「ああ、去年の文化祭当日の話だ。俺たちは焼き鳥屋をしたんだけど、発注係がミスしちゃってね。千本くらい来ちゃったんだよ。俺たちは頑張って売ったけど、どうやっても二日では捌けなかったのさ。そこで発注係に責任を取らせようという事になって文化祭の後夜祭の時間まで俺たちのクラスは焼き鳥を発注係に食べさせたのさ。二十九本食べた所で発注係の奴は口に焼き鳥を大量に含んで言ったんだ。『勘弁して下さい』ってね。そしてその直後、発注係が急にむせちゃってね。顔を上げたそいつのはなから大量の焼き鳥が登場したのさ! あれは忘れらんないよ!」


全部話しやがった。その時俺はみゃーちゃんに自腹切らせたんだっけな……懐かしい。


「バッカねー! 本当! 発注ミスなんかありえないわ。あっはははー」


「でも許してもらえたんでしょう? 良かったじゃない銛矢くん」


「ああ、でも苦い思い出だよ。あんなことは人生に一回あれば十分さ」


クラス中に罵られ蹂躙される。それを爆笑して見ていたんだろうな楠宮は。


「じゃあ今年も『模擬店』にしますか! なっ? 海」


「発注は絶対にやらないがな」


満場一致で模擬店をする事に決まり、続けて楠宮は司会を続けた。意外と名司会だな。と俺は少し、ほんの少しだけ感心した。

現見は決まった事をノートに書き留めている。速記、というのはこういう事かと素直に感心した。流石は天使様。


「よし決まりだな! 何を売るかなんだけど、どうする? みんな売りたい物とかある?」


「うーん。ポンデリング!」


「ミスドへ行け! 却下!」


ジルのボケに反応してしまった。コテコテ過ぎて笑えもしなかった。こいつは天然で言っているから怖い。この後、現見、楠宮、ジルとボケが続く事になる。


「えっとー、お母さんの作った玉子焼きー」


「お母さん疲れちゃうだろ! 俺たちが作るんだよ。却下!」


「俺は寿司がいいな」


「修行に時間かかるだろ! 却下!」


「ゴールデンチョコレート!」


「だからお前はミスドへ行け! 却下!」


「えー、えー、広島風お好み焼き!」


「ご当地っ! 却下!」


「あっ! 広島風お好み焼き!」


「二回目⁈ 却下!」


「えー? えーと、フランクフルト」


「普通じゃねーかー! あっ……」


いいのか、普通で。ついつい熱が入ってしまった。楠宮と現見は笑っていた。ジルは何故二人が笑っているのか分からない様だったが説明する様な事はしない。


こうして俺たち三年生最後の文化祭はフランクフルトを出す事に決まった。


たまにはこういうのんびりとした雰囲気も悪くないか。と、窓の外を見ながらそう思った。九月独特の秋の風の中、野球部の声は遠く聞こえていた。

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