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罪な人魚の都落ち  作者: 闍梨
第二章
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これは過程

皆に問うて見る也

死の国に或る者か

また私の心の広い

行くべき時を惜しむ吹

きすさぶ風の元我の苦

を。



俺はメモをもう一度手に取り穴が空くほどよく見てみる。ジルは喜怒哀楽、どの表情にも当てはまらない顔をしていた。


「それで、あずみさん……。一体何の事なんですか。これは……」


「いやいや、これ単体で何の事か解りはしねーけどよ。まぁ、このメモが示している事は私は読み取ったさ」


流石、人外。やること考える事が外れている。拍手喝采である。いや、してないけど。


「それで、どの様な事を示していたと?」


ジルが身を乗り出してあずみさんに聞いている。その目は確認出来なかったがさぞ輝いていたのであろうことは易く想像できた。


「んー? いきなり答えを求めるな。最近のガキは自分で考えることをしねーなぁ。剣呑だぜ」


あずみさんはグラスの中の小さくなった丸氷を頭上に放って上を向き口にはいる瞬間に歯を噛み締めた。ごりごりと氷を砕きながらあずみさんは続けた。


「しゃーない。こんなもんはアハ体験みたいなもんだ。気づく奴は直ぐに気づく。気づかない奴は一生気がつかないさ。ほれ、ちゃんとメモを読んでみな」


もう確認も何度めになろうかメモを持ち、眉間にシワを寄せて考える。するとあずみさんが


「だから頭固ぇって!」


と言ってメモをすいっと奪い九十度反転させて机に叩きつけた。

ーーーーああっ!


「もう、言わなくても分かったよな?」


ジルはまだしかめっ面、仏頂面でメモを睨んでいた。


「頭文字ですか」


俺は力無く言った。するとジルもようやく分かったようで飛び上がるように手を打ちながら言った。


「三島由紀夫!」


「やっと分かったのか、トールボットちゃん。しかし、まだ五十点てとこだな。こういう意味不明な文章は尻尾にも注目してやらんとな」


「しっ……ぽ?」


そう言ってジルはメモを引き寄せ下の文字を組み合わせた。


(なり)、か、い、吹、苦……」


「おいおい頼むぜ。それは『なり』じゃなくて『や』だろ? となると」


「夜会服……ですか」


「お! 海知ってたか。流石は受験生! かしこいじゃないか」


「いえ、たまたまですよ。三島由紀夫の名前と著作はいくつか知ってますけど読んだことは無いですし」


「そうかそうか。海にはまだ早いかもな。ともあれ、このメモ何の意味があるんだよ。単なる謎解き遊びじゃなさそーじゃねーか」


「まぁ、そうですね。でも言ってしまえば本当にゲームみたいなものなんですよ。こいつがたまたま図書室で変なメモを見つけて来たもんで、一緒に考えてやってただけなんですよ。ゲームに熱中した子供がただクリアしあぐねていた所に天才ゲーマーが現れてくれたようなものですよ。スッキリ……とまではしてないですが、俺たちにはまた新しいボスを倒さないといけない状況になってしまったんですよ」


俺のたとえがしっかり伝わったかどうかはわからないが、ジルにもあずみさんにも分かっていた様だ。


ーーまだ、なにかあるーー


藤峰高校の図書室にある三島由紀夫の「夜会服」にそれはあるのだろう。それは単なる時を越えた、世代を跨いだ悪戯なのか……。


それを俺は今にして思う。

知るべきでは、無かったのだ。

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