プロローグ
俺は今年の夏休みに人魚を見た。友人にそれを言ったが誰も信じてはくれなかった。
人魚、それはイルカが人に見えたとか、人面魚だとか、サメに食べられている最中の人間だとかとは全く違う。背中まであるボリューミィな金髪。一矢纏わぬ艶やかな白肌。小ぶりな胸。女性的な曲線美を有しながら腰から下は魚のそれであった。
いきなり何を言っているのか。こいつは頭がおかしいと思われても一向に構わない。実は俺自身、おかしなモノを見てしまった。頭が可笑しくなっているのかもしれない。だが俺は俺が見たものを信じる主義だ。幽霊を見た人間は世の中に多くいると思うが、人間の心理状態から起こる見間違いというのが大体の意見だ。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」とはよくいったものだ。
この話は俺が体験した、半年間に及ぶ人魚との生活譚であり格闘譚であり、そうただの思い出譚である。初めに断っておくがこの体験で自分の得るものは無かった。ハッピーエンドでもバットエンドでもない……。自分の人生のタイムテーブルに人魚が半年加わったというだけの話だ。
さて、いつまでもプロローグを語っているわけにもいかないのでそろそろ語り始めようではないか。俺と人魚の物語を。