ザ・テレホンダイヤラー
携帯電話の基本使用料、通話料金を無料化する。
そんな通信技術上の大発明をもたらした老個人自称天才発明家がいた。
その技術革新とは、自分の携帯電話にとある細工をほどこして基本使用料も通話料も払わないですむようにしてしまう、というひどく貧弱で非合法きわまりないやり口だった。
彼が当然この「大発見」、「大発明」を実際に使ってみたい、世に広めたいという、と切望するのはひとえに彼には電話をかける人もかけてくる人もいないからだ。
長年にわたる孤独な携帯電話研究に埋もれた歳月が、彼のもとから友人や知人といったものを旧世界の化石へと追いやってしまったのだ。
いないのなら作ればいい。
単純にそう考えた彼は、目についた電話番号――女の水着姿がいっぱい載っている――に電話してみると女友達――しかも若い――がいっぱいできた。
が、こちらからなら何度かけても愛嬌のいい声で電話に応じてくれるのに、向こうからはかかってくることはない。
3コールしたあとにすぐにこちらからかけなおすとあれほど言い聞かせてもいっこうに電話がかかってこない。
あざとい女の黄色い声などには興味がなくなった彼の次の関心事は、電話に出る人ではなく電話をかけてくれる人だった。
しかし、齢60を超える彼に電話をかけてくれる人を見つけるのは至難の業だった。
彼は迷惑メールをばらまくことにしてさっそく『件名:ミツオ』『私に電話をくれたら10万円さしあげます。電話番号は○○○○○』というメールをおよそ50万通送信した。
にもかかわらず彼にかかってきた電話は一通もなかった。
この一年電話をかけること数万回、むこうのほうからかかってきたことといえばこちらが定額制のモーニングコールというものを注文したところ、毎朝したったらずなアニメ声が『ミツオ君!朝だよ!起きる時間だよ!早く起きないとツンツンしちゃうから~』などとお決まりのセリフを2週間、そのサービスをキャンセルするまで受けていただけだった。
彼は悟った。
電話というものはこちらからかけても無料でも相手からかかる通話料にお金がかかってはむこうからかかってこない。
彼はさらに研究を重ね、相手からかかってきた通話料も無料にできる新発明をもりあわせた。
だが、何度挑戦しても結果は同じだった。
なぜだ、なぜ電話がかかってこない。
人間関係の基礎的なことから知らない彼はその教えを授かるため、この長い研究生活の間、参加したくても参加できなかったとあるラジオ番組に出場することを決意した。
『は~い、こちら全国こども電話相談室だよ~今日のトップバッターはミツオくんだったよね~ミツオく~ん、今日は何の相談があるの~?』
『あの、ミツオですけど、友達や知り合いに電話を何度かけてもかえってこないんですけど、あの、そういった場合、どうしたらいいんでしょうか?』
『どんなお友達にお電話かけてんの?』
『あの~ダイヤルQ2で知り合った友達とか~あと~出会い系サイトで知り合ったジョブっていうイタリア人のゲイの方がいたんですけど年齢教えたら連絡が途絶えて…』
『…あの~さっきから声の感じでおかしいと思ってたんですけど…ミツオ君年いくつかな?』
『12才です!!』
『……』
『そんなことより教えてください。どうすれば電話をくれる友達が作れるようになるんですか!?それがわかるようになるには電話で相談するしかないんですよ!!』