僕とお姉ちゃん
僕には好きな子がいた。
明るく元気でいつも僕を励ましてくれる優しい子だ。
そんなあの子が先月事故で亡くなった。
小学校最後の運動会を控えていて、僕自身楽しみにしていた時だった。
小学生の僕でさえ感じ取ったのは、この世界は地獄だということだ。
車の音を聞くたびにあの子がいないということを思い出させる。
一緒のところに行きたい、また会いたい。
そう願うことも度々あった。
あの子のいない世界は退屈極まりなく、色を失っていた。
お姉ちゃんと出会うまでは。
「か〜ずきくん、ヤッホー。そんなに辛気臭い顔して元気かい?」
「お姉ちゃん、おはよう。僕はそこそこ元気かな」
お姉ちゃんの名前を聞いてはいないけど、苗字だけは分かる。
橋蔵だ。
珍しいから覚えたとかではなく、あの子のお姉ちゃんだったから覚えただけ。
「お姉ちゃん、今日って高校じゃなかったの?」
「大丈夫大丈夫、先生には伝えてきてるから」
お姉ちゃんは時折学校を休んで僕に会いに来る。
「どうしてお姉ちゃんは僕に構うの?」
「どうしてって……あの時のかずきくんの顔が忘れられないから……かもね」
あの時といえば、七海ちゃんのお葬式かな。
「だとしても学校休んだら卒業出来ないって聞いたけど本気で大丈夫なの?」
「それぐらい任せてよ。私これでも優等生なんだよ。成績でカバーしてるから大丈夫なの」
不良みたいな見た目してるけど本当なのかなと出会ったばかりなら考えただろう。
でも今は違う。
「お姉ちゃんだもんね、心配してごめん」
「良いって良いって……こっちの方こそごめんねかずきくん」
謝る理由は想像がつくけど、あれはどうしようも出来なかったことだ。
「謝らないでお姉ちゃん、あの事故はどうしようも出来なかったでしょ」
事故のきっかけは七海ちゃんが、子猫を助けるために道路に飛び出たこと。
『私は獣医さんになるのが夢なの! だからねかずちゃんと一緒に暮らしながらねみ〜んなが幸せになれるようにするんだ』
そう言っていた七海ちゃんを止められるわけがない。
目の前で弱った子猫を見殺しにするなんて出来ない子だから。
……僕だって、本当は七海ちゃんと一緒に。
「かずきくん、今何考えた。……一緒に死のうとか考えてないよね!」
「やっぱりお姉ちゃんには分かるんだね」
お姉ちゃんから言われて目が泳いでしまった。
「……たり前でしょ!! かずきくんだって知ってるでしょ、一緒にとか後を追うとか絶対に許さないから」
「ごめんなさい」
あの時のことは今でも覚えている。
────
「ただいま〜、今日はかずきくん連れてきたよ」
「お邪魔します」
「お母さん、お父さん……出掛けてるのかな? でも鍵が開いてたからいると思うんだけど。かずきくん、ちょっと待っててくれる?」
僕はお姉ちゃんに言われた通りに玄関で座って待っていた。
その時お姉ちゃんの叫び声が聞こえてきた。
言いつけを破って僕はお姉ちゃんのところに走った。
なかなか開かない扉を力一杯こじ開けた。
「お姉ちゃん!?」
そこにはてるてる坊主みたいになっている七海ちゃんのお母さんがいた。
そしてその下には呼吸を荒くして倒れているお姉ちゃんがいた。
「…………何これ」
すぐには飲み込むことが出来ずただただ眺めていた。
だけどお姉ちゃんを見てたらまたいなくなるんじゃって怖くなった。
救急車を呼んだほうがいいのは分かっていた僕はポケットに手を入れた。
携帯を買ってもらってないことに手を入れてから気づいた。
「お姉ちゃんちょっと借りるね」
それでお姉ちゃんの携帯を借りようにもパスワードが分からなくて開けない。
「誰かに呼んでもらわないと……お姉ちゃんまでいなくなっちゃう」
視界が悪くなるのを袖で拭いながら出来ることをまとまらない頭で考えた。
そう考えても足はなかなか動かなくて、こけながらでも隣の家の人に頼み込んだ。
「お願いします、救急車を呼んでください。お姉ちゃんたちが……」
僕の焦りが伝わったこともあってすぐに呼んでくれた。
病院に着くなり、お母さんは手遅れだと言われてしまった。
七海ちゃんのお父さんがすれ違い様に『もう嫌だ』と何かに怯えたような顔で呟いていた。
その後、目元を赤くしたお姉ちゃんから聞かされた。
「お父さん、帰ってこないかも」
────
僕は上手く動けなかった。
もしもっと遅かったらお姉ちゃんまでいなくなってたかもしれない。
そう考えたら、やっぱり怖い。
口の中にいっぱいになった唾を飲み込んで僕はお願いしてしまった。
「お姉ちゃんはいなくならないで」
お姉ちゃんはハンカチで僕の顔を拭いながら謝ってきた。
「こっちこそごめん、かずきくん。思い出させて」
「お姉ちゃんは何も悪くないでしょ」
「たとえそうだとしても謝らせて」
もう大切な人を失いたくない。
七海ちゃんを守れなかった僕に出来ることはなんてお姉ちゃんを守ることしかない。
でも僕に出来るのかな。
『私を守るために強い子にもバーンと立ち向かったんだから、そんなヒーローみたいなかずちゃんになら大丈夫だよ』
こういうのを幻聴っていうのかな?
でも嬉しいよ七海ちゃん、ありがとう。
こんなにゆっくり話しているけど、本当は今日登校日なんだ。
休んでるんだけどね。
「これって七海がかずきくんの誕生日プレゼントにって買った野球のグローブだよね」
「うん、最初は使ってたけど壊れたら嫌だから飾ってるんだ」
僕の部屋には七海ちゃんとの思い出が詰まってる。
部屋から出たくない、そう思っていても……それが七海ちゃんの願いじゃないことは知ってる。
車の音を聞くとどうしても思い出してしまう。
「かずきくん、ちょっと散歩行かない?」
お姉ちゃんと一緒だったら、少しは七海ちゃんに顔を合わせられる僕になれる、そんな気がする。
おしまい
見つけて読んでいただきありがとうございます!!
昔感じたことを吐き出すために書いたみたいな感じですね




