第7話 曖昧なままの距離
帰り道。
ひとりで歩く夜は、久しぶりだった。
(……さっきの)
頭の中に残る光景。
なおきと、あの女性。
近い距離。
慣れたやり取り。
「知り合い」
その一言で、すべてを片付けた。
(……それだけ?)
足を止める。
街灯の下。
少しだけ、息を吐く。
(……違う気がする)
直感。
確信ではない。
けれど――
見過ごせない違和感。
スマホが震える。
画面を見る。
なおきから。
『さっきはごめん、ちょっとびっくりしましたよね』
その一文。
(……ちゃんと来るんだ)
何も言わずに終わる人ではない。
そこは、ちゃんとしている。
『昔の知り合いで、特に何もないです』
すぐに続くメッセージ。
(……特に何もない)
その言い方。
何かを隠しているのか。
本当に何もないのか。
分からない。
画面を見つめる。
返信を打つ。
『大丈夫です』
一度、止まる。
それだけでいいのか。
(……聞く?)
踏み込むか。
やめるか。
少しだけ、考える。
(……今は)
指が動く。
『気にしてないので』
送信。
すぐに既読がつく。
『ならよかったです』
それだけ。
会話は、そこで終わる。
(……終わるんだ)
もう少し何かあると思っていた。
けれど。
深くは来ない。
(……やっぱり)
ここが、この人の距離。
踏み込まない。
踏み込ませない。
それでも――
完全には切らない。
曖昧なまま、続ける。
(……ずるい)
そう思ってしまう。
家に着く。
静かな部屋。
明かりをつける。
一気に、現実に戻る。
(……私は)
どうしたいんだろう。
ベッドに座る。
スマホを置く。
何もない時間。
その中で。
なおきの存在だけが、浮かぶ。
(……嫌じゃない)
むしろ。
楽しい。
また会いたいとも思う。
けれど――
(……このままでいい?)
その問いに、答えが出ない。
翌日。
仕事中も、どこか集中できない。
書いている文章が、少しだけぶれる。
(……ダメだ)
一度、手を止める。
深く息を吐く。
(……仕事は仕事)
頭を切り替える。
それでも。
完全には消えない。
夕方。
スマホが震える。
なおきから。
『今日、少しだけ会えません?』
短い。
軽い。
いつも通りの誘い。
(……会う?)
昨日のことが、頭に残る。
けれど――
(……会いたい)
その気持ちも、確かにある。
画面を見つめる。
少しだけ、時間を置く。
(……どうする)
答えは、もう分かっている。
『少しだけなら』
送信。
すぐに返信が来る。
『ありがとうございます』
その一文。
やっぱり軽い。
けれど――
それでも、いいと思ってしまう。
(……私は)
この曖昧さを、受け入れている。
それが、分かる。
夜。
待ち合わせ場所へ向かう。
少しだけ、足取りが重い。
けれど。
止まらない。
(……会えば)
何か、分かるかもしれない。
そんな期待と。
何も変わらないかもしれないという、不安。
その両方を抱えながら。
あすかは、歩いていた。
春の夜。
近づいたはずのふたりは。
今。
曖昧な距離のまま、立っている。




