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あすかの幸せについて第二章 春の中で迷うふたり  作者: こうた


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第5話 近づいたあとに残るもの

次の日。

朝。

目が覚めた瞬間。

(……近い)

昨夜の距離が、頭に残っている。

マフラーの感触。

あの、公園の空気。

少しだけ近づいた体温。

「……」

布団の中で、目を閉じる。

(……どう思ってるんだろう)

なおきの言葉を思い出す。

「この時間が大事です」

まっすぐだった。

逃げていなかった。

けれど――

(……それだけ?)

その先が、見えない。

スマホを見る。

通知が一つ。

なおきから。

『昨日ありがとう。楽しかったです』

短い。

いつも通り。

軽い文章。

(……普通)

それが、少しだけ引っかかる。

『また時間合えば行きましょう』

その一文。

(……やっぱり)

特別じゃない。

誰にでも送れそうな言葉。

それでも。

(……嬉しい)

そう思ってしまう自分がいる。

「……ダメだな」

小さく呟く。

返信を打つ。

『こちらこそ、ありがとうございました』

少しだけ考えて。

『またお願いします』

送信。

画面を閉じる。

(……これでいい)

深く考えすぎない。

それが、今の自分のルール。

仕事中。

ふとした瞬間に、思い出す。

笑った顔。

近い距離。

あの沈黙。

(……楽しかった)

それは、間違いない。

けれど――

(……それだけじゃない)

引っかかるものがある。

言葉にできない違和感。

昼休み。

同僚の会話が耳に入る。

「最近どうなん?」

「いやー普通やな」

「彼女は?」

「うーん、まぁぼちぼち」

軽い会話。

どこにでもある会話。

けれど――

(……ぼちぼち)

その言葉が、妙に残る。

(……なおきさんも)

そんな感じなんだろうか。

誰かといて。

楽しくて。

でも、それ以上ではない。

(……分からない)

仕事に戻る。

けれど、頭の片隅に残り続ける。

夜。

また、あの店に来ていた。

無意識だった。

気づけば、足が向いていた。

カラン。

扉を開ける。

静かな空気。

いつもの席。

けれど――

なおきはいない。

(……いない)

当たり前のこと。

毎日来るわけじゃない。

分かっているのに。

少しだけ、空白を感じる。

「何にします?」

店員が聞く。

「……いつもので」

グラスが置かれる。

ひと口、飲む。

(……落ち着く)

この場所は、変わらない。

誰かがいても。

いなくても。

その安心感に、少しだけ救われる。

(……私は)

どうしたいんだろう。

なおきと。

これから。

「……」

答えは出ない。

ただ――

楽しい時間があった。

それは事実。

でも。

それだけで進んでいいのか。

少しだけ、不安が残る。

その時。

カラン。

扉の音。

思わず、顔を上げる。

(……まさか)

一瞬、期待する。

けれど――

違う人。

知らない客。

「……」

小さく息を吐く。

(……違う)

その感情に、自分で気づく。

(……期待してる)

まだ、はっきりした関係でもないのに。

それでも。

来るかもしれないと思っていた。

その事実が、少しだけ重い。

グラスを見つめる。

揺れる液体。

その向こうに、昨日の夜が重なる。

(……近づいたあとって)

こんな感じなんだ。

距離は縮まったのに。

心は、少しだけ不安定になる。

前よりも。

少しだけ、気になる存在になった。

だからこそ――

不確かな部分が、目につく。

(……どうなるんだろう)

未来は、まだ見えない。

けれど。

確実に、変わってきている。

それだけは、分かる。

静かな店の中で。

あすかは、ゆっくりとグラスを傾ける。

春の夜。

近づいた距離のあとに残るものは――

少しの温もりと。

少しの、不安だった。

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