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あすかの幸せについて第二章 春の中で迷うふたり  作者: こうた


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第4話  距離が近づく夜

距離が近づく夜

「次、どこ行きます?」

なおきが、軽く聞く。

あすかは、少しだけ考える。

(……次)

自然に出てくるその言葉に、少しだけ引っかかる。

「……もう少しだけ、歩きますか」

そう答えた。

「いいですね」

なおきは、すぐに頷く。

夜の街を、ふたりで歩く。

少し肌寒い空気。

けれど――

人の気配が、周りにある。

「こういう時間、嫌いじゃないです」

なおきが言う。

「……私もです」

短く答える。

隣を歩く距離。

少しだけ、近い。

昨日よりも。

「寒くないですか?」

なおきが聞く。

「……大丈夫です」

そう言いながら。

白いマフラーを、少しだけ握る。

(……少しだけ)

ほんの少し、寒い。

その時――

ふと、なおきの手が動く。

「……貸してください」

マフラーに、手を伸ばす。

あすかは、一瞬だけ迷う。

けれど――

「……はい」

静かに渡す。

なおきは、そのマフラーを自分の手に取り。

あすかの首に、そっと巻いた。

不意に近づく距離。

息が、少しだけ止まる。

「これで大丈夫ですね」

なおきが言う。

その距離のまま。

目が、少しだけ近い。

(……近い)

心臓が、少しだけ速くなる。

「……ありがとうございます」

それだけ、言うのがやっとだった。

なおきは、少しだけ笑う。

「似合ってますよ」

軽い言葉。

けれど――

その距離で言われると。

少しだけ、重く感じる。

「……そうですか」

視線を少し外す。

それでも。

なおきは離れない。

近いまま、隣にいる。

(……逃げない人)

そう思った。

ふたりは、少しだけ歩いた後。

小さな公園に入る。

夜のベンチ。

人は少ない。

「少し座りますか?」

「……はい」

並んで座る。

肩と肩が、ほんの少しだけ近い。

(……こんなに近いのに)

まだ、触れていない。

けれど――

触れそうな距離。

「こういうとこ、よく来るんですか?」

あすかが聞く。

「たまにです」

なおきは答える。

「一人で来ることが多いです」

その言葉に、少しだけ引っかかる。

「……一人で?」

「はい」

軽く頷く。

「落ち着くんで」

その言葉は、自然だった。

けれど――

どこか、寂しさが混ざっている気がした。

「……寂しくないんですか?」

思わず、聞いていた。

なおきは、一瞬だけ黙る。

夜の風が、少しだけ通り抜ける。

「寂しいですよ」

あっさりと答える。

その言葉が、意外だった。

「でも」

続ける。

「一人の時間がないと」

「誰かとちゃんと向き合えないんで」

その言葉に、あすかは少しだけ見つめる。

(……向き合う)

軽く見えていた人が。

実は、ちゃんと考えている。

「だから」

なおきは、少しだけあすかを見る。

「今は、この時間が大事です」

まっすぐ。

その目は、逃げていない。

一瞬、言葉が出なかった。

(……ずるい)

そう思う。

軽くて。

優しくて。

逃げる人かと思っていたのに。

こういう顔をされると――

揺れる。

「……そうですね」

ようやく、言葉を返す。

沈黙。

けれど、その沈黙は嫌じゃなかった。

むしろ――

落ち着いている。

なおきが、少しだけ体を寄せる。

ほんの少し。

触れるか触れないかの距離。

(……近い)

心臓が、もう一度だけ跳ねる。

けれど、あすかは動かない。

離れもしない。

そのまま、夜を過ごす。

言葉は少なく。

けれど――

距離だけが、確実に近づいていく。

帰り道。

「今日は楽しかったです」

なおきが言う。

「……私もです」

自然に答える。

少しだけ、間を置いて。

なおきが言う。

「また、こういう時間作りましょう」

その言葉に。

あすかは、少しだけ考える。

(……また)

「……はい」

答える。

それが、今の答えだった。

なおきは、満足そうに笑う。

そして――

「じゃあ、また」

軽く手を振る。

その背中を見送る。

白いマフラーを、少しだけ握る。

(……近い)

距離は、確かに縮まった。

けれど――

何かが、まだ足りない気がする。

春の夜。

ふたりの距離は近づき始めた。

けれど――

その先にあるものは、まだ見えていなかった。

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