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EP 39

朱色の灯火ともしびと、約束の甘味

季節は巡り、サバルテの王都にも初秋の涼やかな風が吹き始めた頃。

茶室『和光庵』の裏手に作られた小さな畑は、鮮やかな朱色に染まっていた。

「おお! 飛鳥殿、見ろ! 私が植えた場所の鬼灯が、こんなに見事に熟しているぞ!」

泥だらけの長靴を履いた女王レオナが、得意げに真っ赤な鬼灯ほおずきを掲げた。

そのふくらんだ袋の中には、はち切れんばかりに実った果実が透けて見えている。

「ふふーん、残念でした! 私のうねのほうが、実が大きくてツヤツヤだよ!」

隣では、ミーナが負けじと籠いっぱいの鬼灯を見せつけている。

かつて三人でくわを振り、汗を流して耕したあの土から、約束通り、見事な命が実を結んだのだ。

「えぇ、どちらも素晴らしい出来栄えです」

飛鳥は柔らかな日差しの中、二人の籠を受け取りながら目を細めた。

「お二人が愛情を込めて土を作り、水をやってくださったおかげですね。……さあ、最高の茶菓子に仕立てましょう」

茶室の台所。

飛鳥は収穫したばかりの食用鬼灯のガク(袋の部分)を丁寧に剥き、中からプチトマトのような、黄金色の丸い実を取り出した。

ふわりと、桃やパイナップルにも似た甘くフルーティーな香りが漂う。

「へぇ……ほおずきって、こんなにいい匂いがするんだね」

「まるで小さな太陽のようだな」

興味津々で見つめるレオナとミーナの前で、飛鳥の魔法のような手際が光る。

上品な甘さの「白餡しろあん」で、黄金色の実を丸ごとそっと包み込む。

さらにそれを、雪のように白く柔らかな「求肥(ぎゅうひ・薄いお餅)」で包み、形を整えれば――。

「完成です。『鬼灯大福』にございます」

再び、三人は定位置となった縁側に並んで座った。

目の前には、コロンと可愛らしい純白の大福。そして、秋の風に合わせて少し濃い目に淹れられた、温かい煎茶。

「では、頂こう……!」

レオナが両手で大福を持ち、そっとかぶりつく。

柔らかな餅と白餡を抜けた先、プチッと弾ける鬼灯の果実。

「――っ!!」

レオナの獅子の耳が、驚きでピーンと立った。

「な、なんだこれは……!」

口いっぱいに溢れ出す、目の覚めるようなジューシーな酸味。

しかし、それをすぐさま白餡の優しい甘さが包み込み、完璧な調和を生み出している。

濃厚な甘さの干し柿とも、透明な錦玉羹とも違う。これは「生命力」そのものを味わうような、鮮烈な美味しさだ。

「んんんーっ!! すっごく美味しい!」

隣で食べていたミーナが、頬を押さえて悶絶していた。

「甘酸っぱくて、爽やかで……噛むたびにいい香りがする! 飛鳥、これ最高だよ!」

「お茶にも……見事に合うな」

レオナは煎茶を啜り、ふぅと深い息を吐いた。

口の中に残る甘酸っぱさと、お茶の渋みが交わり、極上の余韻となって喉の奥へ消えていく。

「喜んで頂けて何よりです」

飛鳥も自身の大福を味わいながら、縁側から広がる畑の景色を見渡した。

「春に土を耕し、夏に水をやり、秋に実りを頂く。……あの時、お二人と一緒に泥だらけになって笑い合った時間が、この大福の最高の『隠し味』になっています」

「飛鳥殿……」

「飛鳥……」

自分たちの努力が、愛する人の手によってこんなにも美味しい形になった。

その事実が、大福の甘さ以上に、二人の心を幸福で満たしていく。

「……飛鳥殿。来年も、また一緒に畑をやろう」

「うん! 次はもっといっぱい植えようね!」

「えぇ。喜んで」

二つの大きな尻尾が、またしても縁側でパタパタと嬉しそうに音を立てる。

実りの秋。サバルテの平和と三人の絆は、この甘酸っぱい大福のように、より深く、確かなものへと熟していくのだった。

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