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EP 33

女王の報酬、あるいは秘密のデート

サバルテ獣人国、王宮。

三か国の首脳が集うヴァルハラでの歴史的な会談を終え、一行は無事に帰国していた。

国中が「停戦延長」と「平和条約」のニュースに沸き立つ中、レオナは謁見の間にて、殊勲者である飛鳥と二人きりで向き合っていた。

「……飛鳥殿」

玉座から降りたレオナは、いつになく真剣な眼差しで飛鳥を見つめた。

「此度は、本当に世話になった。あのヴァルハラという修羅場で、まさか茶一杯で世界を救うとはな……。貴殿の功績は計り知れぬ」

レオナは一歩近づいた。

「国として、いや私個人として、貴殿に報奨を贈りたいのだ。……金貨、領地、あるいは地位。何でも言って欲しい。サバルテ王家の名にかけて、必ず叶えよう」

しかし、飛鳥は困ったように微笑み、首を横に振った。

「報奨? ……そのような、滅相もございません。私はただ、あそこで茶を点てたに過ぎません」

「欲のない男だ。……だが、それが貴殿らしい」

レオナは苦笑したが、すぐに表情を引き締めた。

「そうであったな。しかし、飛鳥殿に感謝をしているのは確かだ。……形ある物が要らぬと言うなら、せめてこの感謝の『心』だけでも受け取って欲しい」

「心……ですか」

飛鳥は少し考え、そして穏やかに答えた。

「では……これからも、レオナ様とお茶をする機会を設けて頂ければ、それだけで十分です」

「なっ……」

レオナの頬が微かに朱に染まった。

国を救った報酬が、「自分との茶の時間」だけでいいと言うのか。

その無欲さと、自分への純粋な関心に、レオナの心臓が早鐘を打った。

「う、うむ! 楽しみだ! ……だ、だが……」

レオナはモジモジと指を組み合わせ、視線を泳がせた。

「わ、私は……茶以外にも、飛鳥殿と行きたいのだが……だ、駄目で有ろうか?」

「と、言いますと?」

飛鳥がキョトンとする。

その鈍感さに、レオナは焦れた。ヴァルハラでの光景が脳裏をよぎる。

ミーナが飛鳥の袖を掴み、甘え、守られていたあの姿。

あれが羨ましくて、羨ましくて仕方なかったのだ。

「わ、私も……女なのだ!」

レオナは意を決して、声を震わせた。

「そ、それを言わせるとは……! そ、その……ミーナばかりではなく……私も……その……」

王としての威厳が崩れ落ち、ただの恋する乙女が顔を出す。

「飛鳥殿に……甘え……たい……」

「……!」

消え入りそうな声。

顔を真っ赤にし、俯いてしまった女王。

飛鳥は目を丸くしたが、すぐにその言葉の真意を――彼なりに「信頼」として――受け取った。

「……分かりました」

飛鳥は優しく微笑み、手を差し伸べた。

「では、茶室を出て、共に街を歩きましょう。……共に歩き、見聞を広めましょう」

「あ、飛鳥殿……!」

それは、事実上の「デート」の承諾だった。

その瞬間。

ブォン! ブォン! ブォン!

レオナの背後で、強烈な風切り音が鳴り響いた。

彼女の太くしなやかな尻尾が、まるで大型犬のように左右に激しく振られているのだ。

「う、うむ! 約束だぞ! 絶対だぞ!」

言葉では威厳を保とうとしているが、尻尾は正直すぎた。

ブンブンと揺れるその尻尾は、隠しきれない歓喜を全身で表現していた。

飛鳥は、そんな愛らしい女王の姿に目を細めた。

「はい。……風が起きてしまいそうですね、レオナ様」

「なっ、う、うるさい! これは……武者震いだ!」

真っ赤になって言い訳をする女王と、それを優しく見守る水神。

サバルテの平和は、この二人の(主にレオナの)春によって、より盤石なものになりそうであった。

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