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短編小説

「俺が勇者一行に?嫌です」

作者: 東稔 雨紗霧
掲載日:2025/12/06

 事故で死んでからこの魔法のある世界に転生した俺は、最初は物語で読んだような転生チートで俺TUEEEをしてハーレムを作ってウハウハな生活を夢見ていたが、順当に元の世界と同じ様な凡庸な人間と成り果てた。

 中身は成人した記憶のある存在故に幼い頃は神童だなんだと持て囃されたが、成長するにつれて前世で特に秀でた所が合った訳では無い俺はあっと言う間に周りの子に追い付かれた。

 転生したからと言ってどんな魔法でも使える様な才能があったり膨大な魔力を持ってたり、この世界での親が元英雄や名立たる冒険者で英才教育を受けたりなんて事も無く、ごく普通の村のごく普通の平民の両親の元で生まれた俺が、元の世界でも凡夫だったのだからアニメや漫画の様に転生したからと言って特別な存在になれる訳が無いのだと受け入れられるまでは長い時間が掛かった。

 両親からすれば「俺はもっと凄い人間のはずなんだ」とか「周りの人間は見る目が無い、凡夫には天才の事など分からない」等と周囲を見下して喚く息子などさぞ扱いに困っただろう。

 そんな息子を見捨てず、根気良く「他の誰が何と言おうと貴方は私達の大切で特別な息子よ」「他と比べる必要なんて無い、お前はお前で大事な息子なんだから」と言葉を尽くし、大切に育ててくれていたのに、俺の臆病な自尊心と尊大な羞恥心で肥大化した承認欲求は日々成長し続け、そいつらを抑えきれなくなった俺は遂に村を飛び出した。


 「都会に行けば俺の価値を分かる人がいる」と何の根拠も無い自信と無鉄砲さで意気揚々と王都へと上京した俺はそこで自分の考えの甘さと視野の狭さを叩き付けられた。

 村なんかとは違い多くの人種と職業の集まる王都では俺よりも才能に溢れ、俺よりも優れていて、俺よりも価値がある人が何人もいた。

 だが、王都ではそんな人達は吐いて捨てる程には珍しくもなく消費され、活躍するにはもっとも能力の高く、運や人脈に恵まれた者でなければ名を上げる事など出来なかった。

 衝撃だった。

 ずっと縋っていた「俺は転生者なのだから」と言う自尊心は粉々に砕かれ、残っていたのはただ前世の記憶がある程度の何の才能も無い田舎育ちの男だと言う事実だけだった。

 冒険者ギルドの訓練場で粗方の武具の使い方をレクチャーしてもらったが、教官役のギルド職員から「君は戦いの才能が全く無いから冒険者には向いていないね」と面と向かって言われ、冒険者として名を上げようにも、魔法も剣も矢も槍も使えない男とパーティーを組もうなんて言う酔狂な人間はいない。

 みんな娯楽ではなく生活の為に冒険者の職に就いているのだ、子供でも分かる明らかな足手纏いを仲間にする余裕など無い。


 ここまで来て漸く俺は自分が特別な存在ではない事を受け入れた。

 ずっと頭の片隅から「お前が特別な人間になれる訳ないだろう」「転生した所で中身が何も変わっていないのに人からちやほやされる訳がない」「自分の才能の無さを人のせいにして努力から逃げて来たくせに」と囁いていた声に耳を塞ぎ、必死に「自分は特別なんだ」と言い聞かせて来たのを止めて周りから見た自分の本当の評価を自覚して、今まで目を逸らしていた事を直視すると不思議と、俺の中でずっと燻り続けていた劣等感が和らいだ。

 ずっと自分を縛り付けていた生き辛さの正体に気付いた俺はその瞬間、自虐の笑みを溢した。

 折角与えられた愛情や信頼に延々と文句を言って受け取るのを拒めばそりゃ生き辛くなる、そんな当たり前の事にもずっと気付けなかった。

 それを理解して周りに目を向けるとこれまでの自分が如何に視野が狭かったのかが良く分かった。

 そうして俺は、折角王都に来たのだからと村に戻る前に今の自分に何が向いているのかを知る為に生まれ変わった気持ちで色々と経験してみる事にした。

 始めは冒険者ギルドの酒場での給仕、次に酒場に納品に来ていた配達業者の下で荷運び、荷運び先の商人の下で仕入れと職を足掛かりに次の職へと転職を繰り返した結果、今ではわりと良い所の商家で会計として働いている。

 前世の記憶があって唯一良かった事と言えばこの世界よりも元の世界の方が学問の水準が高く、前世の四則演算の知識のお陰でここで雇って貰えた事位だろう。


 気が付けば村を出て五年が経過していた。

 そこで漸く、両親へ手紙を出す決心がついた。

 給料もそれなりに出ており、黙って村を出て来た俺を心配しているであろう両親に仕送りと村を出てからどう過ごしていたかとこれまでの俺の態度の謝罪、それと見捨てないでくれていた感謝を綴った手紙を送る。

 そうして、ドキドキと両親からの返事を待ちながら帳簿と向き合う日々を過ごしていたら魔王が現れたらしい。

 号外だと配られた新聞によると神殿に魔王が現れたと神託があり、その魔王を倒す為の勇者についての神託も授けられたのだとか。

 「もしかして俺が勇者だったり?」といつかの自尊心が首を擡げそうになるが、新聞によると既に勇者は見つかっており、近々王都の広場でお披露目される予定だそうで、その首は直ぐに刈り取られた。

 社長から誘われたのでどうせなら見に行こうと社員全員でミーハーな気持ちでお披露目当日、広場に設置された特設会場に向かう。

 金髪と碧眼で勇者と言う言葉から想像したがっしりとした体形ではなく、意外と細身な体躯をしている青年が勇者だと国王によって紹介され、勇者の姿を見た俺は自分が『ドラゴニック・クエスト』と言うゲームの世界に転生したのだと知った。

 前世でプレイした記憶から俺の様な登場人物は居なかったのを思い出し、やはり自分は特別な存在にはなれないのだと改めて突き付けられ自虐の笑みが零れる。

 勇者がゲームで見た通りの外見で存在している事に少しの感動を覚えていると笑顔で手を振り、広場を見渡している勇者と目があった。


 「キャア!勇者様がこっちを見ているわ!」


 周りの人の声に俺の周囲を見ているのであって目が合ったと勝手に感じてただけだったかと納得する。

 感覚としてはライブ会場でアイドルと目が合った様な気がするのと同じ感じだ。

 取り敢えず周りに合わせて勇者に手を振ると勇者がこちらを見つめながら広間の特設ステージを歩き出した。

 なんだと困惑しながら見ているとあっと言う間にステージを降りて民衆の中に突っ込んでくる。

 普通、こんな風に近付けば興奮した民衆にもみくちゃにされそうな物だが、民衆は統制されたファンクラブ並みの動きで勇者の前を開けて彼が進む道を作り出す。

 開けた空間のお陰で勇者とバッチリ目が合っている気がするが、取り敢えず「気のせいだよな」と自分に言い聞かせて周りの人に習って俺も横に避ける。

 だが、勇者は俺の前で歩みを止め、じっと俺の目を見つめてきた。

 ここまでくれば流石にさっき目が合ったと思ったのが本当に目が合っていたのだと分かる。

 無言で暫く俺を見つめていた勇者は唐突に笑顔になる。

 美形の嬉しそうな満面の笑みは破壊力が凄いな、と何処か他人事の様な感想が心に浮かぶ。

 勇者の笑顔を見た為か、俺の背後で何人かが倒れた音が聞こえたが俺は全然関わりの無い勇者に笑顔を向けられる理由に心当たりが無く、本当に困惑するしかなかった。

 勇者は満足そうに頷き、言った。


 「僕と仲間になってくれ!」


 ……辞めてくれ、どうして全てを諦めた今になって俺が特別かも知れないと思わせてくるんだ!!

 当に消えた筈の劣等感が苦く胸の内に湧き上がり、俺は口を開いた。


✻✻✻


 物心付いた時から自分は特別なのだと知っていた。

 剣を振れば一振りで木が倒れ、弓を射れば百発百中、一目見ればどんな魔法も覚えられたし、体術も槍術も少し齧ればあっと言う間に師範に勝てた。

 村のみんなに好かれたし、僕もみんなが好きだった。

 何不自由なく、過不足の無い満ち足りた世界はある日終わりを告げる。

 村を魔物の群れが襲ったのだ。

 僕も弓を放ち、剣を振り、槍で突き、魔法で戦ったけれども多勢に無勢で村の人達はどんどん魔物達に殺されてしまい、僕もあと少しで死んでしまう所で神殿から派遣された聖騎士達に助けられた。

 魔王と勇者についての神託が下り、それを受けて勇者の保護の為にこの村に来たのだと言う彼らは「もっと早く着けば君の村の人達を助けられたのに、遅くなってすまない」と誤ってきた。

 村のみんなが死んで悲しかったけれど、神託の話を聞いた僕は「ああ、だからか」と納得した。

 僕が自分の事を特別だとずっと思っていたのは、僕が勇者で選ばれた人間だからだったのだ。

 それを自覚して周囲の人間を俯瞰して見る様になると、僕はある事に気が付いた。

 どんな人でもみんな僕の事を好きになるし僕のやる事為す事をどんな事であろうと好意的に取るのだ。

 聖騎士の人達に連れられて王都の神殿に来てから関わる人達が増えて行き、誰も彼もが僕に好意の目を向ける。

 僕が勇者だからだと思ったけれども、まだ僕が勇者だと知らない王都の人達でも接する人みんなが僕に優しくしてくれる。

 誰からも嫌われる事なくみんなから好かれる人間は居ないと幼い頃に死んだおばあちゃんは言っていた。

 実際に村の人には仲が悪い人達も居たから、この村は小さな集落でみんな子供の頃からの顔見知りだから僕の事を好いてくれているのだと思っていた。

 でも、王都に来てから違うと分かった。

 どんな事をしても、()()()()()()()()()()()()()()()()

 意味も無く物を壊したり、無理難題を言ってみても笑顔で受け入れられ、何の罪も無い動物を殺しても好意的に受け取られた。

 街に出て屋台を壊しても金品を強請ってもみんな笑顔で許してくれるし譲ってくれる。

 何をしてもどうやっても覆らない。

 きっと人を殺しても許されるだろう。

 僕が特別だから。

 僕は周囲の人間が恐ろしくなった。

 でも、僕がどう思っても時は進み、勇者お披露目の日がやってくる。

 広場に特設された会場で集まった民衆の為に手を振って視線を配るとみんながみんなキラキラとした目で僕を見つめている。

 誰も彼もが揃いも揃って同じ顔をしているのはまるで、大量の人形に見つめられているみたいに不気味で吐き気がした。

 救いを求めて無意識に視線を動かしたその先に、みんなが同じ表情をしている中で一人だけ違う顔をしている男が居た。


 何か驚いた様なポカンとした顔はこの場でするにはあまりにも異質で、それだけで強く僕の目を惹いた。

 僕が一点に視線をやっているから彼の周りの人達が口々に自分と目が合っていると叫び、その声に納得した表情の彼が周りに合わせて僕へ向かって手を振る。

 何もかもが他と違う彼から目を逸らせず、無意識に彼へと向かって足を踏み出していた。

 世界は僕の意思を尊重するから彼との間にいた邪魔な人達はみんな自分から避けて彼への道を作ってくれる。

 困惑しながら周りに合わせて横へ動く彼に笑いそうになる。

 僕は君に用があるのに、こんなに目を合わせているのにまだ僕が自分に用がある事が分からないんだ。

彼の前で歩みを止め、ジッと薄茶色の目を見つめる。

 他の人達なら僕がこうしてジッと見つめているだけで恍惚とした表情になり僕の事を好きになるのに彼は何故自分を見つめているんだとばかりに困惑した表情をするだけでそこに僕への好意は欠片も感じられない。

 それが本当に信じられなくて、嬉しくて笑顔を浮かべたら彼の周りの人間が倒れたりしたけれども、彼は微塵も揺らがなかった。

 僕を救ってくれるのは彼しか居ない、そう確信した僕は言った。


 「僕と仲間になってくれ!」



✻✻✻


 今までの人生で向けられた事の無い、暗く諦念した強い拒絶が彼の目に浮かび、僕の勧誘は素気無く断られた。

 拒否されるとは思っていなかった僕は他と違う所が気になったのに他の人と同じ様に僕の要望を受け入れて貰えると思っていた自分の矛盾に気付き、恥じた。

 僕のお願いを彼が断わった事で周りは騒ぎになり、お披露目は中止になってお城に戻る事になったから彼とはそこでお別れになってしまった。

 でも、彼とはその内に会えるだろう。

 本人が拒絶した所で周りの人達が僕の希望を叶えてくれる事は分かっている。

 どうして彼が他の人間と違うのか、それが知れたら良いなと僕は城に向かって揺れる馬車の中で笑みを溢した。


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