朝起きたら布団が吹っ飛んだ~伏木さんの周りでは不思議なことが起きる~
伏木さんの周りでは不思議なことが起きる。
「先生、朝起きたら布団が吹っ飛んで遅刻しました」
「嘘つくならもっとマシな嘘つけ」
呆れたように言い放つ先生に、伏木さんは「いや、本当なんですって!」と訴える。
「朝起きて、布団から出ようとしたらカチッて音がして……布団ごと爆風に押し上げられて、天井に頭ぶつけたんです」
「むしろ、よくそれで済んだな……」
「はい、私も自分の家の布団が吹っ飛ぶとは思いませんでした」
「吹っ飛んだのはお前の頭じゃないのか?」
「信じてください! 本当なんですって!」
信じられるか、そんなもん。
そう言いたいのをぐっと堪え、先生は「だったら、なんで吹っ飛んだんだよ」と問いかけてみる。
「誰かが布団の下に爆弾でも仕掛けたのか? 百億歩譲ってそうだったとして、なんでお前の布団にそんなもん仕掛けるんだよ」
「それが……近所の人にも話を聞いてみたら、布団が吹っ飛んだのはウチだけじゃなかったみたいなんです」
「はぁ?」
教師という立場を忘れ、完全に素に戻ってしまった先生。
伏木さんの家には家庭訪問に行ったことがあるが、彼女は確か団地に住んでいたはずだ。
複数の家庭が集まった団地で、爆発が立て続けに起きるなんてことあるか? この町はいつから見た目は子ども、頭脳は大人のやたら殺人事件に遭遇する小学生が住むようになったのか?
混乱する先生の前で、冷静に伏木さんは説明を続ける。
「どうも布団が吹っ飛んだ家はどこも同じ日……今週の日曜日に布団を干したみたいなんです」
「天気のいい休みの日に、布団を干す……至って平和な光景だな」
「でも、ちょうどその日に寝具メーカーのセールスマンがやってきたみたいで……そのせいじゃないか、ってみんなで噂してるんですよ」
なんだかんだ伏木さんの話を聞いてくれる先生は、「いや、セールスマンが何したっていうんだよ」と合いの手を入れてくれる。伏木さんはさらに続けた。
「だって、寝具メーカーのセールスマンですよ? 布団が吹っ飛べば、それだけ布団の需要が高まる。だから、布団が爆発するように仕向けて……」
「待て待て待て待て。なんでそうなる。そいつがどうやって爆弾を用意した? どうやってそれを仕掛けたってんだ?」
「……そういう能力を持っていて、布団が爆発するようにしておいたとか?」
「どんな物騒な能力持ったセールスマンだよ……ここ、行方不明者が多い奇妙な町だっけ?」
なんか独特の効果音が聞こえてきそうな気がする先生は、頭を抱える。
にわかには信じられない話だ。だがこの伏木奈々という生徒の周りで不思議なことが起こるという噂はたまに聞いている。
信じるべきかどうか……いや、信じたとして遅刻は遅刻……そんなことを考え、ふと思い立つ。
「そういえば……お前、布団が吹っ飛んで天井に頭ぶつけたって言ってたけど怪我はなかったのか?」
「あ、それは普通に氷嚢で冷やしたので大丈夫です」
「なら、いいが……けれど、そしたら『怪我で遅刻した』って言えば良かっただろ。っていうか、病院には行かなくて良かったのか?」
「あ……それは、その……」
途端に伏木さんが言葉を濁し始める。
「えっと……ソファで頭を冷やしてたら気持ちよくて、そのまま寝ちゃって……」
「それ、普通に二度寝じゃないか……? っていうか、それなら『学校休む』って連絡入れろよ」
「いやー、走ったらいつもの電車に間に合うかなって思ったんですけど途中で近所の人に会って、さっきの爆発の話を聞いてたらつい話に花が咲いてしてしまって……」
「結局ただの遅刻じゃねーか!」
思わずツッコむ先生に伏木さんは「ごめんなさーい!」と即座に頭を下げる。
「布団が吹っ飛んだ」なんて話はせずに、最初から素直にそうすれば良かっただろう。
二人のやり取りを見守っていたクラスメートは、内心そう思いながら相変わらず伏木さんの周りでは不思議なことが起こると思うのだった。




