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奴隷から暗殺者へと転身する死神

世界には、国が存在する。

そして、国が産まれるには理由が存在する。


その中のひとつであるノクターン王国は、いかにして建国されたのか。

それに関しては、王国内の禁書庫であっても掲載されていない経緯が存在していた。

王族にとって不利益になる情報があるからこそ、記載されていない歪な愛情が産んだ昔の物語。


全ての始まりは、天界にて死神たちを統括していたタナトスの勤務体勢にあった。

ここ最近は死者の数が落ち着いてきたというのもあり、暇すぎて職務放棄をしていた。

他の死神たちは、細々とした雑務をこなす中その筆頭が怠惰なのはいかがなものか。

そこで主神ゼクシオンはタナトスを呼び出した。


「そんなに暇なら、ちょっと地上で転生してきてよ」

「はぁ?そんな簡単に地上落ちするとか、どっ……はぁあああああ?!」


タナトスが反論する途中で、無慈悲にもゼクシオンは天界から地上へ突き落とした。

再びタナトスが目を開けた時、そこは地獄の光景が広がっていた。

自分自身はまだ赤子だが、両親の瘦せこけた姿。

両親を視認できた瞬間に抱き締めていた母親は、そのまま倒れてしまい冷たくなってしまった。

産まれた瞬間に、両親はあの世に召されてしまったのだ。

状況を理解できないタナトスだったが、それは三歳を迎えた頃にようやく理解できた。

地上の自分自身は、奴隷だった。

劣悪な環境の中で貴族にこき使われ、朝から晩まで働かされる。

少しでも失敗すれば、食事なしや体罰など悲惨な有様だった。


(まさか、天界で堕落していた俺が奴隷落ちするとは……)


おそらくゼクシオンも予想していなかったはずだ。

それでも、生き残ることに必死で順調に成長しながら奴隷ながらも、屋敷の下働きにまで昇格。

雑ながらも髪を整えられて、井戸の水で身体を綺麗にしてもらうとそれなりに見目が良かったらしい。

雇い主である貴族が、こちらを舐め回すような視線を向けている。


「おい、奴隷699よ。今夜、儂の私室へ来なさい」

「……承知しました」


雇い主の命令は逆らえない。

一体、どんな体罰をされるのかと不安に思いながら、私室へと向かうと妙なお香が炊かれていた。

裸の雇い主の周囲には、同じく裸体の女性が発情した猫のように擦り寄っている。

おそらくこの女性たちは、性奴隷。雇い主の性欲を満たすための道具となった存在。

知ってはいたが、酷く気持ちが悪い。


「来たか。奴隷699に命令する、儂の性奴隷になれ」

「……は?」

「やせ細ってはいるが、その美しい顔立ちがたまらなくてなぁ……さぁ、儂に奉仕せぬか!」


何を言っているんだ、この男は。

俺は男だ。どうしてこんな薄汚い脂ぎった欲望まみれの男に性的奉仕をしなくてはならないんだ。

今まで耐えてきた感情が爆発し、近くにあった果物ナイフを手に取るとその貴族目掛けて突き立てた。

周囲にいた性奴隷の女性たちが離散する中、何度も何度も心臓を突き刺していく。

そして、我を取り戻した瞬間、目の前にいた雇い主は絶命していた。


(マズい。このままだと、処刑される……!)


果物ナイフを貴族に突き立てたまま、俺はその部屋を飛び出して屋敷からも逃げ出した。

外は暗闇。逃げた先にあるのは、深い森。

この森に入ると二度と戻れないとされる迷いの森だ。

それでも、処刑されるよりかはマシだ。そう思い、ひたすら森の中を駆けていく。

さすがに体力がないせいか、だんだんと足取りは重くなり、最後にはそのまま地面へと倒れてしまった。


(あぁ……ここで、俺は終わるのか……)


主神の事を内心罵りながらも、この最悪な状況から解放される安堵感に浸りながら死を待っていると上から人の気配がする。

ひとり現れたと思えば、さらにもう二人現れる。


「奴隷か。血まみれだが、怪我をしているのか?」

「……いや、おそらく誰かを殺したみたいだ。返り血だな」

「おい、坊主。お前さん、まだ生きているか?殺した貴族みたいに、薄汚い連中に復讐したいと思わないか?」


汚い貴族に復讐をする。その言葉に、俺の意識が浮上していく。

そうだ、この世界は薄汚い連中が蔓延っている。世界の害悪を取り除かなければ、搾取されて潰れる運命。

このまま死んで楽になっても、また転生して奴隷になってしまう可能性だってある。

なんとか自力で立ち上がると、提案をした男を見上げる。

黒いフードを付けているが、顔立ちは整っていて金髪に碧眼。まるで王族のような男だった。


「その様子だと、覚悟は決まったようだな。来い、坊主。俺たち暗殺専門の傭兵団に迎えてやろう」

「……よろしく、統領」


ひと目でリーダーだと気づかれて驚いた顔をしている。

いくら奴隷落ちしたとはいえど、神力は残されている。全てを見透かす神眼を使えば、誰がどの立場なのか理解できる仕組みだ。

軽々と俺を片手で抱き上げると、そのまま俺は傭兵団のメンバー入りを果たした。

あまりにも小柄で痩せていたので、少しずつ食事の量を増やしていくと身体にきちんと肉がついてくるのがわかる。

それに、統領自ら暗殺者としての指導をしてくれて、気づけばそれなりの年数が経過していた。

傭兵団に加入してまもなく十五年になろうとしていた頃、いつも通り任務を終えて統領に報告してすぐに次の指令が出た。


「帰ってきてすぐで悪いが、次の任務が入った。向かってくれるか、フォウ」

「もちろん。任務先はどこなんだ?」

「ノクターン小国の北部にあるレクエム領の領主城だ。その王城に住む貴族共を皆殺しにしろ」

「潜入捜査の上での暗殺か。服装は現地調達でいいか?」

「あぁ、お前のような美しい奴ならメイド姿でも執事姿でも似合いそうだ」

「はんっ、世辞が上手いこった。じゃあな、統領。俺がいなくても、きちんと食事はしろよ」


十年以上も共に生活していると、メンバーたちの癖が理解できる。

その内の統領は、まだまだ傭兵団を率いる身でありながら食事を疎かにしがちだ。

俺には沢山食えという癖に、自分はほとんど食べない。なので、見習いの頃はずっと統領に食事をさせる役目は俺だった。

その俺も食事に興味はないが、取った方がいいというのは理解できる。

美味しかろうが不味かろうが、食べなければ生きられないからだ。


「……うーん、フォウはすっかり俺の母様みたいになっちまったな……?」

「統領が食べないからだろ」

「えぇ……これでも前より食べているんだけど?」

「嘘つき。フォウが居ないところじゃ、抜きがちじゃないか」

「はは、団員たちはよく見てるな!」

「笑いごとじゃないっての!」


俺の後に加入した現在、チーム内でも第六位のシックスが統領を叱る声が聞こえてくる。

大きくため息を吐いた後、俺は仕事モードへと頭を切り替えて、レクエム領の領主城へと潜入を開始した。

王城内部を神眼で確認し、最も近いところはメイドがいるエリアだった。

女装するのはあまり好きではないが、仕方がない。

まだ新しいメイド服を一着借りて着替えると、新任メイドしてメイド長に挨拶をした。

化粧も手慣れたものだ。統領の奥方に指導を受けておいて正解だった。

新任メイドとして、皆が寝静まった頃に俺は動き始める。まずは、領主を暗殺。次に、奥方を暗殺。

その近くの部屋で泥酔した長兄と次男も暗殺に成功した。

残るは、三男だけだ。

兵士たちが気づかない内に、残りひとりを探していると末の三男は離れの部屋のバルコニーの外に居た。

背後に忍び寄りそのまま刺殺しようとした瞬間、こちらを振り向かれた。


「なっ……!どうしてッ……!」


今まで誰一人として俺に気付いた奴はいなかった。

それなのに、どうしてこいつだけ。焦って距離を取り、睨みつけると末の三男がアタフタし始めた。


「あ、ごめんなさい。あまりにも美しい人だったから、見惚れていました」

「……はぁ?」


返り血ではあるが、血濡れのメイドを見て美しい人ってこいつは目がおかしいのだろうか。

思わず素の声が出てしまい、末の三男は「男性……」と呟く。

俺はこの時が、まさか人生の最大の分岐点になるなんて思いもしなかった。

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